44.変わりゆく村
新村の診療所で意識を取り戻したハルカは、命を救ってくれたアレンに、震える手でお金を差し出した。
「治療代だ。こんなことになってすまなかったね」
しかし、アイの声がそれを制した。
「救命措置にかかった費用は、あなたの想像をはるかに超えるものです。現地でのバイタル確認、ゴーレムによる診療所への搬送、特効薬の購入とゴーレムによる薬の配送、そして今受けている診療所の高度な医療など、非常に高額な費用がかかりました」
その非常な音声にハルカは震えた。
「そこまでして、私のような年寄りを助ける必要があったのかい? だったら、見殺しにしてくれてよかったじゃないか!」
ハルカが毒づくように言うと、アレンは静かに首を振った。
「そんなこと、言わないでください。……たとえ、どんなに費用がかかっても、俺はハルカさんに生きていてほしい。そう思ったんです。」
アレンの心からの言葉に、ハルカは打ちのめされた。命を救ってくれたのは、わたしが否定した新しい技術と、それを支える若者たちの優しさだった。ハルカはわたしの非を悟り、命の代償として示された莫大な費用を、心からの償いと、未来への投資と捉えた。
その夜、ハルカは眠ることなく考え続けた。そして翌朝、彼女は先祖代々受け継いできた私財の全てを売却し、得たお金を全て村長に渡した。
「これを、わたしの治療費に充てておくれ。そして残りは、村の発展のために役立ててくれ」
驚く村長と村人たちを前に、ハルカは静かに続けた。
「わたしは、新村へ引っ越す。新しい暮らしがどれほど素晴らしいか、この身をもって皆に伝えてやるよ」
ハルカはこの出来事をきっかけに考えを改め、新しい技術が伝統を壊すのではなく、むしろ大切な命や暮らしを守るためにあると悟った。そして、彼女の決断が、彼女に賛同していた村人全員の心を動かし、ついに全住民の移住が決定した。ハルカは自ら陣頭に立ち、一人ひとりに新しい村への移住を説いて回った。
「アレンは、あんたらを守るために必死なんだ。新しい暮らしは楽になる。安心しろ。このわたしが保証するからね」
そう言って、ハルカはアレンをにこやかに見つめ、隣にいたリリィに微笑みかけた。
「アレンはわたしの旦那を思い出すようないい男だ。リリィ、あんたもアレンの隣にいて、一緒に村を盛り上げておくれ」
思わぬハルカの言葉に、リリィは赤面する。しかし、この一言で場は和み、アレンの提案は大きな支持を得た。




