75.古代文明滅亡の真実
ある夜、アイがいつもよりも深刻な面持ちでアレンに話しかけた。
「アレン様、魔族の森での調査中、興味深い記録を発見しました」
「それは、どういった内容?」
アレンもアイのいつもとは違う雰囲気を感じ取った。
「古代文明が滅んだほんとうの理由です」
アレンは息を呑んだ。
アイが語り始めたのは、王都に残る歴史とは全く異なる、恐るべき物語だった。
「古代文明は、絶え間ない技術の進歩の果てに、資源の投入なしで永久に利用できる『無限魔晄炉』という画期的なエネルギーシステムを開発しました。魔族は、これを永遠の繁栄を約束するものだと信じていました。しかし、その真の危険性を誰も理解していなかったのです」
アイは淡々と続けた。
「そして、稼働をはじめた初日の事です。無限魔晄炉は制御不能な暴走を始めました。大爆発を起こし、無限魔晄炉をかかえる都市は一瞬で蒸発しました。この爆発は、古代文明が誇る技術の終焉を意味しました。私が魔族の村の施設を調べて入手したデータログも、その日を最後に記録が途絶えていました。確かに都市に住む多くの魔族がこの爆発で命を落としました」
アイは一呼吸おいて、言葉を続けた。
「しかし、本当の悲劇はその後でした。爆発によって無限魔晄炉の密閉が破られ、炉を動かす特殊なエネルギーが空気中に放出されました。そのエネルギーは有毒な『死の灰』となり、風に乗って大陸全土に広まりました。爆発の被害を逃れた人々も、この死の灰によって次々と命を落としていきました。爆発よりも、この死の灰のほうが、より多くの人々を殺めたのです。死の灰の蔓延は、一部のコミュニティを除き、魔族のほぼすべてを絶滅させました」
大地は荒廃し、植物は枯れ、生きとし生けるものは死に絶え、世界は一度静かな死を迎えた。
アレンは、まるで目の前で映像が再生されているかのように、その悲劇を詳細に聞かされていた。
「なぜ、この森の魔族だけが生き残れたんだ?」
アレンは震える声で尋ねた。
「私の調査とシルヴィアさんの口伝を照らし合わせた結果、判明しました。この森は、古代から特殊な魔素の循環があり、その濃度が非常に高かったのです。その特殊な環境が、まるで天然の結界のように死の灰の影響を弱め、森に住む魔族だけが生き残ることができました。他の地域にいた魔族や人類は、全て死に絶えました。」
アレンは言葉を失った。自分が追い求めてきた技術が、この世界の歴史を滅ぼした技術へと至るものだったと知り、深い絶望と恐怖に包まれた。
彼は、スローライフを求める逃避行の末に辿り着いた安息の地で、あまりにも重い過去と向き合うことになった。




