8.再会と、心を通わせる実験
アレンの目が驚きに見開かれる。
「ミリア……なぜここに?」
アレンの言葉に、ミリアは涙を浮かべたまま、ただまっすぐに彼を見つめた。その眼差しは、宮廷にいた頃よりもずっと真剣で、どこか傷ついているように見えた。
「私も、静かに研究できる場所を探していて…アレンさんがここに来たという噂を聞いて…」
ミリアはそう告げた。その言葉には、アレンと同じ目的を持っていたことへの安堵と、旅の果てにようやくたどり着いた場所への喜びがにじんでいた。アレンは扉を開け放ち、彼女を中へ招き入れた。
小屋に入ったミリアは、室内の隅に置かれた、作成途中の魔石で動くポンプに気づいた。宮廷では見ることのできない、粗削りだが独創的な設計に、ミリアは驚きを隠せない。
「これは…まさか、アレンさんが?」
アレンは照れくさそうに頷いた。「ああ、まあ、暇つぶしだ」
その日の夜、アレンが食事の準備をしていると、ミリアが静かに口を開いた。
「…グラフト様は、アレンさんがいなくなってから、もっとひどくなったんです。執務室で何度も肩に手を置いたり、私の才能を自分のものにしようと、邪魔ばかりしてきて…」
ミリアは絞り出すように語る。
「アレンさんがいたから、耐えられたのに。アレンさんがいなくなって、私、一人になってしまって…」
言葉が途切れ、ミリアの瞳から再び涙がこぼれ落ちる。アレンは黙って、その話を聞いていた。
翌朝、アレンはミリアの滞在について村長に相談するため、彼女を連れて村長の家を訪れた。村長の娘であるリリィは、アレンがミリアと一緒にいるのを見て、初めて胸の奥にざわめきを感じた。それは、ミリアにアレンを取られてしまうかもしれないという、かすかな焦りだった。
村長は、優秀な錬金術師が二人も村にいることは歓迎すべきことだと考えた。しかし、アレンとミリアが同じ屋根の下で暮らすことは、リリィをアレンの嫁にしたいと考えている村長にとっては到底認められないことだった。
「アレン殿、旅の錬金術師を歓迎するのは良いことだ。だが、結婚もしていない男女が同じ屋根の下で暮らすというのは、どうだろうか」
村長はそう言い放ち、リリィをアレンの嫁にしたいという思惑を暗に示した。
「だが、ご心配なく。アレン殿の隣の空き家をミリア殿に貸し与えよう」
村長はそう提案した。ミリアは、アレンの近くに住みながら、純粋な錬金術を研究できることに喜びを感じた。アレンもまた、ミリアが村に留まることを快く受け入れた。
ミリアは、アレンの隣の家に移り住んだ。翌日から、彼女はアレンと行動を共にするようになった。彼女は、宮廷で培った高度な技術と知識で、アレンが作った魔導ポンプを次々と改良していく。
魔導ポンプは、より強力な魔力石を組み込むことで、一度の魔力で一日分の水を確保できるようになった。二人は共に作業しながら、宮廷でのしがらみから解放された純粋な錬金術の喜びを分かち合った。
しかし、そんな二人の様子を、リリィは複雑な思いで見つめていた。アレンがミリアと専門的な話で盛り上がっているのを見て、リリィは疎外感を感じた。自分の知るアレンは、のんびりと畑仕事をする人だった。しかし、目の前のアレンは、ミリアといる時、宮廷時代の輝きを取り戻したかのようだった。
「なんだか、アレンさん、遠くに行っちゃったみたい」
リリィはそう呟くと、少し素っ気ない態度をとったり、ミリアにライバル意識を向けるような言動をするようになった。彼女の心には、かすかなやきもちが芽生えていた。