依頼5:無人の倉庫区画にて 3/3
明確な死臭、そして菌糸繁茂の痕跡が確認されたにもかかわらず、遺体そのものを現認しない限り正式な捜査を開始しないとの方針を示した警察本部。
現場で途方に暮れるほかにない警邏隊員トロンドに対し、リーピは聞き返した。
「放置された遺体が人間にとって危険な病原菌の発生源、および自動人形内部の菌糸繁茂による感染リスクとなる恐れについては先方に伝えたのですか?」
「はい。ですが、間接的な証拠だけを手がかりに捜査隊を動かすことは出来ない……とのことです。」
これが迷いなく実行可能な指示であれば、トロンドはわざわざリーピ達に詳細な事情を告げることなく、自己判断で動いていただろう。
が、人間の身で遺体を確認しに行けば、まず無事ではいられない状況であることは確実だ。遺体の腐敗が進行中であると同時に、菌糸が繁茂している状況は疑うべくもない。全身を覆う防護服など、この場にある筈もない。
現場に実質達成不可能な指示を出す警察上層部の意向は不可解であったが、調査を諦めろとの意向を遠回しに示しているも同然である。市が存在を黙認している非合法な人形解体施設など、警察としてはあまりに触れるのが面倒なロケーションだろう。
あるいはまったく別の問題として、現場の深刻な状況が伝わっておらず、仕事を増やすことを一方的に厭う上官の意向が通ってしまっているケースもありえた。
様々な憶測を巡らせつつも、リーピは再度聞き返した。
「この場で遺体の存在を直接確認できなかった場合は、どうなるのですか。菌の感染リスク以外にも、倉庫が施錠されており開けられないという理由で、現場に踏み込めないケースも考えられますが。」
「本部へと帰還、そして報告書を作成し、正式な命令が下るまで待つしかありません。正式に捜査本部が立ち上げられ、十分な装備を揃えた捜査部隊が結成されるまで、何日かかることか……時間が経過するほど、現場での菌の繁茂は進行するはずです。」
「でしたら、今、僕らが確認しに行きましょうか。自動人形であれば感染のリスクはありませんし、現場に今なお残っている違法業者はいないでしょうから。」
トロンドは一旦、リーピからの申し出を断るように首を振りながら口を開きかけたが、他に手段がないことを即座に悟ったように口を噤んだ。
現場に残されているのは、今なお菌に侵され続けている遺体だけであろう。そんな場所に人間が居残っているはずもないし、万が一の場合も自衛手段を有しているケイリーが同行できる。何よりも、今回の件は放置が長引くほどに、菌糸による汚染拡大リスクが高まっていく。
暫しの沈黙ののち、トロンドは重い口を開いた。
「お願いしてもよろしいでしょうか。想定外のリスクを負う依頼の報酬につきましては上乗せでお支払いします。」
「弾んでいただけると幸いです。それからお忘れなく、僕らが現場に入るのを確認した後は、特殊清掃業者を呼んでおいてください。菌まみれの恰好で、倉庫内から出てくるわけにもいかないので。」
またしても、リーピとケイリーが頭から滅菌剤の白粉を吹きかけられる運命は定まったことになるが、人間ではなく人形であればこそ問題なく引き受けられる扱いには違いない。
トロンドが遠くから見守る中、ケイリーを引き連れたリーピは先ほどの倉庫前まで戻ってきた。
人間か嗅ぎ取れる死臭については、やはり自動人形の嗅覚では分からなかったが、少なくとも菌糸の繁茂に適した湿度の空気が倉庫内から漏れ出ていることは感じ取れた。
「準備は良いですか、ケイリー。とはいっても、この倉庫の扉が開かなければ、そもそも現場に入ることすら不可能なのですが。」
「開いたぞ。」
リーピの合図を待つつもりではあったのだが、ケイリーが扉の取っ手を握っただけで金属製の重い扉は僅かに動いていた。
鍵がかかっているどころか、扉を固定する留め金すら掛かっていない状態だったのだ。違法業者たちは、ことが起きた当日に余程慌てて逃げ出したものと思われる。
施錠されないままの倉庫と、内部から漂ってくる濃厚な死臭。この異様な状況に気づく人間がおらず数日間放置されている事態は、市が効率を求めて街の機能を地区ごとに集約した弊害の一端であった。
リーピは改めてケイリーと目を見合わせる。
ケイリーは事務所から持参してきた防護傘を畳んだ状態で握り締めていた。本来の傘よりも遥かに重量があるため、畳んだまま鈍器として扱うこともできる。
「では、我々は倉庫内部へ向かいます。トロンドさん、特殊清掃業者への連絡、頼みましたよ。」
離れて見守っていたトロンドが頷き返すのを確認し、リーピとケイリーは暗がりの倉庫内へと踏み込んでいく。
入り口の重い金属扉は閉め切った。人間の捜査員が突入する場合は開け放っておくものだが、今回は内部から菌が漏洩する恐れがある。
それに何よりも、内部を調査するのは人間ではなく自動人形であるリーピとケイリーだ。速やかな撤退ルートを人形が確保するために、被害拡大のリスクを取ることは出来ない。
扉を閉めた倉庫内は、照明も点いていないためますます暗い。
「視界は確保できていますね、ケイリー。」
「問題ない。」
死臭に気づけない嗅覚とは違い、視覚については人間を凌駕している自動人形たち。
単に明所での視力だけではなく、暗所における視野確保は人間以外のいずれの既存生物と比しても抜きん出ていた。人形の中枢である菌類が、そもそも暗所で繁茂する性質を有していたこととの関連性が考えられている。
さておき、現状のリーピとケイリーは気の抜けない状況に置かれている。ガラクタが乱雑に置かれているだけの一階で、物陰に何者も隠れていないか慎重に見て回った。
「この倉庫は、地上部分は外観通りに一階層しかないようです。錆びついたコンテナや鋼材が保管されていますが、殆ど廃棄されているも同然の状態でしょう。」
「コンテナ内部は……何も入っていないな。さすがに、倉庫に入ってすぐの場所に遺体が放置されてはいないか。」
もともとが違法な自動人形解体施設であれば、その作業場所も簡単に見つかるような位置には設置されていないだろう。
出入り口は倉庫内部にて巧妙に隠されているはずだったが、入り口が施錠もされず業者が逃げ出した時のまま放置されていた点を鑑みるに、その隠蔽もいいかげんなままになっていると思われた。
……あるいは、状況が悪化する前に発覚するよう、敢えて発見されやすい形で放置されていたのかもしれない。
まもなくリーピは小型のコンテナの脇に、地下へと降りていく階段を発見した。
「床に、幾度となくコンテナを引きずった跡が残っています。本来は、このコンテナで入り口部分を封鎖し秘匿していたのでしょう。」
「業者たちは、元通りにしておく余裕もなかったということか。ここから先は、ほぼ確実に菌糸で汚染されているだろう。」
ケイリーはリーピと共に、一旦完全に動きを止め、黙って聴覚情報に集中する。
菌糸に乗っ取られた人間の身体は、意思なく生前の行動を繰り返して活動し続ける状態になる可能性もある。人形という器の中で成長した菌糸によって動きを制御されているのが自動人形だが、その器が人間の遺体に置き換わったような状態である。
ゆえに、菌糸に宿られた遺体が、自動人形と同様に意思を有して行動する存在となるケースも、非常に稀ながら在り得た。命令に従順であるよう生産された自動人形とは違い、自然発生した個体の場合は周囲へ害をもたらす恐れもある。
……だが、今、地下へと続く階段の向こうからは、何らの物音も聞こえてこなかった。
「行きましょう。遺体が遺体らしく横たわっていれば良いのですが。」
「あぁ。」
畳んだままの防護傘を構え直し、ケイリーが先んじて地下への階段を下りていく。
物音がしないということは、危険性が無いことの証にはならない。内部で活動している存在が居ないか、あるいは意図的に潜んで待ち伏せているか、いずれかだ。
階段を下りきった先の廊下は、物も置かれていない殺風景な光景であったが……ここに来てようやく、ハッキリと見てとれる異常状態が現れる。
廊下に並ぶ扉のひとつ、その下部の床には薄汚れた綿の膜のようなものが広がっていた。
「リーピ、あれは……。」
「活動状態にある菌糸です。枯死していないということは、すぐ近くに養分源となる遺体があるはずです。」
廊下の先にある扉まで、分岐路が無いのは救いだった。地上階に隠れている者はおらず、倉庫自体の出入り口は外で待っているトロンドが見張っている。背後から襲われる可能性は低い。
敵対存在のみならず、何らかのトラップが残されている恐れもある。ケイリーは畳んだ防護傘の先端を突き出し、通路にワイヤー等が張られていないか確認しつつ非常にゆっくりと廊下を進んでいく。
いよいよたどり着いた扉を、そっと傘の先端で押し出せば、錆びついた蝶番の音を軋ませながら金属扉はゆっくりと開いていった。
目標となる対象物を発見したのは、その時のことであった。
「見つけた。遺体だ。」
「戻ってトロンドさんへ報告しましょう。」
リーピとケイリーは自動人形であるがゆえに、ついに目標対象を発見した瞬間も、その無機質なやり取りだけで済んだ。
しかし人間にとっては、仮に訓練を受けた者にとっても、その現場は直視し難い光景であったろう。
人間の遺体が腐敗し、その養分を吸って繁殖する菌糸が人間本来の体毛と絡み合っている。血色を失った皮膚が、生前の様子を容易に想像させる肌着に覆われている様は、まさに人としての姿が朽ちゆく過程そのものである。
腐臭に引き寄せられたと思しき虫が、幾匹も黒ずんだ床に転がっていた。繁茂する菌糸に彼らも寄生され、死体に卵を産み付けることかなわず短い生を終えたのだろう。
が、何よりも遺体を異常たらしめていたのは、顔面の皮膚がすっかり剥がされてしまっている点であった。
間違いなく大量の出血を伴っただろう処置のためか、遺体の顔面はもちろん、首回りは乾ききって染みついた血のどす黒さに染まっている。薄汚れた白い歯が辛うじて並んでいるのは見え、その間から変色しきって膨らんだ舌が垂れていた。
首元は流血の痕が幾筋も染みついていたが、その黒ずんだ模様の隙間には紫に変色した皮膚が首を一周している様が見えた。
現場から引き返す際も、リーピとケイリーは無口のまま、機械的に脚を動かして移動するのみであった。
人形である両名は精神的な負荷を気にする必要など無いはずであったが、この場で人間を模倣する振る舞いは避けようとの思いが働いていた。
……それでも、リーピはひとつの推測を口にした。
「逃亡した自動人形が、変装を成功させた手段が分かりました。あの部屋で、解体の準備を待つ間、独りで居た作業員の顔と服を盗んだんです。」
「自動人形が命令に従順であり、指示されないかぎり人間に危害を加えないという前提で……その作業員は油断していたのだろうな。」
「逃亡個体がなぜ、自動人形としての根源的な規則から逸脱できたのか、その理由は不明ですが……物理的には可能なことです。自動人形は、頑丈な筋繊維に分化した菌糸を自分の腕の中から取り出し、人間の頸部に巻き付けて締め上げ、縊死させられます。作業着を脱がし、出血で汚れない位置へ移した後、犠牲者の顔面の皮膚を剥がして自らの顔面パーツと取り換えることもできます。」
言いながら、リーピは自分自身の顔面パーツを外すためのスイッチ部分に指を置く仕草を見せた。
愛玩用人形は、任意で顔面パーツを取り外し、他のものと交換することが出来る。それは部品劣化に対応するためでもあり、また雇用主の趣味嗜好の変化に対応するための仕様でもあった。
自動人形の体内で活動している菌糸は、人間の生体に入り込んで繁茂することが可能である。……すなわち、人体から切り離されたばかりの新鮮な肉体部位も、自動人形のパーツとして代替し得るのだ。
わざわざ顔面を削ぐ工程は、人間による犯行の上では余計な手間や出血量の増大を鑑みるに、敢えて実行する必要性のない振る舞いである。
一緒に働いていたはずの作業員がひとりいなくなっており、代わりに顔面を剥がされた遺体が残されていたことに気づいた現場は、まさに阿鼻叫喚だったろう。そして、感染症を恐れた残りの作業員たちは、我先にと現場から逃げ出したのだ。
ケイリーは、感情の模倣は可能な限り避けるように、人形本来らしく抑揚に乏しい声を発した。
「ということは、この施設から逃亡した自動人形は、今まさに犠牲者の顔を被って行動しているということか?」
「その可能性は低いでしょう。人形用パーツと異なり、人間の肉体から切り離された部位は、いずれ腐敗します。それに、完璧に犠牲者本人に成り代わって活動できるほど、個人情報を集める時間的余裕も無かったはずです。」
喋りながらも、リーピは声色を抑えていった。
階段を上がった先には、既にトロンドが呼んだ特殊清掃業者が待ち構えていることだろう。今回の件について、今しがた語った内容はあくまで推測に過ぎない。
それも、自動人形という存在全般に不信感を抱かせる内容であった。自動人形が、自らの意思で、人間を殺害し、逃亡した……この事件が明るみに出れば、そんな認識が広まりかねないのだ。
リーピとケイリーは、虚偽を伝えることなど出来ないし、余計な推測を口にするのも悪手であった。
「僕らが遂行すべき依頼は、遺体が確かにあったと報告することだけです。余計な憶測を喋るのは止めましょう。この後、現場を見た警察がいかなる判断を下すかは、僕らの与り知らぬことです。」
「……あぁ。」
やがて倉庫の地上階へと上がってきた両者の前には、やはり特殊清掃業者が待っていた。
事情を何も知らない清掃作業用自動人形であったが、特に指示されずとも、地下へと続く階段を勝手に降りることだけは留まったらしい。
「あなた方ふたりが、清掃を必要とする自動人形か?」
「はい、僕とケイリーに滅菌剤の噴霧をお願いします。指示がない限り、地下には入らないでください。内部は重度の汚染状況にあり、清掃業者さん自身の滅菌が必要になります。」
「了承した。その場で立ってじっとしていてくれ。」
直ちに、特殊清掃業者が構えたノズルから真っ白い薬剤が噴霧され始める。ケイリーは所持していた防護傘も差しだし、心得たように業者はケイリーの所持物にも丹念に滅菌剤を吹きかけた。
濛々と立ち込める白煙をしばらく浴びた後、軽く薬剤の粉をはたいてからリーピとケイリーは倉庫の外へ出る。
もはや得られる答えは確定したも同然の状態であったが、トロンドは明確な報告が得られるまで律儀に倉庫の外で待ち続けていた。
固唾を飲んで待ち構えるトロンドに対し、リーピは明瞭に伝える。
「倉庫の地下にて、遺体を発見しました。損傷は激しく、特に顔面部は身元確認困難な状態です。腐敗および菌糸の繁茂が急速に進行しています。」
「報告ありがとうございます。直ちに本部へと通達し、次なる指示を仰ぎます。今回は大変なお役目をお願いしてしまい、申し訳ございません。」
「いえ、この場では僕らにしか出来ない仕事でしたので。」
リーピとケイリーは、最低限の報告内容だけをトロンドへ告げ、滅菌剤の粉をサラサラと落としつつ頭を下げる。
現場について多くを語ろうとしない自動人形なりの配慮は、トロンドにも十分に伝わったのだろう。それ以上の情報を求めようとはせず、トロンドは通話機の方へ足早に歩いて行った。
今度は本部からもきちんと報告を受け取られたのか、やり取りが長引く様子もなくトロンドは連絡を終えた。
「無事に捜査開始が決定づけられました。あらためて、これから先の調査は警邏隊が行います。本日の依頼は以上です、重ね重ね、お力添えに感謝します。報酬は本日中にお支払いいたします。」
「警邏隊のお役に立てて光栄です。今回は探命事務所をご利用いただき、ありがとうございました。」
まだ全身にまとわりついている滅菌剤の白粉を風に散らしつつも、リーピとケイリーは現場をそそくさと後にした。報告上はトロンドが自ら遺体を発見したということになっている以上、長居してはややこしいことになる。
振り返れば、倉庫入り口に居残っている特殊清掃業者に対し、トロンドが指示を出している様子が見えた。一応体裁を整えるためだろう、トロンド自身も足元や手に薬剤を噴霧してもらっていた。
―――――
現場から十分に離れ、住宅密集地の喧騒が近づいてきたあたりで、リーピはボソッとケイリーに問いかけた。
「ケイリーは気づきましたか?あの遺体、僕らにとって見覚えのある存在でした。」
「見覚えも何も、顔面が無いのだから、一体誰なのか判断できなかったんだが。」
「あの体型は、フィンク議員の息子さんと一致します。」
ケイリーは思わず足を止めた。確かに、顔は無くとも、体型で判断するならば特定は可能であった。
以前、屋敷で窃盗を繰り返す議員の実の息子を捕らえる小芝居をフィンク議員から依頼された際、議員の息子の体型はリーピもケイリーも至近距離でハッキリと見ている。それどころか、拘束するために直接触れているのだから、その記憶はより明瞭である。
怠惰や運動不足がそのまま形となったような、締まりのない、たるんだ体型。議員の息子という金銭的に不自由しない身分で、労働に勤しんでいない様が如実に示された姿であった。
リーピは再びケイリーが歩き出すのをちょっと立ち止まって待ち、再び語りだした。
「もちろん、人間は時間経過により体型変化を続けますし、似たような体型の別人物である可能性は皆無ではありません。ですが、ケイリーの記憶とも合致した様子ですね。」
「動機も考えられないことはない。遊ぶ金欲しさに父親の私物を無断で売り払っていた奴が、他に手っ取り早く稼げる手段を求めた結果……だろうか?」
「専門の技能習熟も必要としない、物品の搬送や器具準備の手伝いとしてであれば、人形解体の現場に雇われることもあり得るでしょうね。」
そんな求人はもちろんオープンではないだろうが、議員の息子としての立場を用いて情報を得ることも可能だったろう。フィンク議員自身は潔白であろうとも、他の市議会議員や議員秘書の中には裏社会の人間と通じている者も居る。
人形解体に手慣れている違法業者とは異なり、臨時に雇われた素人同然の男は、解体現場において誰よりも隙だらけであっただろう。
なぜ自動人形が本来あり得ないはずの人間に危害を加えるという行為に走ったのか、そのプロセスは変わらず不明だったが……顔と作業服を奪って脱走するうえで、議員の息子は真っ先に標的として定められたのだろう。
「この推測が事実として世間の明るみに出れば、大きな問題となることは間違いありません。フィンク議員にとっては大いに不名誉な事でもありますし、要人の親族が人形によって殺害されたなどという内容は、誰もが強く懸念し、しかし同時に好んで広げる話題となるでしょう。」
「そもそも非合法な人形解体現場の存在が、市によって黙認されていたことについても重大な問題になるだろう。今回の件、大勢の人間にとって実に不都合な場所で、遺体が放置されていたということか。」
「警察本部が、その場所での捜査開始を渋ったのも頷けますね。」
とはいえ、遺体が菌糸と共に放置され続けていれば、存分に繁茂した菌糸はやがて子実体を形成し胞子を飛ばし始め、あの倉庫区画一帯が危険な汚染区域となってしまうだろう。
トロンドの正義感と、リーピ達の依頼遂行が事態の深刻化を食い止めたことには間違いないが、しかし先行きに大いなる不穏が待ち受けていることもまた確実であった。




