86.メイの一時帰還
エテルナ村の自宅で、アレンは複雑な装置の製作に集中していた。
この静かで創造的な日々こそが、アレンにとっての安寧だった。
アイがアレンの元へやってきた。
「アレン様。メイが、一時的な帰還を希望しています。」
アレンは手を止め、驚いたように顔を上げた。
この所、メイが王都で何をしているか、断片的な報告しか受けていなかった。
「メイが?わかった、お願いするよ」
アレンの指示を受け、アイは準備をはじめた。
「では、これよりメイを転送します」
工房の片隅に設置された魔導転送装置が淡い光を放ち始めた。
光が収まると、メイド服に身を包んだメイがいた。
「アレン様、ただいま戻りました」
「メイ。私が王都へ行っている間、アレン様を支えて下さい。」
今度は転送装置にアイが乗り込んだ。
「アレン様、行ってまいります」
アイの言葉に重なり転送装置は再び動きだし、アイを王都へ転送した。
「おかえり、メイ。王都の事、お疲れさま」
アレンから感謝の言葉を聞き、メイは喜びを表すようにかすかに振動する。
「アレン様。王都の近況は、ご説明に時間がかかります。まずは紅茶をお淹れしますので、そちらの椅子におかけください。」
メイは慣れた手つきで道具を整え、芳醇な香りの紅茶を淹れた。
アレンはメイに促されるまま椅子に腰掛け、差し出されたカップを受け取った。
一口含むと、心地よい温かさと香りが疲れた心身を癒した。
「ありがとう、メイ。おいしいよ」
メイは、王都での事を詳細に語り始めた。
まず、彼女が差し出したのは、王都の錬金術師長代理としてメイが就任したことを記した羊皮紙だった。
アレンは羊皮紙に目を通し、驚きと喜びを抑えきれなかった。
「すごいじゃないか、メイ!君が錬金術師長代理に…!」
アレンはメイが事実上、錬金術師のトップになった事を喜んだ。
それは、メイ自身の努力が認められた結果だとわかったからだ。
「この地位は、本来であればアレン様が就くべきものです。もし今、王都へお戻りになるのであれば、錬金術師長という地位はいつでもアレン様のものです」
メイはそう告げるが、アレンは静かに首を横に振った。
「僕が王都に戻ることはないよ。僕はここで、好きな事を研究していたいんだ」
メイはアレンの意思を尊重し、穏やかに頷いた。
そして、その他の近況を報告し始めた。
「辺境伯レオンハルト様が、人工魔石の技術を公開されました。魔石の生成は今後国営事業として、この技術は管理することになります」
メイの報告は、新たな技術が王国全体に広がり始めていることを示していた。
アレンは人々がさらに豊かになる事を期待した。
「第三王女のオーロラ様が各地の視察をはじめました。今後、商業都市ルベール、そしてレオンハルト領の視察を予定されております。そして、最後の目的地として、このエテルナ村の視察を予定されております」
メイの言葉に、アレンはおどろいた。
商業都市やレオンハルトの邸宅ならまだしも、仮にも王女様がこんな辺境の村に来ることになるとは。
「王女様ご一行の到着は、約1ヶ月後となります。王族をお迎えするに相応しい、迎賓館の作成や村の環境整備を準備いただく必要がございます。」
アレンはこの話を急ぎ村長にするためメイと一緒に家を出た。




