依頼16:特異菌糸漏洩状況の確認 2/3
リーピとケイリーがアントンの花屋から撤収するのとほぼ時を同じくして、モースの側でも警邏隊と連携しての作戦を完了していた。
街の特殊清掃に搬入される滅菌剤を、警邏隊が取り囲んで確保する現場は大々的に行われたらしい。ラーディを自宅に送り届けたリーピ達が遅れて到着した頃にも、まだ騒ぎを聞きつけて集まってきた市民の人だかりは残っている。皆一様に不安と興奮の中で喋り合っているのは、滅菌剤の効果が信頼できぬものであることを知ったためだ。
その中心にモースが人形メーカー本社から出動させた特殊車両が鎮座しており、まもなく本社へ帰還する予定なのだろう、動力源となる極太の菌糸のために整備士がせっせと養分液を注ぎ入れている。
警邏隊長フィリックと言葉を交わしているモースの姿も近くにあった。
「滅菌剤効果の減衰につきましては、今回の実験にて証明されました。ロターク本社からの正式な検証報告書を送付するのは後日となりますが、これだけ現地の証人が集まっていれば問題はないと思われます。」
「えぇ、これなら警察上層部も市民の声を無視できず、この検証結果をないがしろには出来ないでしょう。あらためまして、多大なるご協力ありがとうございます、モース研究主任。」
「自動人形メーカー本社の研究部門としましても、菌糸漏洩の危険性を周知し、世間の対策意識を高めることが最優先ですので。」
語り合っている両者の背後には、特殊車両に備えられた実験観察設備が透明な樹脂越しに公開されていた。
二つのチャンバーには、それぞれ繁茂した菌糸のパレットと実験用のネズミが入れられている。
特殊清掃に納入される予定だった滅菌剤が噴霧されたチャンバーの内部では、ネズミがひっくり返って手足をビクビクと痙攣させている。一方で、警邏隊が持ち込んだ滅菌剤が噴霧された側では、ネズミは体毛にまとわりつく白粉が煩わしげではあるものの元気にチョロチョロと走り回っている。
透明な樹脂板を指先でつつき、チャンバー内のネズミが音に驚く反応を正常に示す様を眺めつつ、フィリックは言った。
「同時に、我々警邏隊が持ち込んだ滅菌剤が確かな効果を発揮することも、市民の皆様には示せました。今後しばらくは特殊清掃でこれを用いるので、安心感の維持にも貢献できるでしょう。」
「とはいえ、警察内部にて備蓄されている滅菌剤が尽きるまで、の話ですがね。製剤会社には迅速に製造ラインにおける問題発見のため動いてもらわなければなりません。」
頷きながら、モースも返答している。
素人目に見ても分かりやすい対照実験は、野次馬が集まってくることまで見越して実施された内容でもあったのだろう。
研究者としての検証を兼ねた観衆の前でのパフォーマンスは、研究部署に普段閉じこもっているモースには慣れない振る舞いだったと見え、表情を動かさない彼の顔にも疲れの色は出ている。
が、間もなく彼は、疎らになりつつある人だかりの中に、リーピとケイリーの姿を見出し声を掛けた。
「おや、こちらに来られていたのですか、リーピさん、ケイリーさん。花屋の店主アントンの観察は、どうなりました?」
「明確に報告すべき状況を観察したため、即座にモース研究主任のもとへ報告に参りました。」
「その観察結果が、同時に私たちの身の危険にもつながりかねない内容だったから、私もリーピと共に退避させてもらっている。」
リーピに続いてケイリーから告げられた言葉は、モースにとっては想定外でもなかったらしく、彼は表情を変えぬままに頷いている。
一方で、当然のことながら警邏隊長フィリックにとっては、この滅菌剤の検証と並行して起きていた別件など初耳だ。訝しげな表情と共に、彼は尋ねる。
「アントンさんの花屋で、何かあったのですか?状況によっては、警邏隊が急行しなければ。」
「まぁ、まずはリーピさんとケイリーさんからの報告内容を聞きましょう。ここでは人混みがうるさいでしょうし、車内で聞きますよ。」
特殊車両の出発準備を進めている整備士の肩を叩いて後部の扉を開けさせ、モースはリーピとケイリー、そしてフィリックを車内へと招き入れる。
万一の事態に備えて外部との隔離環境が徹底されている特殊車両の内部は、外からの喧騒が完全に遮断されて静かであった。透明な樹脂の窓から入る光の下で、薬粉を噴霧し終えた実験チャンバー内にゴソゴソと這いまわっている実験用ネズミの足音だけが聞こえている。
モースからの目くばせと同時に、リーピは喋り始めた。自動人形の創造主の意図は、言葉を用いずとも自然に伝わるのだ。
「アントン氏は通常通り、花屋の営業を行っている最中ではありましたが、重量のある水耕用トレイを持ち上げた際、指先が割れるように折れ落ち、数本の指を失っています。明らかに、人間ではあり得ない負傷の仕方でした。」
「本来ならば早急に救急隊へ通報するか、最寄りの病院に駆け込むべき事態ですが……割れるように折れたというのは、まさに人形のように、ですか?」
不可解な状況をどうにか飲み込もうとフィリックが問いかけてくる一方で、モースは先ほどから小さく頷いているばかりである。
アントンの身に起きていることは、モースの想定通りなのだろう。リーピは返答と共に言葉を続けた。
「はい、皮膚や筋組織が負傷部位を繋ぎとめることもなければ、血液が噴出することもありませんでした。断面部はひび割れた固形物そのものでしたが、しかし人工物たる人形とは異なり、人間本来の骨格や筋組織が確認できました。直後、アントン氏は自分が義手を装着していたのだと虚偽の内容を口にされました……僕が観察した事項は以上です。」
「明らかに、アントン氏にとって不本意な出来事であり、それをリーピがしっかりと確認してしまったのもマズいだろう。あの場に留まって監視を続けては私たちが拘束される危険もあると判断し、私はリーピを連れてここまで撤退してきた。」
ケイリーも、リーピに続けて状況の補足を入れた。
自動人形が自身の身の安全を優先し行動するというのも、人工物の前提を以て考えればおかしな話ではあるものの、警邏隊長フィリックはケイリーの判断を尊重するように深く頷いている。
一方でモースは既に今後の方策を組み立て終えたのか、フィリックが口を開くよりも先に喋り始めた。
「報告ありがとうございます、アントン氏が生来通りの人間ではなくなったことは確定しました。フィリックさん、警邏隊の隊員を幾名かお借りしてもよろしいでしょうか。先方が次の手を打つ前に、我々がアントン氏の花屋へ急行し、彼の身柄を確保したいのです。」
「えぇ、今のお話を聞く限り、アントンさんが普通ではない状態になっているのは明白ですが……警察沙汰というより、救急隊の仕事かと。いえ、もちろん、警邏隊員も病院への搬送に協力はいたしますが、その場合も隊長である自分の指揮による行動となります。」
「あれを病院へ運び込んではいけません。それから、フィリック警邏隊長には同行していただくだけで結構です。」
詳細な説明をする時間も惜しいのか、モースは言葉短くフィリックに返答しながら、車両の後部扉を押し開ける。
車外で出発前の最終点検を済ませていた整備士に向かって、モースは問いかけた。
「動力部への養分液の注入は完了しましたか?出来れば今すぐ、車を出してもらいたいのですが。」
「はい、問題ありません。ところで、そちらの方々も載せたまま、ですか?」
「えぇ、まだ本社には戻りませんので。この街の大通り、花屋さんまでお願いします。」
その行先を告げる言葉だけを取れば平穏なものであったが、実態はごく物々しい状況であった。
モースは、更にこの場を取り囲むように待機し続けている警邏隊員たちに呼びかける。いずれも、万が一の菌糸漏洩に対応できるよう自動人形の隊員ばかりであった。
「キミたちの中から10名ほど、私に同行してください。手伝ってもらいたいことがあるのです。」
「あ、あの、隊長である自分の指示が本来は必要なのですが……。」
背後で焦っているフィリックの声が聞こえていたが、モースの言葉は問題なく自動人形の警邏隊員たちを従わせていた。
これはリーピとケイリーにも共通する特性であった。警邏隊で採用されている自動人形は、もちろん例外なく正規メーカー本社の製造品であり、研究主任モースが生みの親である。
創造主による指示は、いかなる命令系統にも優先されるのであった。
モースの意思が今のところ、市民の安全を優先するものであったがため、フィリックもここでは渋々ながら口を噤んでいた。
「最後に乗り込んだ隊員さんは、後部扉をしっかりと閉めてください。施錠及び解錠の方法は、構造を見れば理解できますね?」
「はい。」
モースの指示を受けた警邏隊員たちが続々と車両に乗り込んで扉を閉め、出発準備が整ったと同時に特殊車両は動き出す。
収縮と弛緩を繰り返す極太の菌糸繊維が、幾本も並列されて設置された動力部からは独特の駆動音が響いている。ギッシギッシと伸縮する繊維の動力に、回転運動へと変換するクランクの金属音が重なり、生体と機械が同時に唸りを上げるような声となるのだ。
ともあれ現状の全てが、モースの意思通りに回っていた。
警邏隊長フィリックは畳みかけるように進展する状況を呑み込めぬまま、不可解さと警戒を露骨に表情に浮かべている。隊長としての立場もある彼は、幾度もモースに念を押していた。
「モースさん、警邏隊員たちは、アントンさんの身柄確保のために活動させるのですね?決して、他の意図をもって指示を与えないでくださいよ。」
「分かっています、唐突に警邏隊のお仕事に介入してしまい申し訳ありません。今回の目的を達成するため、指示内容も最小限で済ませます。」
一方で、リーピとケイリーは素直に現状を受け入れていた。無条件にモースからの指示に従っている自動人形の警邏隊員たちと、同じ状態だった。
この場を掌握しているのが、自分たちの創造主であるという事実だけでも大きな信頼感を生んでいた。現時点での思考を満たしているのは、彼の被造物として……自動人形としての安堵感でもあった。
とはいえ、リーピは辛うじて、自分の見出した疑問をモースへ向けることだけは出来ていた。
「モース研究主任、あらためてお尋ねしてもよろしいでしょうか。アントン氏の身に起きた現象は、いったい何なのでしょうか。彼が菌糸に感染したとしても、あの症状は完全に理性を失ってしまう胞子性壊死脳症とは明らかに違います。人間の身体が本来あり得ない劣化を示す一方で、理性だけは残っているなど、今まで見たことのない症状です。」
「知る必要はありません……と、私が返答する可能性も予測に入れた上で、なお質問しているのですね?リーピさん。」
質問されることが手間であるのには違いないはずであったが、モースがリーピへと向ける視線は愛おしげであった。
ケイリーに対しても同様、モースが想定していない運用状況下で、思いもよらぬ成長を示している自動人形の存在は、特別な我が子として彼の認識にあるらしかった。
「それに、フィリック警邏隊長が同席されている今となれば、ますます私が情報を秘匿しづらくなってしまうというわけです。この状況を狙って質問するとは、キミは製造時よりも明確に思考能力が高まっていますね。」
「お気に障ったのなら、申し訳ございません。」
「いえいえ、私の製造品が優れていることは、喜ばしいに決まっています。さて、せっかくの機会ですから、話せる範囲でお答えしましょう。企業秘密を無条件に公開するわけにもいきませんが……。」
彼はリーピとケイリーに視線を向けた後、フィリック警邏隊長、そして車両後部で整然と並んでいる自動人形の警邏隊員たちにも視線を向けた。
単なる情報の伝達としてのみならず、彼らに聞かせることで状況に与える影響を、モースはじっくりと見定めているようでもあった。
「花屋の店主、アントンが菌糸に感染していることは、もはや疑いようのない事実です。指など身体の末端部が劣化し、損傷、脱落する症状も、菌糸に感染した人体、すなわち肉体が生きていても脳の神経が菌糸に成り代わられた人体が時間経過で引き起こす現象と同じです。」
「人間の肉体を形の上では活動させることが出来ても、長期間にわたる維持はできないためですね。だからこそ、僕ら自動人形は同じ菌糸を有していても、人間と違って硬質の外殻が必要なのだと認識しています。」
リーピの返答に、モースは口角を上げながら小さく拍手を送る。まるで、優秀な教え子の理解力に満足する講師のごとくであった。
しかし、そこから先は、自動人形メーカー本社の中でも、モースをはじめとする研究部門の中枢にいる人間でしか知り得ない情報、そのごく一部が語られることとなる。
「ですが不自然なことだとは思いませんか?菌糸は、もとより自然界にあったもの。それが、人工的な外殻を有する人形の中でなければ、生きながらえることが出来ないというのは実に不便です。人間をはじめとする既存生物の中で確かに菌糸は爆発的な勢いで繁茂するものの、数日で肉体を維持できなくなり、劣化、腐敗してしまうのです。」
「菌の生態サイクルであれば、数日の繁殖でも十分だということではないのですか?」
「であれば、植物のように土壌に定着する生態を取ったほうが、繁殖機会は圧倒的に多く得られます。動物の肉体に取り付き、その場で死なせるのではなく、曲がりなりにも生前同様に歩き回ることを可能としているのは、その移動能力を以て繁殖に適した環境へ到達するためだと考えられます。」
人間以外の動物に対しても、体内に寄生する過程で宿主の行動を制御し、自らの繁殖に相応しい状況を作り出す生物は存在する。
モースが語る通り、現在は自動人形の原動力として用いられている菌糸が、原初の時代には人間にとりつく形で繁茂していたのならば、実際に行動できるのが数日というリミットを設けられているのは少々厳しいかもしれない。
一拍、沈黙を置いてから、モースは言葉を続けた。
「それに人間は、他者がマトモな状態であるか否か、遠目に観察して判断するだけの知性があります。菌糸に感染して脳を乗っ取られ、知性を失ってフラフラと歩き回っている存在に他人はわざわざ近づこうとはしませんし、そうなれば菌糸は他の個体へと繁茂の範囲を広げることはできません。」
「まさに現代の、菌糸漏洩に対する人々の反応と同じですね。その忌避感のおかげで、安全性が維持されているのですから。」
「ですから、本来の菌糸が行き着いた進化の最終形態においては、感染した人間の知性および肉体をそのまま維持できると仮定されます。完全に人間と同様の思考能力を有し、健常者同様の容姿を保って社会に溶け込み、活動できる状態になる……そうであれば、他の人間個体からも危機感を抱かれぬ間に、菌糸を人間集団の中で広げていくことが可能なのです。」
モースの言葉に、強く反応したのはリーピやケイリーではなくフィリックだった。
当然ながら、自動人形よりも人間にとって、そして街の平穏を守る警邏隊長として、今の情報は切迫した内容に違いないだろう。
「モースさん……今仰ったことは、本当ですか!?花屋のアントンさんがそんな菌糸に感染していたとしたら……あの店の来客全員が、既に、知らぬ間に、菌糸に乗っ取られた後ということになるのでは……!」
「私が申し上げたのは、最終形態においては、という仮定の上です。現実には、さきほどリーピさんが報告した通り、アントンさんの肉体は菌糸によっては維持できず、損傷および崩壊が始まっています。」
フィリックの語った懸念は、リーピが今回の調査直前にモースへと尋ねた内容と若干似ていた。
知らぬ間にアントンが菌糸に感染し、平常時と区別のつかぬ状態で行動していたというのなら、あの花屋を訪れた客の全員が同じ目に遭っていると想定することも可能である。
とはいえ、モースは全く慌てる様子を示していない。既にリーピに伝えている通り、この特殊な菌糸の感染能力の低さゆえでもあったろうが、より大きな理由がそこにはあった。
「あの特異菌糸は、確かにこれまで自動人形に用いられてきた菌糸と違って独自の知性を築き上げるには至っていますが、人間の肉体を維持するだけの生態は有していません。既存の菌糸以上に乾燥に弱く、空気中に散逸した時点で枯死します。」
「それなら危険性は確かに低くはありますが……モース研究主任、僕らを通じて間接的に観察結果を得ただけのあなたが、何故そこまで詳細に特徴を掴んでおられるのです?」
問いかけるリーピへと視線をゆったり返した後、モースは声色をさらに低めて告げた。
「他でもないこの私が、発見時点で“彼ら”に付与した、生態上の欠陥なのですから。当然ながら、菌糸研究の最前線は我が社の研究部門です。人体を用いた実験は実質不可能だったのですが……今回のアクシデントを通じて、図らずも実証できました。」
淡々と語るモースの言葉を前にして、フィリックは目を丸くしっぱなしであったが、リーピとケイリーにとっては今さら驚くまでもないことであった。
前回、モースが街に来た際に、ヴィンスになりすましていた自動人形の体内菌糸を迷わず枯死させたことが、状況がいかに切迫していたか物語っていた。自動人形メーカー本社から回収指示が出ている個体は、やはり社外に出すべきではない技術、ないし菌糸を含む商品だったのだ。
モースの言葉に若干ながら熱が入りつつある機会を逃すまいと、畳みかけるようにリーピは尋ねる。彼が完全に冷静な状態に戻れば、同じように情報を聞き出すことは出来なくなるだろう。
「本来は、以前の回収指示が出た時点で、特異菌糸を内包した人形もメーカー本社に回収されるはずだったのですね?」
「その通りです。この街の市長が例の個体の回収に応じなかったため、やむを得ず現地にて枯死処分としましたが……文字通りに、後手に回ってしまいました。」
偽者のヴィンスとして振舞っていた自動人形は、自身が拘束される前に体内の菌糸を保存する場所を他に確保し、リスク分散を行った。
それが、花屋の店主、アントンの体内だった。あの頑強な肉体を目当てに、花屋でバイトするという体裁をもってヴィンスの姿で接近した際、店主の身体に菌糸を侵入させたのだ。
万が一、完璧に人間の知性を模倣し、肉体も朽ちることなく維持できる菌糸が蔓延し始めた場合、もはや人間と罹患者を区別することは非常に困難となる。
だが今、アントンの肉体が崩壊しつつあることが実際に確認され、モースは自らが施したセーフティが無事に機能したことを知るに至った。
ゆえにこそ彼は、最大の懸念については安堵していられるのだ。
この事実を抱え続けるのは孤独な努力でもあっただろう。
この場に居るのが自分の被造物たる自動人形と、まだ現地警察の中でも信頼を寄せられる警邏隊長だけであるおかげか、モースは尚も語り続けた。
「例の特異菌糸は、研究段階で偶発的に発見されたのですが、私は他の研究員には存在を告げませんでした。あえて生態に欠陥を与える加工に、反対の声を上げる者が必ず居ると予測されたためです。」
「その判断は、正しかったと思われます。特異菌糸が積極的に人間社会へ浸透し、感染を広げる意図も不明なのですから。」
「……そうですね。さておき、この件が終われば社内調査を行わなければ。いったい誰が、貴重な菌糸サンプルを製品に勝手に使い、社外へと漏洩させたのか。」
リーピの発言に対しては、モースは言葉を濁したようにも思われた。菌糸が人間社会を利用して繁殖域を拡大する意図をも、モースは知り得ている可能性があった。
とはいえ、今はモースの言う通り、下手をすれば人間社会の崩壊をも招きかねない菌糸の漏洩原因を突き止める方が先であった。




