87.商業都市の物流見学
馬車が、活気に満ちた商業都市ルベールの城門をくぐる。
王都とは異なる、人々の活気と多種多様な商品が溢れる街並みに、オーロラ王女は胸を高鳴らせていた。
今回の視察は、隠れた目的があった。
エテルナ村のひとりの錬金術師が王国をどう変えているか。
それを確かめるまで王都へは帰らないつもりだった。
まず、オーロラはルベール市長との面会に臨んだ。
市長は、王位継承の可能性が低いとされる第三王女の訪問を、あくまで儀礼的なものとして捉えていた。
彼は笑顔を絶やさず、当たり障りのない言葉でオーロラを丁重にもてなした。
「殿下。ルベール経済は、王都による統制のおかげで安定を保っております。この秩序が、市民の安心と日々の繁栄を支えているのです。」
市長の言葉は、現体制を称賛する建前ばかりで、この街が抱える本当の課題について語ろうとはしなかった。
面会を終えたオーロラは、馬車に乗り、街の倉庫街へと向かった。
そこには、エテルナ村と提携している商会であるケンの店があった。
倉庫の前には、見慣れないゴーレムが、整然と並んでいた。
「これはいったい?」
オーロラが不思議そうにつぶやくと、店の奥から商会長のケンが現れた。
「いらっしゃいませ。お客様、そちらのゴーレムにご興味がおありですか?」
ケンは、店内の作業場を王女に案内した。
店内では、無数のゴーレムの魔石の交換や荷物の積み込みを行っていた。
「この飛行ゴーレムのおかげで、以前は馬車で一週間かかっていた各村への配送も、半日で完了するようになりました。馬車に比べ、輸送量は少なく、魔石も必要ですが、その効果は絶大です。」
ケンの説明に、オーロラの瞳は輝きを増した。
この飛行ゴーレムがもたらす効率化は、ルベールの物流を根底から覆し、経済全体を活性化させる可能性を秘めていた。
オーロラは、王都で聞いた報告以上の衝撃を目の当たりにしていた。
「素晴らしいわ。これこそが、国を豊かにする技術よ。この素晴らしい技術を、もっと多くの商会に広めるべきだわ。」
オーロラはケンに熱く語りかけた。
「私もそう思うのですが。人には様々な考え方がありますから…」
ケンは少し困った顔をしてそう答えた。
この飛行ゴーレムはケンのものではなく、エテルナ村から借り受けているそうだ。
さらに、農作物の収穫期は、エテルナ村へ返却する必要があるらしかった。
ケンは、このゴーレムを作成した人物の機嫌を損ね、ゴーレムを貸してくれなくなると困るため、自分たちからそういった提案はしたくないんだとか。
ケンは自分が話している相手が誰なのか、なんとなく気がついていた。
自分では解決できない問題を解決してくれる可能性があると思い、正直にすべてを打ち明けていた。
オーロラは、それ以上は持論を展開せず、礼を言ってケンの店を後にした。
次の目的地であるレオンハルト領での視察にオーロラは、胸を膨らませていた。
そこで目にするであろう光景は、このゴーレムたちがもたらした感動を、さらに上回るものに違いないと確信していたからだ。




