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2-2

しかし、予想に反して王子からの手紙が再び届いた。


《お返事ありがとうございます。

 お手紙を読んでいて気が付いたのですが、私にはカイ様のことを「カイ」とお呼びするようにと言ってくださいましたが、それなら私も「アル」とお呼びください。

 それに、カイは堅苦しい話し方は苦手ですよね?話し方も変えましょう。

 その方がきっと仲良くなれますから。

貴方と仲良くなりたいアルミス より》


 これは、あの手紙の仕返しとしか思えない。カイを嫌うどころか、対抗心に火をつけてしまったらしい。

 しかし、カイも折れるわけにはいかない。


《それではアル様と呼ばせてもらいます。様は外しませんからね?話し方も少し砕けますけど後で文句は受け付けませんよ。

 ところで父様が言ってましたが、アル様はご友人がいないと聞いてます。

 学園でも俺の手紙と同じように話しかけてみてはいいかがでしょう。

すぐにお友達もできますよ。

友人が多いカイルア より》


 父から聞いた話を引き合いに出して心を折る作戦だ。これなら行けるだろうと自信満々に手紙を出す。

ーーーしかし。


《様を外していただけないのは惜しいですが仕方がありませんね。

 それで友人がいない事ですが、それは違いますよ。

 友人は作ろうと思えば作れるのです。ただ、友人がいても私は忙しいので遊んだりはできません。

 それに、私が話をしたいと思うのはカイだけですから。

カイのためのアルミス より》


 ああ言えばこう言う精神で距離を詰めてくる。

 しかもどこで知ったのか、恥ずかしい口説き文句付きだ。この人は本当に10歳なのか?と疑いたくなるほどだ。

 もしかすると中身は立派な成人男性で、王子の皮を被っているのかもしれないとさえ思えてくる。


《アル様、俺はそんな言葉では落とせませんよ。

 もう少し俺の好みになってから言ってください。

 それにお友達との交流も大事です。そこから得られるものもありますからね。

 この世に無駄なことなど存在しないのです。

誰のものでもない自由なカイルア より》


 今度は説教じみたことを書いてみる。

 すると、返事はこうだった。


《そんな安い言葉で落とせるだなんて思ってませんよ。

 でも、カイの好みは気になりますね。ぜひ教えてください。きっとあなた好みの大人になってみせますから。

 それから、友人の件も。あなたがそう仰るのなら、友達も悪くはないのかもしれませんね。いつになるのか分かりませんが、いつかの手紙を送る時には友人の話をできるようにしますので楽しみにしていてください。

成長中のアルミス より》


 「成長中のアルミス」の部分は明らかに気合いの入った筆圧が強めの文字で書かれている。

 それがあまりにも面白くて、この手紙には思わず笑ってしまった。


 手紙は3日に1回のペースで届いた。

 週に約2回。毎度毎度カイの話に食いついてくるアルミスからの手紙に返事を送ることがいつしか日課になっていた。


《俺の好みは頭が良くて身長も高く、スラッとした体型の綺麗系のお姉さんですよ。

 そもそも、男性が恋愛対象ではないので……


「カ……さま……カイ様、、カイ様!」

「っ?!」


 突然ダリアの声が聞こえて我に返る。

 手紙の返事に夢中になりすぎて彼女の呼ぶ声に全く気が付かなかった。


「あれだけ色々おっしゃっていたのに、今は王子様にご執心ですか?」

「別にそういう訳じゃない」

「そうは言いますけど、手紙が届く日になると窓の外をチラチラと見てますよね」


 カイはギクリとして目をそらした。

 事実、カイは手紙を送って3日ほど経つと配達員が手紙をポストに入れに来るのを窓の外からこっそりと待っていたのだ。

 まさか見られているとは。しかも、1番揶揄われる可能性のあるダリアに。

 カイは今にも消え入りそうな声で「そんなわけない。たまたま配達員が来る様子が見えただけで……」とぼそぼそと言い訳をした。


「アル様はカイ様にさぞ本気かと思いますが。逃げ続けられるのも時間の問題ではないでしょうか」

「でも、まだ1回しか会ってない。手紙のやり取りでどうこうなる訳ないだろ」

「2回目にお会いするのもさして時間はかからないかと思いますが。そのときはどうされるのですか?」


 それもそうだ。実はあれから手紙で何度か王城に来ないかという誘いは受けているものの、予定が合わないからという理由でそれとなく断っていた。

 だが、手紙がこれだけ長く続いている以上ずっと会わない訳にもいかず、業務と言いながら街に出ていることも、その業務が大したことではないことも噂や父から漏れていれば更に質が悪い。


「そうだな……。次に手紙で誘われたときはさすがに行かないといけないだろうな」


 口からは、胸の中にあるモヤモヤを全て吐き出すような大きなため息が出た。それでも、そのモヤモヤが解消される訳ではない。


「アル様との手紙は……正直面白い。面白いんだよ。あの人、全然折れないんだもん。王子だけど気を使わなくて良くて、しかも素直だし。友達だったらどれだけ良かったか……」

「いい大人が《《もん》》なんて使わないでください。気持ち悪いので」


 ダリアは辛辣な一言を放ち、続けて言う。


「塵も積もればとはまさにこの事ですね。カイ様が日々送られてくる手紙にこんなにも振り回されるようになられて」

「なんだそれ」

「東洋のことわざですよ」


 塵も積もれば山となる。手紙も重ねれば情も湧く。

 3日ごとに積み重ねられる手紙の分だけ「楽しい」が増えれば悩みも増えていく。

 父や国王のことを考えずにあっさり婚約を断ってしまえばよかったものを、ずるずると先延ばしにした結果がこれだ。


 王子に情が湧いてしまっている今、彼を傷つけたくないと思うのはカイの良心だった。

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