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1-2

アビルの言う通り、しばらくすると父が戻ってきた。

 

ーーコンコンッ


「失礼します」


 部屋へ入ると、待っていたぞと言わんばかりの悪戯っぽい笑みを浮かべた父の姿があった。

 (これは…国王から聞いているな。)


「カイ、今日の王子との面会はどうだった。」

父様(とうさま)は今日のお話、知っていたのでしょ?」

「もちろんだ。前から国王からは相談を受けていてな。」


 父と国王は学生時代からの友人で、お互い地位を得た今でも交友関係が続いている。父が王城に訪れる理由の殆どは政治の話ではなく、悪友のする会話のそれではないかと思うほどだ。

 そんな父たちが息子同士の婚約について話をしていないわけはないだろう。


「父様、ちょっと楽しんでますよね?」


 怒り交じりに訴えるカイを見て、父は顎に生えた短い髭をぞりぞりと触りながら子どものように笑った。

 こちらは大変な思いをしているというのに。呆れてものも言えない。


「陛下は正式にお触れを出す予定はないから、カイの自由に王子と関わってくれと言われたよ」

「自由に関われですか……王妃様にも似たようなことを言われましたよ」

「王子はご友人がなかなか居ないようでな。それもあって今回の件を承諾したんだ。王宮学園の初等部に通っているが王子という立場では難しいのだろう」


 お触れを出さないということは、この国の人々に周知されることはないということになる。

 カイは胸を撫で下ろした。

 それにしても王子に友人が居ないというのは少し意外だ。初対面の俺に婚約を申し込むだけあって、誰でも分け隔てなく話すことができる性格に見えたからだ。

 同級生が王子と言われると周りが委縮してしまうという理由なら仕方がない。

 それでもグループワーク、課外授業、運動科目では必ず関わりはできるはずだ。そこから進展しないのは王子が原因か、はたまた周りが原因なのか。


「王子は人見知りはしないタイプかと思いますが、だとすればやっぱり周りから距離を置かれているとかなんですかね?」

「陛下の話では教師からは距離を置かれているわけではないと聞いているようだが、プライベートなコミュニケーションが足りないのでは?とは言われているらしい」


 人生で『コミュニケーション』の点においては苦労したことがないためその辺はよく分からない。

 けれども友達の作り方を教えるのは悪い気がしない。

 それに加えて、友達が出来れば俺のことも忘れてくれるのではないかと考えた。


「分かりました。俺、王子のお勉強のために頑張りますね」

「よく分からんがカイの中で何か目標ができたのならそれでいいじゃないか?」


 カイは自分が婚約を申し込まれたことを頭の片隅に無理やり追いやって、王子に教えてあげるという正義感で満たした。そうすることで現実逃避に成功したのだ。

 しかし次の言葉でカイの心はどん底に落とされた。


「それから、王子のお相手をしている間は、家の手伝いはしなくていいからな」

「え……どうして……」

「お前も王子の相手となると、家よりも優先しないといけない場合もあるだろ?だから片手間でできることならいいがいつもの仕事は無理をしてやらなくていいからな」


 家の手伝いと言っても普段やっていることは大したことではない。

 というのも、ここ一帯の領地を治めているウォルン家では税の徴収、問題解決のための調停までありとあらゆる仕事を行っている。その中でもカイが手伝いをしている業務はインフラ関係が主たるものだ。

 街を見回り、不備が見つかれば報告書をまとめ、兄に対応を依頼するという簡単な仕事だ。しかもその仕事自体は民間でもできるため、よく街をふらつくカイのために用意されたと言っても過言ではない。

 それ以外は帳簿の二重確認役や、父が議会に参加する際の付き添いなど、さほど重要な業務は任されていない。


「そう、ですよね。分かりました」


 カイは物分りの良い息子を演じるように笑顔で答えた。

 今ですら片手間でできる仕事をしている。さらに言えば、父も兄たちもこの業務を「仕事」とは言わずに「手伝い」というのだ。それは、もしカイがこの仕事をせずともたいして問題はないということをさしている。

 後ろで組んでいた手に力が入り爪が食い込む。

 そんなにも自分は使えない人間なのか。

 そんなにも自分に家の仕事をさせたくないのか。

 どれだけ優しい言葉でもっともらしい理由を並べられても、その全てが俺を必要としていないと言われているようで胸が苦しくなる。


「今日は長旅で疲れているので部屋に戻りますね」

「それもそうだな。ゆっくりお休み」


 カイは力なく自室へ戻ると、父の言葉が頭を駆け巡るのを必死に振り払うように深い眠りについた。

 明日になれば大丈夫。今日のことは気にならなくなる。父は俺のために言ってくれたのだ。

 そう自分に言い聞かせながら。

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