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2人の話が落ち着いた頃、ダリアとリアムが戻ってきた。
「おや……仲直りされたのですね」
ダリアはカイの目元をチラチラと見ていたが、見なかったことにしたらしい、何か言いかけた口を噤むと安堵したように胸を撫で下ろす。
気づけばかなり長い間「休憩」をしていたようで、少し日が西へ傾き始めていた。
「そろそろ戻りましょうか」
リアムが言うと、片付けが始まった。
その間、アルはずっとニコニコとしていたので「もしかして、早まったかな」という気もしてきたがそれは流石に言わなかった。
そうして馬車に乗り込むと公爵邸へと帰宅した。
別れ際、アルは耳を指さして近づけるように合図をするので、屈んで耳を寄せるとこっそりと囁く。
「さっきの話、お父様やダリアさん達にも聞いてみてください。きっと大丈夫。あなたの心配するような答えは返ってこないはずです」
カイは「……うん、分かりました」と応えると、アルは満足そうに王城へと帰っていったのだった。
夜になり、湯を浴びその日の疲れを癒したあとカイはダリアを部屋へ呼んだ。
「お前に聞きたいことがあるんだけど」
深呼吸をしてアルの言葉を思い出す。
きっと大丈夫。彼の言うことは自分が思っていることよりもずっと信じられる気がした。
「なんで、ダリアは俺にずっと付いていてくれるんだ?俺と居ても、昇進とかもっと地位が高くなるとかないだろうに」
するとダリアは呆れたようにハァとため息をついた。
「カイ様、覚えていらっしゃらないのですか?アル様のことと言い、記憶力が乏しいのではないかと」
いつもの辛辣な台詞を吐くと、文句を言いながらも話をしてくれた。
「私、こんな性格ですし格好もこんなですから、まぁ、最初この屋敷に入った時は周りから色々言われてたんです。」
そういえば、最初は他の侍女から冷たい目で見られていたことを思い出す。
「もちろん、ウォルン家の皆様は出来高重視という考えですから私も特に気にしてはいなかったのですが、放っておいても噂は悪化しました」
確かにその頃になると、よく仕事を押し付けられていたり、ほんのちょっとの物が無くなるなど嫌がらせをされていた記憶がある。
「別にどうでもよかったのですが流石にムカついて、ある日嫌がらせの張本人を突き止めたので懲らしめようとしました。そしたらあなたに止められたのです。」
そうだ、思い出した。
下っ端の侍女に今にも殴り掛かりそうな勢いで拳を振り上げる瞬間に、カイはたまたま遭遇したのだ。
「あなたに止められていなければ気持ちよく殴っていましたが、おそらく仕事もクビになっていたでしょう。その時にカイ様が『お前、強そうだから俺の侍女になれ』と」
今思い返しても、馬鹿な話。
その時偶然、かっこいい侍女が主人の知らないうちに敵を倒すような内容の小説を読んでいたため、憧れがあったのだ。
「あなたみたいな変な理由で私を侍女にしたいという人は他にいないと思い、面白くて付いて行くことを決めました。結果、私の平穏も取り戻せたのであなたのおかげですね」
カイのおかげ。その一言にまた少し、欠けた心のピースがはまる音がした。
「そうか、そういうことだったんだな……」
「あと、カイ様が気になっているであろう公爵様やアビル様方のことですが」
カイの聞きたいことを悟ったのだろう。
ダリアは的確にその疑問についても答えてくれた。
「重要なお仕事をカイ様に振らないのは、あなたにしかできないことが他にあるからだと仰っていました。だから、いつかそれを自分で見つけるまでは手を出さないと」
父は分かっていたのだ。兄もダリアもアルも、みんなが知っていた。自分よりも自分を信じてくれるたくさんの人達。その愛によって今まで生かされていたのだ。
カイはまた泣きそうになった。目から涙がこぼれないように上を向く。
ダリアは気を使ってか、そっと部屋を出た。
今の自分にできること。
そうやって、これからの事を考えよう。
昔捨てたはずの希望を色々な人に拾われ、今カイの手の中には愛情が溢れるほどにあったのだった。




