62.情報革命の序章
ここ数年、魔晄炉は王都の技術力の象徴でありながら、その維持管理は多くの錬金術師にとって過酷な労働となっていた。
予測不能な不具合が頻発し、炉の安定稼働のために昼夜を問わず状況をチェックする必要があった。
絶え間なく消費される魔石は王国財政を圧迫し、同時に錬金術師たちも本来の専門である錬金術の研究に専念できずにいた。
しかし、この状況は、アレンの代理人として王都に派遣されたゴーレムのメイによって一変した。
メイは、まず魔晄炉のシステムを分析し、非効率な構造を正確に修正した。
さらに大臣に対し、今後の魔晄炉の管理をゴーレムに任せるという前代未聞の提案を行った。
最初は戸惑っていた大臣であったが、メイの完璧な論理に圧倒され、その提案を受け入れた。
人間と異なり休む必要のないメイは、資源が豊富な王都において瞬く間に高性能なゴーレム製造機を作成した。
こうしてゴーレム製造機が次々とゴーレムを生み出し、数日のうちに魔晄炉を運用するのに必要なゴーレムの準備を終えた。
これらのゴーレムは魔晄炉の内部と外部に配置され、炉の稼働状況を完全に管理し始めた。
ゴーレムが完全に管理することで、出力は倍以上に跳ね上がった。
にもかかわらず、魔石の消費量は10分の1以下にまで抑えられ、王都のエネルギー問題は過去のものとなった。
魔晄炉の維持管理という重労働から解放された錬金術師たちは、メイの技術に驚嘆し、心から感謝した。
メイの高い技術力に関心を持った彼らは、研究の行き詰まりなど、さまざまな相談のためにメイを訪れるようになり、メイは錬金術師たちから信頼を得ていった。
メイはこうした王都の人々との交流を通じて、魔晄炉とは別の「課題」に気づいた。
それは、王都の膨大な情報の非効率な管理体制であった。
貴族の派閥争いや商会の不正、人々の不満など、多くの情報が錯綜し、真実が見えにくくなっている。
この問題こそが、王都の運営を妨げている根本原因だとメイは分析した。
この腐敗した情報管理体制は、いつか必ずアレンの存在を脅かすことになる。
メイはそう確信し、この問題を解決する手段として、エテルナ村で成功を収めた古代技術の詰まった『石板』の導入を検討する事にした。
王都の「情報」そのものを管理するという、壮大な計画の始まりであった。




