第16話:過去との邂逅:叔父の真実
1. 王都の喧騒と地下の情報屋
王都ヴェリタス。その華やかさと、冒険者ギルドの規模は、アストリアとは比べ物にならなかった。リアンとマリナは、王都の喧騒の中に身を隠すように活動を始めた。
Bランクとして登録されたリアンは、その異端な弓術ゆえに、王都のギルドでもすぐに注目を集めた。しかし、リアンの目的は名声ではない。『影の円卓』の情報を得ることだ。
「リアンさん、王都のギルドは情報規制が厳しくて、闇の組織の噂なんて簡単には手に入らないわ」
マリナが焦る。
「ギルドは表の組織です。必要な情報は、裏社会の『流れ』の中にあります」
リアンは、叔父アルスが残した奥義書の中に記されていた、古い人脈の記録を頼りに、王都の裏路地にある、怪しげな工房を訪れた。
工房の主は、バルカスという名の老いた元魔道具職人だった。片目を失い、全身にオイルと煤を纏っているが、その瞳は鋭く、王都の裏社会の技術の流れと、権力構造に精通しているという。
「ほう。アルスの弓を持った若造か」
バルカスは、リアンの『ストーム・ウィスパー』を一瞥し、深い皺の刻まれた顔を歪めた。
「バルカス殿。叔父のアルスから、あなたの名を聞きました。俺は、叔父の死の真相と、『影の円卓』という組織について知りたい」
リアンは、報酬として、今回の刺客との戦闘で得た魔力の残渣を見せた。
バルカスは、その魔力残渣をルーペで観察し、驚きに目を見開いた。
「これは……『影の円卓』の痕跡だ。彼らは、王国の技術者や学者を裏で操る、闇の組織。彼らが、まさかお前の叔父の弓を狙っていたとはな」
2. 叔父の技術と命を狙った理由
バルカスはリアンを工房の奥へと招き入れ、重い口を開いた。
「アルスは、この世界で最も偉大な武器職人だった。だが、彼の真の才能は、『魔力に頼らない技術の可能性』を追求したことにある」
バルカスによると、王都の技術界は、魔力を持つ魔法使いが絶対的な優位性を持っていた。しかし、アルスは、リアンの『集中力』を前提とした弓術、そして『ストーム・ウィスパー』を通じて、魔力を持たない者が、魔力を凌駕するという革命的な理論を実証しようとしていた。
「『影の円卓』の真の目的は、『世界の技術の独占』だ。彼らは、魔力こそが世界を支配する唯一の力であると信じ、その力の源である『古代の技術』や『特異な才能』を全て自分たちの支配下に置くか、『破壊』する」
「叔父さんの弓は……彼らにとって『魔力による支配』を否定する、危険すぎる発明だったのですね」
リアンは理解した。
バルカスは頷いた。
「そうだ。アルスは、自身の技術を渡すことを拒否した。だから、奴らはアルスを病死に見せかけて暗殺し、弓を回収しようとした。だが、お前がその弓を持って現れた」
「刺客が俺の弓の『魔力貯蔵庫』の機能を知っていたのは、そのためか……」
リアンの集中力が、彼の命だけでなく、叔父が命を懸けて守った『技術の自由』という、より大きなものを背負っていることを知った。
3. 影の円卓の恐るべき目的
バルカスはさらに、恐るべき情報を提供した。
「『影の円卓』は、近々、王国の『力の源』である、古代の『魔力中枢』を掌握しようとしているという噂がある。成功すれば、彼らは王国全体の魔力の流れを支配し、魔法使い以外の全ての存在を無力化できる」
その目的は、リアンの弓術が目指す『全距離支配』とは真逆の、『完全な魔力による支配』だった。
リアンは、この情報に戦慄した。彼らの野望が成功すれば、弓術士どころか、魔力を持たない剣士や盗賊、そしてマリナのような治癒師すらも、彼らの手の中で無力化されてしまう。
「王国の魔力中枢を……」
リアンは、自身の奥義書をもう一度確認した。
奥義書の最終ページには、叔父が最後に書き遺したと思われる、震える文字があった。
リアン。
この弓の究極の力は、魔力貯蔵庫ではない。
それは、『魔力中枢への干渉』だ。お前の集中力をもってすれば、ストーム・ウィスパーを媒介に、世界の魔力そのものの流れを『一時的に制御』できる可能性がある。
この一文は、リアンの弓術が、単なる戦闘技術ではなく、世界の命運に関わる可能性を秘めていることを示していた。
4. 宿命と誇りを胸に
バルカスは、リアンの真剣な瞳を見て、何かを決意したように言った。
「お前の弓は、アルスが『影の円卓』に対抗するために遺した、最後の希望なのかもしれない。気をつけろ。奴らは、お前が想像する以上に、巨大な権力と、特殊な技術を持っている」
リアンはバルカスに深々と礼を述べ、マリナと共に工房を後にした。
王都の光は、以前よりも暗く、リアンの目には、この華やかな都市の裏に潜む巨大な悪意の影が見えていた。
「マリナさん。俺たちの戦いは、個人的な復讐ではなくなった。叔父さんの弓が狙われた理由、そして『影の円卓』の目的は、この世界の自由を奪うことです」
「分かっているわ、リアンさん。私も治癒師として、彼らの野望を阻止する手助けをする。治癒師も、魔法使いの支配下にあるべきではない」
リアンは、自身の背中の『ストーム・ウィスパー』の重みを改めて感じた。この弓は、叔父の命と、弓術士の誇り、そして世界の自由を賭けた、宿命の証だった。
「奴らは必ず、また来る。それも、以前より強力な手段で。王都にいるうちに、奥義書の技術を完成させなければならない」
リアンは、『影の円卓』の次の動きを予測し、戦闘の準備を急ぐ。彼の集中力は、既に、彼らを打ち破るための戦術と、奥義書に記された究極の技術を組み合わせることに向けられていた。




