9.錬金術師たちの「退屈しのぎ」
アレンとミリアが協力して作り出した魔導具は、あっという間に村中に広まった。
まずは共同井戸に置かれた魔導ポンプ。重労働だった水汲みが、蛇口をひねるだけの簡単な作業に変わったことで、村人たちの生活はぐっと楽になった。そして、畑の開墾を手伝う魔導耕作機が導入され、硬い土をあっという間に柔らかくした。さらに、一振りで薪を割る魔導斧も村の共有施設として置かれ、村人たちはその驚くべき便利さに目を丸くした。
「本当に楽になった!ありがとう、アレンさん!」
「いやあ、まさか井戸がこんなに楽に使えるようになるとは!」
村人たちの純粋な感謝の言葉に、アレンは久しぶりに心の底から満たされるのを感じた。宮廷では、どんなに素晴らしい発明をしても、それは当然の義務であり、感謝されることなどなかった。功績はすべてグラフトのものとなり、アレン自身はただの道具として扱われていた。しかし、ここでは、ただ自分の好きなことをしただけで、誰かの役に立ち、喜びを生み出している。それは、彼が錬金術師を志した原点でもあった。
リリィは、やきもちを感じながらも、活き活きと研究するアレンの姿に喜びを感じていた。彼はもう、以前のような疲れた顔をしていなかった。時折、ミリアと専門用語で話し、自分には理解できない世界を築いていることに寂しさを覚えることもあったが、アレンが楽しそうにしているのを見れば、それで十分だと思った。
そして、リリィは二人を手伝い続けた。彼女が畑仕事や家事を熟知していることは、アレンとミリアが発明のアイデアを出す上で大いに役立った。リリィは、自分がアレンとミリアの世界の一部になれていることを感じ、再び無邪気な笑顔を見せるようになった。
アレンとミリアは、村人たちの生活をより豊かにするため、組織的に動くことを決めた。彼らの個人的な「退屈しのぎ」は、村全体を巻き込む壮大な計画へと発展していく。
この計画は、この小さな村の未来を、そしてやがては世界の歴史をも変えていくことになるのだった。