77.カナエ村の奇跡
その日から、アイは近隣の魔素の濃い地域へとドローンを飛ばした。
そして、数日後、その結果が実を結んだ。
「アレン様、大規模なコミュニティが存在する可能性が高い地域を見つけました」
アイの言葉に、アレンとフィオナは息をのんだ。
「…本当に。私たち以外にも、魔族がいそうなんですね」
フィオナは静かにそう呟いた。
その声には、喜びと同時に、これまで抱えていた孤独が和らいでいくような安堵が含まれていた。
「今はあくまでデータ上の推測です。実際に生存者がいるかどうかは、直接確認が必要です」
フィオナに対して、アイは淡々と答えた。
アレンは希望の光が見えた一方で、それが確実なものではないことを理解していた。
そこでアレンは、フィオナとアイを連れて、そのコミュニティへ向かうことを決意した。
旅の行程は片道5日間。
アレンたちは森に入る前に、森の近くのカナエ村で一晩の宿を借りることにした。
「すみません。宿屋はどこでしょうか?」
アレンは、村の人を呼び止め、場所を聞いた。
村人はアレンの後ろにいたフィオナを見た後、一瞬顔色を変えた。
しかし、すぐに戻り、宿屋の場所を丁寧におしえてくれた。
カノエ村の、町並みはアレンがこれまで見たどの村とも違い、なんともいえない独特な風情があった。
アレンたちはカナエ村の宿屋で、夜を静かに過ごすことに決めた。
深夜、アレンはアイに起こされた。
「アレン様、フィオナさんの気配が宿屋の中から感じられません」
「フィオナはどこにいるの?」
アイはフィオナが持つ石版を頼りに場所をさがした。
「見つけました。フィオナさんは、村の中央の集会所へ向かっているようです」
アレンは不穏な気配を感じ、宿屋を抜け出しアイとともに集会所へと向かった。
集会所の前には深夜にも関わらず見張りが立っており、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
アレンは警戒しながら建物に近づき、窓から中を覗き込むと、そこにはたくさんの村人が集まっていた。
そしてその中心には、困惑した表情で立つフィオナの姿があった。
「フィオナ!」
深夜の異様な光景にアレンは思わず声を出してしまった。
それほど大きな声ではなかったが、集会所にいた村人たちが一斉に窓の方を見た。
見張りを行っていた若者がアレンの近くへ走ってきた。
「中へどうぞ」
うながされるまま、アレンは集会所の中へ入った。
「アレン、来てくれたんだな」
フィオナは自分のことを心配して、追いかけてくれたアレンに嬉しさをかくせず、顔が崩れていた。
そんな二人を見る村人たちも、ほほえましい光景をみて笑っていた。
「アレン殿とやら、私はこの村で村長をしているジェイドと申します。ご心配をお掛けしてしまったようで申し訳ありません」
ジェイドはそういいながら、アレンに対し頭を下げた。
「いえ、でも、この集まりはいったい?」
アレンは深夜にフィオナを呼び出したこの異常な集まりが気になり村長に聞いた。
「こちらのフィオナさんから、われわれの同胞の特徴を感じ取りました。それで、直接お話を聞こうと思いこちらにお呼びだてさせて頂きました」
ジェイドはていねいに返答してくれたが、アレンは意味がわからなかった。
「それはいったい?・・・同胞ということはもしかして・・・」
アレンは一つの答えにたどり着いた。
「やはり、アレン殿はフィオナさんの特徴をご存知なのですね。ご察しのとおり、われわれは彼女の同胞です」
そう言うと、ジェイドは額にかかる髪の毛を持ち上げた。
額には、フィオナと同じような大粒の宝石が埋まっていた。
「ココは、魔族と人族がともに暮らす村です」
ジェイドは静かに語りだした。




