3-2
「カイ様、いい加減に調子戻してください」
ダリアは表情こそ変わらないが痺れを切らした様子で言う。
アルのお見舞いから1週間。おそらく風邪は治っただろうという頃ではあるが、あれから手紙が届いていない。
熱を出している彼に追い打ちをかけるように酷いことを言ったのだから、嫌われて当然だ。
ようやく王子からの婚約からも解放されたというのにカイの心はちっとも晴れなかった。
何事も無かったかのように過ごしていたが、ダリアの目は誤魔化せないらしい。部屋にもなんとなくどんよりとした雰囲気が漂っており、ここ1週間彼女はカイにあれやこれやと手を尽くしたが変わらなかった。
「いい加減、お見舞いで何があったのか教えて頂けませんか?手紙、来ないですけど」
ダリアには見舞いの出来事を話していない。自分の弱さを曝け出すようで躊躇われたからだ。
自分の無能さをいつもはなんとも思っていない風を装って実は本心では悩んでいました、など恥ずかしくて言えるわけがなかった。
カイは「何があったか」の部分は伏せ、結論だけ伝えることにした。
「……嫌われた」
「え?聞こえませんよ。もっと大きな声で!」
「王子に嫌われた!」
ダリアはあっけらかんとした様子でしばらく固まると、動き出したかと思えばカイの机に両手を叩きつけた。
バンッ!!
あまりの勢いにカイは肩を跳ねさせた。
「カイ様、それでいいんですか!」
「いいも何も無いだろ、これで婚約の件も無しだ。気が軽くなったよ」
「誰が見てもそんな風には見えませんが?」
机の上に置かれた両手がギリギリと音が鳴るほど強く握りしめられ、カイが顔をあげると今にも食い殺されそうな相貌が見えた。
「ひっ!」
あまりの恐ろしさに思わず小さな悲鳴をあげる。
「あれだけ楽しそうにされていたのに。あんなに心の底から楽しそうなカイ様、久しぶりに見たんですよ」
ダリアはそう言うと、先ほどとは打って変わってどこか悲しみを含んだ面持ちになった。
「俺はいつでも楽しそうだろ」
カイは意味が分からないというように目を逸らした。
いつも自由に生きてきたカイにとって楽しいことは「日常」なはずだ。それを心の底からは楽しんでいないと言われているようできまりが悪い。
「分からないならいいですけど。とにかく、早く調子を戻していただかないと、この部屋に湿気でカビが生えそうです」
彼女はいつも通りの軽口を言うと、窓を開け空気を入れ替え始めた。
外からは梅雨が過ぎ去り、夏の香りがほんのりとする穏やかな風が入ってくる。
すると外の様子が目に入ったダリアは何かを見つけたように「あっ」と声を漏らした。
「ん?」
「か、カイ様……あの馬車って」
「あの馬車?」
カイもダリアの隣に並び窓の外を眺める。
するとそこには王国の紋章が入った1台の馬車があった。
「え、もしかして……」
「もしかしなくても、そうですよ!カイ様、玄関!お出迎え!」
ダリアは目をキラキラと輝かせながらカイの肩をでバシバシと叩くと、急いで部屋から出て行った。かと思えば、扉から顔を出して「カイ様も!」と言い、再び扉が閉まる。
カイもクローゼットからジャケットを取り出すと早足で玄関へと向かった。




