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最弱弓術士、全距離支配で最強へ  作者: ルベン
season1

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第25話:ストーム・ウィスパー、真の力

 1. 霊峰の絶壁:極限の精神戦


 極北の霊峰『アイギス』。その頂上付近は、空気さえもが凍てつく絶対零度の世界だった。


 リアンは、背中に意識を失ったマリナを背負い、猛烈な吹雪の中を一人進んでいた。彼女の体内を蝕む「魔力汚染」は、もはや一刻の猶予も許さない。


「……ハァ、ハァ……あと、少しだ……」


 リアンの指先は感覚を失い、喉は焼けるように熱い。彼のナノ・サイトは、極低温による演算能力の低下でノイズが混じり始めていた。


 そこへ、最悪の追撃が訪れる。


「逃げ切れると思ったか、リアン・アークライト」


 空を割り、降り立ったのは、以前王宮で退けたはずの序列三位、静寂の騎士ゼノン。そして彼が引き連れる、円卓の強化魔導兵団だった。彼らは、リアンの疲弊を見透かしたかのように、包囲網を狭めていく。


「マリナ君の命は、あと数分。そして君の集中力も、この寒さと疲労で底をつく。……その弓を差し出せ。

 さすれば、彼女の苦しみを今すぐ終わらせてやろう」


 ゼノンの「絶対静止」の領域が広がり、周囲の雪片が

 空中で静止する。リアンにとって、それは死の宣告に等しい静寂だった。



 2. 絶望の中の共鳴:叔父の「声」


 リアンは、震える手で『ストーム・ウィスパー』を握りしめた。


 だが、今の彼には、ゼノンの領域を撃ち抜くための魔力も、集中力も残っていない。視界がかすみ、膝が折れそうになる。


(……叔父さん。俺は、ここまでなのか……。誰も守れず、弓の力も引き出せず……)


 その時、弓のグリップを通じて、温かい「記憶」がリアンの脳内に流れ込んできた。


 それは、叔父アルスがこの弓を叩き、作り上げていた時の情景。


『リアンよ。この弓はな、お前の魔力を奪うための器じゃない。……お前の「意思」を、世界の風に乗せるための翼だ。お前が自分を信じなくなった時、この弓はお前の心臓になる』


 叔父の幻聴が、リアンの心臓を強く叩いた。


 リアンは気づいた。これまで自分は、弓を「道具」として制御しようとしていた。だが、この弓は、叔父が遺した「愛」そのものだったのだ。


「……ああ、そうか。俺は、一人じゃなかったんだ」


 リアンの目から涙がこぼれ、それが凍る前に、弓が眩いばかりの黄金色の光を放ち始めた。



 2. 真の解放:神業の一矢ディバイン・アロー


「ストーム・ウィスパー……真の力を、俺に貸してくれ!!」


 リアンが叫ぶと同時に、弓の形状が激変した。


 展開されていたブレードが魔力と融合し、弓全体が巨大な光の翼のような姿へと変貌する。蓄積されていた魔力貯蔵庫が全解放され、周囲の絶対零度の空気が、一瞬にして熱風へと変わった。


「な……!? 魔力反応が測定不能だと!?」


 ゼノンが驚愕し、絶対静止の領域を最大展開する。


 リアンは、もはやナノ・サイトを必要としなかった。


 彼の集中力は、霊峰全体を流れる風、地球の自転、そしてマリナの生命の鼓動と完全に同調していた。


 リアンは、矢を番えずに弦を引いた。


 そこには、大気中の魔力とリアンの不退転の決意が結実した、純白の「光の矢」が生成されていた。


「弓術の極致――『神業の一矢ディバイン・アロー』!!」


 放たれた一射は、ゼノンの「絶対静止」を、紙細工のように容易く引き裂いた。


 時間は止まらない。空間も拒まない。


 矢はゼノンの領域を貫通し、背後の魔導兵団を一瞬で浄化の光の中に飲み込んだ。


 それは、破壊の矢ではない。


 世界の歪みを正し、不要な悪意を霧散させる、「再生」の矢だった。



 3. 聖域の扉と奇跡


 光の余波が収まった時、ゼノンはその場に膝をついていた。彼の銀色の鎧は砕け散り、その瞳からは戦意が消え失せていた。


「……これが、アルスの……そして、お前の……」


 ゼノンが消滅するように退散した後、リアンの目の前にある巨大な氷壁が、弓の光に呼応するように音を立てて割れた。


 そこには、伝説に語られる「聖域の泉」が、湯気を立てて輝いていた。


 リアンは最後の力を振り絞り、マリナをその泉へと横たえた。


 泉の聖なる水が、彼女の肌に触れた瞬間、体内を蝕んでいた黒い汚染が、光の粒子となって抜けていく。


「……ん……りあ、ん……さん……?」


 マリナの瞳がゆっくりと開き、彼女は自分を抱きしめるボロボロの青年を見上げた。


 リアンは、彼女の温もりを感じ、ようやく深く、長い溜息をついた。


「おかえりなさい、マリナさん。……間に合って、よかった」


 リアンの手にある『ストーム・ウィスパー』は、以前よりも静かに、しかし力強く脈打っていた。


 弓術士を最弱と呼ぶ者は、もうこの世界にはいない。

 リアンは、叔父の遺した本当の力を手に入れ、一人の青年から、世界の理を担う「真の冒険者」へと脱皮したのだ。


 だが、聖域の奥底で、リアンは予感していた。


『影の円卓』の総帥エグゼスが、最後の切り札――王国そのものを生贄にする「終末の儀式」を開始したことを。


 リアンとマリナの最後の戦いは、今、最終局面へと向かおうとしていた。

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