66.人工魔石の制作
かつて、魔晄炉の燃料として湯水のように使われていた魔石は、そのほとんどを王都が商人から大量に買い上げていた。
このせいで、市場では供給が追いつかず、常に魔石が品薄の状態にあり、価格は高騰していた。
しかし、メイが主導した魔晄炉の改良によって、その状況は一変した。
魔晄炉のエネルギー効率が飛躍的に向上したことで、燃料としての魔石の需要は激減した。
結果、魔石の価格は下がり安定した。
そもそも、魔石は、魔道具やゴーレムのコアに使う希少素材で、燃料として使うなど錬金術師からすれば常軌を逸している。
アレンは、アイからの王都の報告を聞いていた。
もはや、魔石を巡る争いは王都にはかった。
「安定……か」
アレンは、ふと漏らした。
それを聞いたアイがめずらしく提案をしてきた。
「アレン様、今こそ人工魔石の開発をおこなう時期かと思われます。市場に人口魔石を投入しても、それほど大きな問題は起こらないでしょう」
「なるほど。たしかにやるなら今かもしれないね」
以前アレンは、アイから古代技術の中には人工的に魔石を製造する技術があると聞いていたが。
需要が高い時に人口魔石を市場に投入するのは戦争の火種になる可能性を考慮し研究すらしなかったのだが。
エテルナ村では他の地域よりも多数のゴーレムが稼働しており、今後もその需要は増えると考えられる。
「天然魔石の供給が不安定なままであれば、いつか再び高騰し、混乱を招く可能性があります。人工魔石は、そのリスクを恒久的に排除し、市場を安定させるために役立つと考えます」
自分の技術が、社会全体の安定に貢献できる。
その可能性に、アレンの心はざわめき始めた。
しかし、同時に、アイの言葉にはどこか違和感があった。
いつもの無機質で論理的な分析の中に、ほんのわずかだが、何かを期待しているような響きを感じたのだ。まるで、この提案の先に、アイ自身が強く望む何かが隠されているかのように。
「わかった。だが、そのためにどうすればいい?」
アレンは、アイの言葉の奥にある意図を探りながら、問いかけた。すると、アイは間髪入れずに返答した。
「魔素の凝縮です。魔の森は、極めて高い魔素濃度を維持しています。この無限とも言える魔素を利用すれば、理論上、ほぼ無料で無限に人工魔石を生成することが可能です」
その言葉に、アレンの錬金術師としての好奇心がくすぐられた。
アレンは、王都で閉塞していた自身の創造性が、再び解き放たれるのを感じた。
アイは、さらに続けた。
「そして、そのために必要なのは、空気中の魔素を直接凝縮し、結晶化させる装置です。設計図はすであります。あとは、みな様のご協力があれば実現は可能です」
「わかった、やろう」
アレンは、迷いを振り払い、静かに答えた。
アレンの決断に、アイはおかしな返答をした。
「感謝します、アレン様」
アレンは、アイの言葉の真意をまだ知らない。




