依頼12:ディスティからの相談
事件を起こした特異な自動人形もひとまず処分され、探命事務所による干渉を勘繰る市長からの懐疑も一応晴らし、ようやっと一連の騒動は落ち着いたように思われた。
が、リーピとケイリーに休んでいる暇などない。そも自動人形に休息は不要ではあるが。
市長邸宅への呼び出しをこなした数日後、リーピとケイリーは闇医師チャルラットからの連絡を受けて彼の医院へと向かっていた。
「厳密にはチャルラット医師による依頼ではなく、看護師としてお仕事を続けているディスティさんからの頼みだそうです。仕事を頼みたいわけではなく、僕らに伝えたい話があると。」
「このところ慎重に立ち回らねばならない依頼続きだったし、ただ話を聞きに行くだけというのも悪くないだろう。あの医院に飾る花を見繕って持って行ってやる約束もしたことだしな。」
商業区域の外れにある雑居ビルへと向かうリーピの隣で、ケイリーは梱包された花瓶と花束を抱えながら喋る。確かに以前、チャルラット医院の内装が無機質に過ぎることをディスティは気にしていた。
ディスティの望みを聞き入れて、チャルラットが探命事務所に依頼の通話を入れてきたことは、他に行き場の無いディスティとはいえ無碍な扱いを受けていないことの証であった。
とはいえ、探命事務所に依頼を入れることは、少なからずディスティのため出費することでもある。
「あの医院でのディスティさんの立場を鑑みれば、仕事とはいえ僕らが一方的に報酬を要求する振る舞いも憚られるものです。」
「契約上は問題なくとも、心証に及ぼす影響は無視できない。こういった時に、人間は“手土産”というものを活用するのだろうな。」
歩きながらもケイリーは自分の腕の中に抱えた花束を見つめ、これをディスティが気に入るかどうか、チャルラット医院の装飾として似合うかどうか、と推測を行っていた。
人間同様の感性など持ち得ない自動人形にとって、それは答えの出るべくもない問いかけであったが、人間と関わらなければ至ることのない思考練習には違いなかった。
―――――
到着した雑居ビルの周辺は、背の低い建物がごみごみと立ち並び、晴れた昼間であってもどことなく薄暗い。
患者を搬入することなどハナから想定していない急階段をのぼり、入り口扉をノックして踏み込んだチャルラット医院の内装は、相変わらず殺風景なままであった。
……が、看護師兼受付であるディスティが、ありあわせの物で体裁を整えたのであろう。書棚に斜めに突っ込まれていたファイル類はきちんと向きを揃えて立てられ、折り畳み式の脚が丸見えだった仕事机にはテーブルクロス代わりに使い古されたシーツが掛けられ、乱雑に物が置かれた印象は多少なりと薄まっていた。
チャルラットはいつも通り、部屋の奥で忙しそうに書類にペンを走らせており、ディスティが代わりに来客を出迎えた。
「ようこそお越しくださいました。また急な呼び出しに応じてもらって、ありがとうございます。リーピさん、ケイリーさん。」
「いえ、こちらこそ、探命事務所をまた頼っていただいてありがとうございます。今回は、チャルラット医師ではなくディスティさんが伝えたいことがある、とのお話でしたが……こちらで直接、おうかがいしても構いませんか?」
リーピは部屋の奥へと視線を向けながら、仕事中のチャルラットにも聞こえる声量で尋ねる。
チャルラットは上目遣いで一瞥し、ペンを握ったままの手を振りつつ首を縦に振った。闇医師としての主たる業務、依頼次第で際限なく増える書類仕事から離れている猶予は無いのだろう。
と同時に、ディスティに好きに喋らせても構わないとの意思表示でもあった。リーピ達相手に、喋られて都合の悪いことなど無いのは事実であるらしかった。
「では、直接ディスティさんから、今回のご依頼内容を窺います。本日はどういったご用件でしょう?」
受付に並べられている椅子に腰掛けつつ、リーピは話を切り出す。
しかし、当のディスティ自身は、話し出すのに躊躇いがあるようだった。彼女としては、先にチャルラットへと話を通し、その間に自分が伝えるべき依頼内容をまとめる算段だったのだろう。
「……ちょっと、言うべきことを整理する時間をいただいてもよろしいでしょうか。ごめんなさい、リーピさんとケイリーさんが到着するまでに済ませておくべきだったことですね。」
「いえ、問題ありません。僕らとしても、お時間をいただければ、こちらで出来ることもありますし。」
言いながら、リーピは傍らで花瓶の包みを解いているケイリーの方へ視線を向ける。
ケイリーは花束の包みも開け、そのまま花瓶に挿し、おぼつかないながらも見栄え良さげに形を整えている。花瓶に水を入れなかった理由は、その茎や葉が擦れた時の乾燥した音で知れた。
頭の中で言葉をまとめつつも、こちらを見つめているディスティの視線に気づき、ケイリーは喋る。
「ほら、前に、この医院にも花を飾れればいいなと話をしていただろう。だが、生花は水を替えて世話しなければならないし、もちろん日が経てば萎れていく。生きた植物ゆえ、場合によっては病気の感染源になりかねない。だから、代わりに造花を持ってきたんだ。間近で観察しなければ気づかないほど、精巧に作られているだろう。」
自動人形であるケイリーとしては、この贈り物が正解であるかどうか判断する基準を持ち得ないため、少々理屈くさい言葉を並べて口数が多くなっている。
しかしディスティの表情にも言葉にも、不満の色などあるはずもなかった。
「はい……お気遣い、ありがとうございます。これなら、ずっと飾っておけますし……綺麗です。」
「そうか。よかった。」
礼を受けながらもケイリーは立ち上がり、数少ない外光が取り込まれる場所である窓際へと向かい、その造花を飾った花瓶を置いた。
花々の形や、飾る場所など、いずれも自動人形では持ち得ない人間の感性を推測しつつの選定であったのだが、ディスティは満足そうであった。人間ではないとはいえ、他者から物を贈られる経験は久々であったろう。
花瓶の造花を飾る時間が、そのまま考えをまとめる時間にもなったおかげか、ケイリーが再びリーピの隣席に腰掛けた後、ディスティはようやく本題を語り始めた。
「その……お伝えしたいことというのは、私の両親のことです。」
「たしかディスティさんの親御さんは、以前この街にて、市議会議員の秘書をなさっておいででしたね。」
リーピは頷きながら、ディスティへと伝える。その内容については、チャルラットからディスティの身辺調査の依頼を出された際に掴んだ情報そのままである。
ディスティの親である議員秘書が、架空の道路拡張工事を理由にアントンの花屋に対して立ち退き指示を出し、その後自分の親族に出店させようと不正を働いたこと。そのために議員秘書を更迭させられ、悪評が広まった街から逃げるように出ていったこと……については、敢えてリーピも言及しなかった。
が、ディスティが今、リーピ達に相談しようとしていたのは、そんな悪事に手を染めた親についての話に他ならない。
「昨日、チャルラット先生と一緒にお仕事へ向かった先で……依頼者様が、私の両親について話されていまして。もちろん、私が実の娘であるということは、ご存知ないうえでのことですけれど。」
「チャルラットさんも、あなたの素性について喋ることは無いでしょうからね。すみません、お話の続きを。」
「その方の話によれば……私の両親が、この街に戻ってくるとのことでした。」
ディスティは、その内容を自分が口にする覚悟の揺るがぬうちに、と口早に言い切った。
むろん、リーピとケイリーは、ディスティの両親と直接の面識はない。だが、いずれ確実に不正が露見する架空の道路工事をでっちあげてでも親族に便宜を図る振る舞いは、市政に関わる人間としては実に低質な職業倫理観の持ち主であると評した記憶はある。
街全体から顰蹙を買い、悪人のレッテルを貼られて逃げ去った彼らが、今になって街に戻り来ること自体、不穏の塊であった。
ディスティは続けて口を開く。
「この街には、様々な事情を抱えた方が暮らしていますが……明確に悪人と評せる人物を指すなら、それは私の両親に他なりません。」
「娘であるあなたが、そこまでおっしゃるとは。」
「ですから、先に、これだけお伝えしておきたかったんです。後日、私の両親から仕事を依頼されても、その指示に従う必要はありません。……今、こう伝えておけば、効果はあるでしょうか。自動人形であるあなたたちは、人間からの命令に背くことが難しいのでしょう?」
リーピとケイリーは、自分たちを呼びよせたディスティの意図をようやっと理解した。
確かに、リーピとケイリーは自動人形であり、自動人形は原則として人間の指示に背くことは出来ない。とはいえ、原始的な思考回路しか持たないモデルと比べれば、まだリーピとケイリーは独立した意思に近しい行動決定が可能ではあったが。
ディスティは、ほぼ間違いなく悪事を企てるだろう両親にリーピ達が雇われ、汚れ仕事の手先とされることを懸念していたのだ。
不安を押し殺さず、見出した懸念を捨て置かずに忠告を与えてくれたディスティに対し、リーピとケイリーは深々と頭を下げて返答する。
「お心遣い、ありがとうございます。もちろん、僕たちも自己判断で依頼の遂行手段を選択することは可能ですが、ディスティさんから今のお言葉を戴けたことは、より僕らの行動選択を確実に良い方向へと制御してくれるでしょう。」
「私たちには、善悪の判断基準が備わっていないわけではないが、それもあくまで人間の思考回路の模倣に過ぎないからな。忠言は有難いんだが、問題は、ディスティの両親についての情報を我々がほぼ知らないということだ。既に彼らは、議員秘書という肩書を失っているわけだからな。」
「あっ……そうでした。」
ケイリーから尤も過ぎることを告げられ、ディスティは多少赤面しつつ言葉を継ぐ。
リーピの方は、彼らの名前だけは知っていたものの、この街を出て行った後どうしていたのかについては知る由もない。そも、今回ディスティが長らく接触していない両親の動向を知った経緯も不明であった。
「私の父の名はプロタゴ、母の名はアリシアです。今の肩書は、製剤会社の非常勤参事ということになっているはずです。」
「非常勤……参事、ですか。聞き慣れない役職名ですね。」
「議員秘書の座を追われた後、親族のツテで企業に再就職した……いわゆる天下り、ですので。業績とは関係なく高い給与が支払われる、臨時の役職です。」
ディスティが話す内容について、既にケイリーは理解が追いついていない様子であったが、リーピの方はどうにか内容を飲み込んでいた。
本来は勤続による経験量や実績によって、人材を評価するはずの企業。だが、政治家としてのキャリアを脱した人物が再就職先として企業を選んだ場合、企業側も行政から悪しからず思われようとして厚遇を用意するのだ。
たかだか議員秘書、それもやむを得ぬ事情ではなく明確な不正によって公職を追われた人間となれば、どこにも受け入れ先など用意されないはずである。しかし、彼らの場合は親戚のツテがあったのだ。
リーピは、先ほどのディスティの発言の中で気になった点について尋ねる。
「ご両親が再就職された製剤会社というのは、滅菌剤のメーカーのことですか?」
「はい、菌糸漏洩が起きるたびに、清掃作業人形が駆けつけて吹き付ける、あの白粉の薬剤を生産している企業です。そこの役員として働いているのが、両親にとっては甥……私にとっては、いとこにあたる人物です。」
「なるほど。公共事業である特殊清掃、それに欠かせない滅菌剤を生産する企業となれば、市政との繋がりも密接ですね。」
ディスティの説明に、リーピは深く頷いた。
人形の身体が破損して発生する菌糸漏洩が起きれば、即時の滅菌剤噴霧によって汚染拡大を阻止せねばならない。製剤会社からの薬品供給は不可欠であり、殊にこの街の場合はいよいよもって需要の途切れることはない。
何しろ、正規の自動人形メーカーに拠らず、不要となった自動人形を独自に解体して組み立て直し、廉価な自動人形として発売しているのだ。正規品ほど厳格な基準で製造されているわけではない自動人形は、ちょっとした衝撃で簡単に菌糸漏洩を引き起こす。
メーカー公式による人形廃棄処置を市長自らが拒否しているからこそ、滅菌剤の消費量は他の街にも増して高くなっているのだ。
リーピ達の会話も先ほどから聞こえていたのだろう。書類仕事のひと段落したチャルラットが、凝った首をコキコキといわせながら寄って来て口を開いた。
「昨日、俺が仕事行ったんが、その製剤会社絡みですねん。ディスティさんを連れて行ったおかげで、偶然ながらご両親のお話やっちゅうことに気づけたんですけどね。」
「チャルラットさんがお仕事に向かったということは、やはり死亡診断書を作成するような用事が?」
「まぁ、あんまり気分のえぇ仕事やあらへんかったんですけどね。」
一応は医師らしく医療行為も可能なチャルラットだが、闇医師としての仕事は主に死亡診断書の作成である。
チャルラットに依頼を寄越す顧客は、大抵が扱いの面倒な遺体を“合法に”処分したいとの目的を有していた。事件性なしとの証拠を作るため、医師免許を有する者に死亡診断書を作らせるのである。
そんな事件性を疑われかねない出来事は、製剤会社においても起きていた。
「例の、白粉の滅菌剤、あれを一般客向けに売り出そうっちゅう話が例の製剤会社で出てましてね。本来は公共事業向けにしか販売してへん商品ですけど、もっと儲けが欲しなったんやろね。」
「なるほど、しかし一般客向けとなれば、作業用自動人形が背負うような大型ボンベに充填しても売れないでしょう。」
「ですんで、製剤会社さんは一般客向けに小型化した容器に、薬剤の白粉を詰めてく作業を労働者にやらせたんですけどね……マトモに粉塵を遮断する環境が整ってへん所で働かせてたせいで、労働者らが次々に呼吸困難を起こして倒れまして。特に体調の悪かった一人の労働者さんが、病院に運ばれた先でお亡くなりになってしまわれまして。」
菌糸漏洩による汚染を除去するために多用される滅菌剤であるが、この薬剤も健康被害と無縁であるとは言えない。
菌の細胞膜を破壊し、同時に強烈な脱水乾燥を行う薬品。微量ならば即座に人体に悪影響は及ぼさないが、長期間にわたりこの薬粉を吸入しうる環境下で働き続けていれば、やがて肺胞内部に蓄積し続けた粉塵が原因で間質性肺炎を引き起こす。
ほぼ間違いなく与えられた業務内容が労働者の死因であり、労災として認められればそれなりに高額な補償金が遺族に払われるべき一件であったが……製剤会社は、それを断固として認めたくなかったらしい。
チャルラットは、語りながらも明確に苦々しげな顔立ちを浮かべていた。
「俺の診断の結果、労働者さんはタバコの吸い過ぎで元から肺が悪かった、っちゅうことになりました。ホンマに気ぃ悪い仕事ですけど、こういうお仕事かて突っぱねてたら食っていかれへんので。」
「市と密接な繋がりを有する企業となれば、いよいよお仕事を断るわけにもいかなくなりますね。ところで、ディスティさんのご両親についてのお話は、どういった経緯でお聞きなさったのです?」
「その一般向けに滅菌剤を売り出す、っちゅうプロジェクトを進めてるんが、ディスティさんのいとこさんですねん。この件で犠牲者が出なかったことになって助かった、言ぅてまぁえらいご機嫌でしたわ。」
語るチャルラットの傍らで、ディスティが表情を曇らせ、顔を背ける。
自分の両親だけでなく、親族に至るまで悪人揃い。それも相応の制裁を受けることなく、政治家や企業の重役として名を連ねている。
チャルラットに連れられた看護師、いわば親族としてのつながりを離れ、外部の人間としての立場になったからこそ、より彼らが世間から疎まれるべき存在であることは明瞭に見えるようになったのだろう。
リーピは更に、気になった点を尋ねる。
「ところで、ディスティさんも現場に連れられたということは、いとこさんから気づかれたりしなかったのですか?」
「私の顔なんて、覚えているわけありません。幼い頃に一度会ったきりで……幼少時と違って、私も随分と痩せましたし。そもそも、職場で人死にを出しているのに、利益だけにしか目を向けていない男ですし。」
「確かに、ディスティさんがあれだけ憔悴しきった状況を乗り越えたことなど、親戚の方々にとっては知る由もないですね。それで、ご両親の話も、昨日のお仕事の場で、彼が語った内容から聞き出したのですね?」
リーピの問いかけに対し、ディスティがすっかり顔を俯けて黙りこくってしまったため、チャルラットが引き継いで答えた。
「一般向けに滅菌剤を売る、っちゅうても、問題は売り出す場所ですねん。出来れば、一般市民かて滅菌剤を欲しがる、この街のど真ん中に小売店を置きたいっちゅうことで……あちらさんの狙い目が、あの大通りにある花屋さんの店舗ですわ。」
「アントンさんの花屋、ですね。まさに以前、ディスティさんのご両親がまだ議員秘書であった頃、不正をしてまで騙し取ろうとした土地です。」
「大通りに面してる建物は、他はだいたい金融屋か不動産屋で、素直に立ち退く連中やないですからね。結局、素人が土地を買って建てた店が、一番立ち退かせやすいっちゅう話になってしまいますねん。その地上げを担ってはるのが、ディスティさんのご両親です。」
彼らが架空の道路拡張工事をでっちあげ、花屋のアントンに対して立ち退きを求めた時、残された土地に出店を予定していた親族。それが、議員秘書の甥にあたる人物、製剤会社の役員なのだ。
彼が製剤会社にて新規プロジェクトを立ち上げ、滅菌剤を一般向けに販売する手筈を整える。街の大通りに面した一等地を、親族である議員秘書の立場を利用して奪い取り、滅菌剤の販売一号店を出店する。
頻繁に起きる菌糸漏洩に不安を抱く市民は、自前でも滅菌作業を行える手段を求めて殺到し、店舗は莫大な利益を上げるだろう……というのが、彼らが用意していた一連の計画だった。
不正を暴かれ、議員秘書としての肩書を失って街から追い出された後も、彼らは予見していた利益を諦めて手放すつもりなどなかったようだ。
「ディスティさんのご両親は、以前ひとたび挫かれた計画を再度実現しようと、この街に戻って来られるのですね。」
「まぁ、あちらさんも自業自得やっちゅうことになりますけど、それなりに切羽詰まってる状況らしくて、ですね。いつになったら土地と店舗を確保して販売開始できるんや、っちゅうて社長さんから圧かけられてる最中らしいんで。」
「……私の両親は、今度こそ手段を選ばないかもしれません。アントンさんの花屋さんが入っている店舗と土地を、何としてでも奪い取ろうとして。」
チャルラットの言葉を、あらためて顔をあげたディスティが引き継ぎ、リーピとケイリーへと真っすぐに視線を向けた。
今回彼女がリーピ達へと伝えたのは、正式な仕事の依頼ではない。
が、伝えずにいられない内容には違いなかった。この街で道理が捻じ曲げられることは珍しい話ではないが、せめて自分の手が届く範囲でどうにかしたいとの思いは、ディスティの中では殊に強かったのだろう。
リーピとケイリーの探命事務所が為せる対処に、彼女が明確な信頼を寄せている証でもあった。ディスティは再び、先ほどの言を口にする。
「あらためてお伝えします……あなた方の事務所に、私の両親、プロタゴとアリシアが訪れたとしても、その依頼を遂行する必要はありません。」
「重ねて、承りました。」
「市民や労働者への被害を前提としたビジネスに、私たちも協力する気はないからな。」
その眼にも念をこめるように見つめてくるディスティに対し、リーピに続いてケイリーも頷き返答した。
あくまで、リーピの探命事務所にディスティの両親からの依頼が入れば、という前提の話ではあったが……関わる必要性が見いだされなかったとしても、リーピにとっては無関心ではいられない状況には違いなかった。




