表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱弓術士、全距離支配で最強へ  作者: ルベン
season1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/29

第23話:特異点穿孔

 1. 反転迷宮の最深部:魔力の祭壇


 重力が螺旋を描き、空間が幾何学的に歪む『反転迷宮』。その最深部に、リアンは辿り着いた。そこは天井も壁もない、銀河のような魔力の奔流が渦巻く異空間だった。


「……っ、マリナさん!」


 リアンの視線の先、空間の「特異点」に、彼女はいた。

 だが、その姿はリアンの知る優しい治癒師のものではなかった。マリナは透明な魔力結晶のなかに閉じ込められ、全身から無数の光の糸が伸びている。その糸は迷宮全体と繋がり、彼女の膨大な生命エネルギーを「影の円卓」の魔力源へと変換していた。


「無駄だよ、リアン。彼女は今やこの迷宮の心臓……いや、我々の『神』を降臨させるための魔力触媒マナ・リアクターだ」


 虚空から総帥エグゼスの声が響く。


「彼女を守りたければ、彼女自身が放つ『死の光』を耐え抜いてみせるがいい。今の彼女に、君を認識する心は残っていない」


 結晶の中のマリナが、ゆっくりと目を開けた。その瞳には感情の色はなく、冷徹な魔力の輝きだけが宿っている。彼女が指先をリアンに向けると、そこには回避不能な規模の破壊エネルギーが収束し始めた。



 2. 慈愛の試練:防衛兵器となったマリナ


 ドォォォォォン!


 マリナの指先から放たれたのは、かつてリアンを救った「治癒の魔力」を極限まで反転・圧縮した『滅びの閃光』だった。


 リアンはナノ・サイトと振動弓術を全開にし、その閃光を紙一重で回避する。だが、着弾した背後の空間が音もなく消滅するのを見て、リアンは戦慄した。


(マリナさんの魔力を利用して、空間そのものを崩壊させているのか……! 下手に攻撃すれば、その衝撃は全て触媒であるマリナさんの肉体に跳ね返る!)


 リアンは弓を引くことができなかった。


 敵を倒すための矢は、今の彼には毒でしかない。


 だが、マリナの攻撃は容赦なく続く。彼女は無感情な兵器として、最愛のパートナーを抹殺しようとしていた。


「リアン……逃げ……て……」


 一瞬、通信機のようにマリナの掠れた声がリアンの脳内に直接届いた。彼女の意識は、まだ結晶の奥底で抗っている。


「逃げません。……あなたを、必ず連れて帰る」


 リアンは覚悟を決めた。


 彼が狙うのは、マリナの肉体ではない。彼女を縛り、魔力を吸い上げている「魔力結合の特異点」。


 マリナを傷つけず、彼女と組織の接続だけを断ち切る。


 それは、数万本の光の糸のなかから、一分子の誤差もなく「核」となる一本だけを射抜くという、人知を超えた狙撃だった。



 2. 究極の精密射撃:特異点穿孔シンギュラリティ・ショット


 リアンは、超感覚集中フォーカス・ゼロの限界を超えた領域へと踏み込んだ。


 脳に掛かる負荷で、目、鼻、耳から鮮血が伝う。だが、彼の視界は、ついにマリナを取り巻く因果の糸を捉えた。


(マリナさんの心臓の鼓動と、迷宮の魔力脈動が重なる――100万分の1秒の静止。そこだ)


 リアンは『ストーム・ウィスパー』の魔力貯蔵庫を「逆流」させた。


 自分の魔力を矢に込めるのではなく、周囲の「反転した魔力」を矢の先端で相殺し、「完全な虚無」の矢を作り出す。


「究極精密射撃――『特異点穿孔シンギュラリティ・ショット』!」


 放たれた矢は、光すら発しない。


 それは空間の歪みを逆に利用し、反転した重力に従って「ありえない軌道」を描きながらマリナへと迫る。


 エグゼスが嘲笑う。


「外れだ! 彼女の右を通過したぞ!」


 だが、その瞬間。


 矢が通り過ぎた空間が、リアンの計算通りに「再反転」した。


 矢はマリナの右脇を通り過ぎた直後、反転した重力によって180度旋回。マリナの背後、組織が最も隠していた『魔力供給の結合核』へと、後ろから突き刺さった。


 パリンッ……!


 ガラスが割れるような美しい音と共に、マリナを縛っていた光の糸が次々と霧散していく。



 3. 崩壊する迷宮、そして奪還


「な……馬鹿な! 物理法則を逆手に取って、死角から核を射抜いただと!?」


 エグゼスの驚愕の声と共に、魔力源を失った反転迷宮が激しく崩壊を始めた。


 結晶が砕け、マリナの体が宙に投げ出される。


 リアンは弓を捨て、全速力で彼女のもとへ駆け寄った。


 崩れ落ちる瓦礫のなか、彼は力なく落ちてくるマリナを、その腕の中にしっかりと受け止めた。


「……リア……ンさん……?」


 マリナの瞳に、温かい光が戻る。彼女の頬に触れるリアンの手は血まみれだったが、その温もりこそが、彼女にとっての「世界の真実」だった。


「遅くなって、すみません。……もう、離しません」


 リアンは彼女を抱きかかえ、崩壊する迷宮の出口へと走り出した。


 背後ではエグゼスの憎悪に満ちた咆哮が響いていたが、リアンにはもう届かない。


 Aランク冒険者リアン。彼は今日、一国の軍隊に勝る武力ではなく、ただ一人を守るための「極限の精密」によって、理不尽な運命を射抜いてみせた。


 だが、この事件は組織『影の円卓』との全面戦争の、ほんの序章に過ぎなかった。


 リアンは意識を失ったマリナを抱きしめながら、迷宮を脱出し、決戦の地へと向かう決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ