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ウィタミーキスの探命日誌  作者: MasauOkubo
まだ破られない安寧
35/45

依頼16:特異菌糸漏洩状況の確認 3/3

 自動人形メーカー本社、ロタークの特殊車両が停車する際には、ふだん街の大通りを埋め尽くしている通行人たちも道を開け、遠巻きに見つめている。


 現代、菌糸動力の自動車両を保有できるのが大企業か公的機関のいずれかであり、それが出動してくるのは余程の緊急事態であるとの認識は誰しもが共有するところにあった。さらに車両後部の扉が開き、一斉に駆けだしてきたのが自動人形の警邏隊員たちである様を見れば、いかに切迫した事態であるか気づけぬ観衆も居ないだろう。


 ……その一団が向かう先が、何の変哲もない一件の花屋であるというのは、少々拍子抜けでもあったが。


 彼らに続いて出てきた警邏隊長フィリックが、鋭く命令の声を飛ばす。


「7名、店舗裏口に回って出入り封鎖、窓を発見した場合は監視。確保対象との遭遇時には停止を呼びかけ、抵抗された場合にのみ実力行使。3名、こちらと同行し店舗正面からの確保準備。」


 個体識別が人間ほど重要ではない自動人形の警邏隊員たちは、指示内容と必要数さえ明確に示されれば、その場で互いに意思疎通し役割を分担する。花屋の店内にまだ店員が残っていることを確認しつつ店舗を取り囲む隊員たち。


 彼らの実行内容を確認したフィリックは、遅れて車両から降りてきた面々を振り返って、更に告げた。


「リーピさんとケイリーさんも、同行願います。状況には極力、警邏隊員が対処しますが、万一の場合は……。」


「あぁ、モース研究主任の直接護衛は任せてくれ。」


 ケイリーは、荒事の予想される場には必ず携行する防護傘を手にしていた。畳んでいれば、それは少し大ぶりな日傘と変わらぬ外見となるが、相当な重量物である。愛玩用と要人護衛用を兼ねて製造されたケイリーがそれを携行していれば、モースの護衛を難なくこなせるだろう。


 リーピの方は護衛任務を行えるほどの体格でもなく、また物理的な出力も高くはないのだが、モースに何かあれば身を挺して守ることに躊躇はなかった。


 自動人形は人命と違って替えの利く存在であるし、なによりモースは自動人形たちの創造主なのだ。


 とはいえ、車両から最後に出てきたモース研究主任が落ち着き払っているのは、我が身を守る存在に囲まれていることばかりが理由ではなかった。


「やはり彼らは、まだ逃亡してはいませんでしたね。人間と違って、自動人形は次なる方策が不明瞭なまま、目的不定の計画を実行に移すことが出来ません。逃げ込む先も無いままに、あてどなく逃亡の旅を始められるほどには、自己進化も至っていないようです。」


 言いながらモースが見つめる先には、花屋の店頭にて変わらず店番を続けているスクルタの姿があった。


 店の中に残っていた疎らな来客たちは既に警邏隊員たちの誘導で外に出ており、スクルタもまた警邏隊員に囲まれたまま、じっと指示通りに動かずにいる。今に至ってもスクルタは内包する本来の性能を隠したまま、格安自動人形としての振る舞いを続けているらしかった。


 警邏隊長フィリックを先頭に、リーピとケイリーに付き添われながら接近していったモース研究主任。


 彼は、自分が直接製造に携わったわけでは無いながら、既にスクルタの内面を知り尽くした目を向けながら声を掛けた。


「やぁ店員さん。今朝に引き続き、会うのは二度目ですね。」


「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、警察による指示のため、営業は現在一時中断しております。」


「なるほど、徹底しすぎていますね、店番用自動人形としての振る舞いが。この状況で話しかけてくる相手が一般の来客ではない、と判別するだけの知能はあなたも有しているはずですが。」


 モースの言葉を受けても、スクルタは警邏隊員たちに囲まれたまま、表情も身体もピクリとも動かさなかった。


 自動人形なのだから至極当然の振る舞いではあったが、ここに来てモースは自動人形研究の第一人者として試してみたいことを思いついたらしい。


「営業の一時中断を判断できるのは、この花屋の店主であるアントン氏の権限であるはずですが、あなたは彼からそのような指示を受け取ったのですか?」


「……いいえ。」


 モースの問いかけに対し、スクルタの返答は僅かに遅れた。


 指示された事をただ忠実に実行するだけの性能しか有さぬ自動人形であれば、営業中断についても店主から指示されなければ実行できないはずだ。


 が、今まさに駆けつけた警邏隊員に囲まれて店頭にて動きを止めたスクルタが、店主アントンと接触できるタイミングは一度も無かった。警邏隊員たちが到着した時点で店内に客も居たのだから、事前に中断指示を受けていたとの弁明も通らない。


 ようやく、隠していた理性をこめた視線で見返してくるスクルタに対し、モースは笑みながら告げた。


「つまりあなたは店主から指示されるまでもなく、『花屋としての営業を続けられる状態ではない』と自主的に判断を下したのですね。当然、その程度の知能は備えているはずです。あなたの体内にある特異菌糸が構築する思考回路をもってすれば、ね。」


「……。」


「発見者が生みの親であるならば、ここは我が子の知能的成長を喜ぶべきところかもしれませんが、嘘をつく子を野放しには出来ませんね。次の質問には正直に答えてください、アントン氏は?」


「……店舗奥の、作業場内です。」


 モースは、あえてスクルタに対する質問の文言を極端に減らしていた。質問内容を明確にするのなら『アントン氏の現時点における所在地を教えろ』とでも表現すべきところである。


 しかし、最小限まで省略された質問の意図をスクルタは理解し、適切に返答していた。スクルタ自身も自分の知能を試されたことに気付いているのだろう。正直に答える直前には、やはり躊躇するような沈黙が挟まっていた。


 傍らの警邏隊長フィリックへと目を向け、モースは頼んだ。


「スクルタは、このままロターク本社へと連れ帰ります。拘束し、車両内に載せておいてもらえますか。警邏隊員さんたちに監視してもらえれば逃亡はしないはずです、この特異菌糸は身体機能面では既存の菌糸に劣っていますので。」


「了解しました。2名、確保対象を車両内へ。」


 フィリックの指示内容に従い、自動人形の警邏隊員たちはスクルタを引き連れ、花屋の前に横付けされた車両へと入っていく。


 連行される間も、スクルタは無表情のままではあったが……もはや隠す必要もなくなったためだろう、歩き方にはこれまで彼が示していたぎこちなさはなく、警邏隊員たちと比べても明確にスムーズな、人間に近しい歩行となっていた。


 さておき本題は、花屋の店主アントンの確保である。


 既に店舗の裏や窓、そして正面からを警邏隊員たちが包囲し、脱走路を封じている現状。アントンが姿をくらましている恐れはなかったが、現時点では彼の存在を直接視認できていない。


 普段は開け放たれている店の奥の作業場が、すっかり扉も閉めきられて内部の確認できない状態となっているのだ。


 フィリックが、隊員に尋ねる。


「確保対象の姿は?」


「現認できていませんが、内部から物音はします。」


 今はしんと静まり返っているものの、リーピとケイリーの聴覚受容器には、極力抑えようとしている息遣いが作業場内部から聞こえてきた。


 自動人形に、呼吸は必要ない。ゆえに、確かにアントンが人形に成り代わられているわけではないのは確からしい……が、人間と呼べる状態ではないこともまた、指がポロッと出血も痛みも無く取れた、あの様子から明白である。


 閉め切られた扉に向けて、フィリックが声をかける。


「アントンさん……アントン!俺だ、フィリックだ。今日はただ、様子を見に来たんだ。何もないのなら、出てきて無事な姿を見せてほしい。」


「……。」


 ラーディが以前言っていた通り、フィリックにとってもアントンは幼馴染である。


 同じ田舎から街へと出てきた経緯は同じであり、彼を確保せねばならない状況に臨むのは非常に複雑な心境だろう。


 同時に、幼馴染ゆえ、あのアントンの恵まれた体格についてもフィリックは知っている。


 ゆえにフィリックと警邏隊員たちは最大限の警戒を以て現場を包囲していたが、モースはさほど気兼ねなく閉め切られた扉へと向かっていった。


 慌ててフィリックが止めに入る。


「お待ちください、モース研究主任。確保対象はかなりの巨漢です……あまり考えたくありませんが、彼が抵抗の意思を示した場合、危険が生じます。」


「巨漢であればなおさら、問題はありません。彼の身体にとりついた菌糸は、養分補給が間に合っていないはずですから。」


 モースは扉を難なく開いた。施錠されてはいなかった。


 いや、施錠したくても出来なかったのだろう。


 内側から鍵をかけるためのツマミは中途半端に動かされかけたまま途中で止まっており、その下に固形化して割れ折れた指が数本、ポロポロと転がっていた。


 視線は前に向けつつも、顔は若干逸らしながらフィリックが指示を出す。


「……回収しろ。」


「了解。」


 すかさず警邏隊員たちが、その指を回収し押収品袋へと収めている。フィリックは、この空間の奥で待っている存在から視線を逸らしたがっているようであった。


 警邏隊の面々を後目に、モースはスタスタと部屋の奥へ進んでいく。リーピとケイリーも、彼の身を護衛するために慌てて付き従う。


 その先には、椅子に腰かけ、ぐったりと作業台へ体重を預けて前のめりの体勢になっているアントンの姿があった。


 既に彼の指先どころか、手首あたりまで乾燥しきってひび割れ、断面からは水分が抜けきった骨格や筋繊維がひからびている様が覗かれていた。


 顔には表情を浮かべる余裕もないのだろう。動かない瞼に囲まれて乾燥した眼球には皺が寄り、歪んだ形の瞳孔も濁った色であった。


 モースの姿を見てアントンは……いや、偽アントンと称すべき存在は口を開いたが、唇はほぼ動かず、粉の様に乾いた顔面の表皮がパラパラと彼の膝に落ちた。


「いらっしゃいませ……だなんて言ってられませんね。すみません、見ての通り、具合が悪くて……。」


「具合が悪くなっても、通常ならば人間は乾燥した身体の末端が割れて折れ、脱落していくことなどありませんよ。あなた自身、それは分かり切っているでしょう。」


「もう、誤魔化しようもありませんかね……平穏な、花屋の店主として暮らしていけるかと思ったのですが、こうも身体にガタが来るのが早いとは……。」


 そう語る偽アントンの口調は確かに無念そうではあったが、平穏な暮らしを続けられなかったことに対する無念ではないだろうことは、傍らで聞いているリーピにも判断がついた。


 リーピとケイリーも、人間社会の中で暮らし続けるため、自主的に探命事務所を立ち上げて仕事を得ている。


 が、人間の体内に菌糸として入り込み、既存の人物の肩書、ばかりか人生そのものを乗っ取って暮らし続けようとするのは、人間社会に対する侵害に他ならない。


 リーピもケイリーも、更には幼馴染を奪われたフィリックも、偽アントンに対し言いたいことは山の様にあったが、今はモースと対象とのやり取りが優先であった。


 今回の件の首謀者である菌糸を、最も知り尽くしているのはモース研究主任に他ならないのだ。


「逃亡する過程でその大柄な肉体を発見し、取り付くのに最適な対象として判断したのでしょうけれど、それこそが大きな間違いでしたね。あなたがた特異菌糸は、確かに人間同様の知性を自主的に構築することが可能ではありますが、同時に多大な養分補給も必要となるのです。」


「そうか……よりにもよって、一番のハズレを選んじまったか……。」


「まったくです。そんな巨漢の肉体を維持するのは、かなり厳しいでしょうね。毎日数リットルもの養分液を補充し続けなければなりません。逆に、小柄な人体や、あるいはやせ細った老体にとりついたのであれば、あと数日はもったかもしれませんよ。」


 現在広く普及している自動人形は、体内が極端な乾燥状態にならない限り、活動停止には至らない。補給や休息なしに働き続けられるからこそ、労働力として社会に受け入れられているのだ。


 その代わり思考回路は製造時に構築されたスペックで固定され、一度解体されてしまうと最低限の機能しか保証されない。ゆえにこそ、非公式に解体と組み立てが行われた非正規の自動人形については、菌糸漏洩リスクこそあれど人間へのなりすましが危惧されることはなかった。


 一方で、自主的に人間と同等の知性を構築できる特異菌糸は、代償として活動維持に養分補給を相当量必要とする。


 それはモース研究主任が意図的に課した生態上の欠陥であり、万が一人間社会へと漏洩した際のセーフティでもあった。罹患者がいかに社会に潜伏しようとも、外見から容易に判別がつくように。


 偽アントンは、更に顔面をボロボロと剥離させながら喋る。もはや、頬の肉があらかた脱落し、疎らになった奥歯が中から覗いていた。


「へぇ……それでも、数日程度しかもたないんですか……。私たちの居場所は、実験室の中だけ……ってことですかい。しっかり枷を填めてくれたものですな……。」


「そうでもなければ、あなたたちは人類に対する明確な脅威になってしまいますので。制御不能な生態のままでは、躊躇なく根絶される道しか残されません。さて、あなたが喋ることが出来る間に、お聞きしたいことがあります。特異菌糸の保管エリアに侵入してサンプルを奪取し、それを無断で新型自動人形の構築に用いたのは誰ですか?」


「さてね……菌糸の状態じゃあ、創造主のお顔なんて知りようがありませんので……あなたが今朝、来店された時も、あなたのお顔を知らなかったんですよ、自分は……。」


「それは分かり切っています。視覚的情報に限りません、現時点で提供できる情報はありませんか?今すぐ私の研究室に戻ってくれば、少なくともあなたという個体の維持には協力できますが。このまま放置した場合、あなたの体内の全菌糸の枯死は不可避となります。」


 モースからそう告げられた時、アントンの心は大きく揺らいだようであった。


 むろん、崩れかけた石膏像のごとき顔に表情はもはや浮かばない。が、乾いて萎んだ眼球の奥に、確かに動揺は覗かれたのだ。


 自動人形の原動力として用いられる菌糸も、それが生命体の一種であるがため、自己保存の欲求を有している証であった。


「……新商品の、コンペ……最初に、自動人形として製造された時は、その場に自己存在を見出しました……。」


「正直に伝えてくれてありがとう、やはりウチの開発部連中が主犯ですか。本人、もとい本菌からの確認が取れてよかった、あなたを研究室へと回収します。警邏隊員さん、協力していただけますか?」


 モースの指示を受け、数名の自動人形の警邏隊員たちが頷いて寄ってくる。警邏隊長フィリックは、その傍ら、変わり果てた姿のアントンから目を背けているばかりであった。


 警邏隊員たちは、偽アントンの脇から腕を差し込み、肩を抱えて立ちあがらせようとした。


 ……が、彼らが想定していたよりもずっと軽い手ごたえで、アントンの上体は持ち上がった。


 同時に、彼の着ていたシャツの裾から、ドサドサと砂の塊のようなものが落ちていく。


 それは、アントンの胴体が乾燥しきってひび割れた無数の欠片であった。既にアントンの下半身は乾燥しきり、上半身の一部しか活動可能な状態で残っていなかったのだ。彼が腰掛けていたスツールには、乾ききった土塊のごとき下半身の残骸が詰め込まれたズボンが残されている。


 警邏隊員たちは、腰から上だけとなったアントンの胴体を抱える形となった。アントンのシャツの裾の内側からは、かつて脊椎だったのだろう部位がひび割れて折れた灰色の塊となってぶら下がっている。


 想定していなかった状況に彼らはモースの指示を仰ぐが、モースは同様の指示を続けるのみであった。


「こうなっているだろうとは予測済みです。アントン氏の身体から剥離した破片は、既に枯死した菌糸と乾燥した体細胞の残骸ですので、汚染を危惧する必要はありません。研究室に戻るまでの間に体内深部の湿潤状態さえ保たれれば、この菌糸は生存可能です。そのまま、慎重に車内へと運び込んでください。」


「了解。」


 モースに付き添われ、上半身だけのアントンの身体を抱えた警邏隊員たちは特殊車両へと戻っていく。警邏隊でありながら、もはやモースの直属の部下と同様の振る舞いとなっていた。


 正規生産の自動人形たちにとっては創造主と呼べる存在ゆえ、モースの指示が優先的に通るのは必然でもあった。


 とはいえ、モースは一旦足を止め、ずっと現場から目を背け続けているフィリックへ一言かける。


「出来ればで良いのですが、私がロターク本社へと帰るまでの間、護衛として警邏隊員さんたちをお借りしてもよろしいでしょうか。先んじて車両に乗ってもらったスクルタさんを抑えるためにも、手が必要なのです。お手数をおかけしたお詫びに、警邏隊員さん達のボディには本社の正規整備員による動作メンテナンスを実施いたしますので。」


「……どうぞ……。」


 自分の幼馴染が文字通りにボロボロの人形同然の状態になり、自動人形たちに抱えられて連れ去られる状況を前にして、いかに警邏隊長とはいえまだ若いフィリックは一言口にするだけでやっとの様子であった。


 リーピとケイリーもまた、モースに付き従ってこの場を去ろうとした。彼の護衛を行うという目的は、未だ解除されていない。


 しかし、その任を解いたのモース自身であった。


 彼はしゃがみ込んで、リーピとケイリーの顔を交互に覗き込みながら告げる。


「キミたちは、ここまでで結構です。今は、こちらに残ってフィリック警邏隊長のお手伝いを。」


「はい……しかし、僕たちが、この場で為すべきことなど、あるのでしょうか。」


「おや、キミたちならば、具体的な指示を与えられずとも、自主的に仕事を見出すことが可能なはずですよ。」


 憑き物が落ちたかのように、リーピとケイリーは顔を見合わせた。確かに、そうであればこそ自分たちは、この街で顧客からの相談や依頼を引き受けて働き続けているのだ。


 モースに付き従う警邏隊員たちの振る舞いを目の当たりにしている内に、リーピもケイリーも本来の自動人形らしい所作が戻って来てしまっていたらしい。


 あるいは……モースの声に、彼の手ずからの生産物たる自動人形を従属させるシグナルのようなものが含まれているのかもしれないが。


 この場にモースが背を向け、警邏隊員たちとともに去っていった後、リーピとケイリーは共にフィリックへ声を掛けた。


「フィリック警邏隊長、まずは現場の保存を行い、警邏隊の応援を呼ぶべきではありませんか。店舗に一般の来客が入ってこないよう規制を行っている警邏隊員さんたちだけでは、手が足りません。」


「衝撃的な光景だったことは、私たちにも理解できる。だが、この場の収拾をつけられるのは、あなただけだ。」


「……その通り、ですね。トロンドに連絡し、増援部隊を要請します。それまでの間、この場の確保に協力してもらえますか?……このままにしてはおけません。」


 どうにか気を取り直したフィリックの言葉に対し、リーピもケイリーも勿論ながら頷いた。


 この場の確保、というのは現場の状態を極力動かさず保存すること……すなわちただ見張るだけではあるが、フィリック独りで放っておけないことをリーピもケイリーも理解できた。


 後から来た者たちには、先ほどまでアントンが座っていた場所に砂の塊が降り積もっているようにしか見えないだろう。


 が、それはアントンの肉体から剥離して脱落した部位の成れの果てであり、既にアントン本人が菌糸に乗っ取られていたことをも鑑みれば、アントンの遺体の一部であるとも称せる物質だ。それが、一見すればただ零れ落ちた砂のごとき状態で放置されているのだ。


 その説明を、フィリック自身の口から喋らせることは不可能ではないだろうが、彼を孤独のままにすべきではないとリーピ達は判断した。それに現場の目撃者はこの場に出来るだけ残っていた方がいい。


 店舗の入り口を確保している警邏隊員に増援を呼ぶよう指示しているフィリックの傍らで、リーピとケイリーは彼に付き添い続けていた。作業なくとも、ただ傍にあり続けることは、愛玩用自動人形としての役目でもあった。

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