85.大臣の決断
メイは大臣に、オルデンを解任し、自分を錬金術師長として任命しろと、大胆な要求を突きつけた。
オルデンの立場を奪う代わりに、自らが王国の錬金術を担うと宣言したのだ。
大臣は、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
オルデンを解任することは、大きな問題を起こすだろう。
しかし、メイの要求はあまりにも合理的だった。
大臣は、メイの言葉に逆らえない、いや、逆らうべきではないと悟った。
実際、メイは、すでに王国の命運を握る存在となっていたのだから。
「オルデン、お前が錬金術師長に就任してから、王国の錬金術は停滞したままだ。新しい発想も、新たな技術も、お前からは何一つ生まれていない。それに比べ、メイは、アレンの知識を完璧に引き継ぎ、魔晄炉の安定化だけでなく、石版の普及という、具体的な成果をすでに王都にもたらしている」
オルデンは、その言葉に反論しようと口を開いたが、言葉が出なかった。
大臣は、オルデンの動揺を無視し、静かに続けた。
「お前がその座に固執しているのは、もはや錬金術の発展のためではない。自らの権力と名誉を守るためだろう。その点、メイの要求は、王国のために最善を尽くすという覚悟の表れだ」
大臣は、静かにオルデンに告げた。
「この場をもって、オルデンを錬金術師長から解任する」
大臣の言葉は、重く、議場に響き渡った。
「しかし、錬金術師長は、当面の間不在とする。代わりにメイを、錬金術師長代理に任命する」
「な、なぜです!大臣!なぜそこまでゴーレムの言うことを聞くのですか!」
オルデンは、解任されたことへの怒りと、メイへの屈辱から、理性を失って叫んだ。
「あのゴーレムが一体何者だというのですか!」
大臣は、怒り狂うオルデンをただ静かに見つめた。
「オルデン、お前は引き際を間違えた。王国の歴史を変える存在、それがメイであり、アレンなのだ」
大臣の言葉は、もはや議論を求めるものではなかった。
オルデンを完全に失脚させることは、大きな反発を招くだろう。
大臣は、その反発を最小限に抑えるため、錬金術師長は当面不在とするという措置をとった。
それは、旧来の貴族たちの面子を潰しすぎない、せめてもの配慮だった。
そして、錬金術師長という地位は、本来アレンにこそ相応しい。
彼が王都にいない以上、その座を安易に埋めるべきではない、という大臣の強い意志でもあった。
閉会後、大臣は自らの執務室へと戻った。
この数日、大臣は不穏な問題に悩まされていた。
執務室の魔導灯が、原因不明の明滅を繰り返していたのだ。
それはまるで、誰かが、魔晄炉の出力を意図的に操作しているかのようだった。
しかし、メイの提案を概ね受け入れた今日。
執務室の魔導灯も、再び安定した光を放ち始めてた。
誰かの意思を尊重した大臣への返礼としたかのように。




