55.商いの神と新たな技術
1ヶ月間のグロリア村への出張を終え、エテルナ村の自宅に戻ったアレンは、ひさしぶりに自宅で午後のひとときを過ごしていた。
そのとき、扉をノックする音が聞こえた。
「アレンさん、いらっしゃいますか?」
アレンが扉を開けると、商人のカレンが満面の笑みで立っていた。
「ちょっといいですか?」
アレンはカレンを中へ招き入れると、彼女は興奮した様子で話し始めた。
「うちの店、最近、王都の商会とも取引を始めたんです。向こうの連中が魔石を欲しがっていてね。本当にちっぽけな、大きさのものでも、飛ぶように売れるんですよ」
そう言って、カレンはカバンから石板を取り出し、アレンに見せた。
「それで、メルちゃんに相談したら、アレンさんに話をしに行くといいって言うんです。だから、こうして来たんです」
アレンは興味深そうに、カレンの石板に目を向けた。
「メルちゃん?」
アレンの声を聞いて、石板は男性の声で話しだした。
「アレン様、はじめましてメルクリウスと申します。以後お見知りおきを」
石板の名前を「商いの神様」から取ったとは、いかにもカレンらしいとアレンは思った。
アレンは少し気になる事があったので、今日答えるのは控えることにした。
話が途切れたタイミングで、カレンはにこやかに言った。
「アレンさん。私の店で新しいケーキを作ったんです。今度、ご一緒にどうですか?」
考え事をしていたアレンは「ぜひ」と答えた。
カレンはその返事に満足したようで、満面の笑みでアレンの家を後にした。
アレンは一人になると、改めて自分の石板「アイ」に問いかけた。
「アイ、カレンさんの話。どういった話かわかる?」
アイは即座に答えた。
「はい。魔石は、空気中の魔素が集まって結晶化したものです。この原理を応用すれば、人工的に生成することは難しくありません」
人工的に魔石を作る?
現代世界にそのような技術は存在すらしない。
アイはさらに説明を続けた。
「魔素は、魔物が多く生息する『魔の森』のような場所では、濃度が高くなります。そこで空気を集め、圧縮する機械を作れば、さらに効率的に魔石を生成できるでしょう。しかし、その技術は世界に混乱をもたらすかもしれません」
「この魔素は、この近くの『魔の森』のような場所では、より濃度が高くなります。そこで空気を集め、圧縮する機械を作れば、効率的に魔石を生成できます」
ここまでは素晴らしい話だと思っていたが、アイは最後に付け加えた。
「しかし、この技術を使って魔石を生み出せば、戦争の火種になる可能性があります」




