25.飛行ゴーレム開発の鍵
商業都市ルベールでカレンがケンと交渉を重ねている頃、
エテルナ村ではカナがまっすぐにアレンの工房へと向かっていた。
カレンが突きつけた現実の重さ――「大規模な輸送手段が不可欠」という言葉が、カナの頭から離れなかった。
それでも、彼女の足取りは軽やかだった。困難な課題ほど、解決した時の喜びは大きいと知っていたからだ。
工房の扉を開けると、アレンはいつものように、複雑な魔導具の部品を組み立てる作業に没頭していた。
彼は一心不乱に手を動かしている。
その姿を見て、カナはアレンの純粋な技術への探求心を思い出した。
この問題は、アレンの錬金術なしには解決しない。
カナは意を決し、静かに口を開いた。
「アレンさん、少しお時間をいただけますか。村のことでご相談があります」
アレンは手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
カナは、カレンとのやり取り、そして物流が村の発展を阻む最大の壁であることを、ありのままに話した。
彼女の言葉には、会計役人としての責任感と、村の未来への切実な願いが込められていた。
「村の財政は安定しました。でも、このままでは成長が止まってしまいます。アレンさんが生み出してくれた豊かさを、村の外に広げるには、これまでの何倍もの量を運べる、新しい輸送手段が必要なんです」
アレンはエテルナ村で、誰からの命令も受けず、生活を良くする発明を楽しんでいた。
実際、アレンは農業プラントの管理用に小型の飛行ゴーレムを開発していた。それは、水やりや害虫駆除を自動で行うためのものだ。また、収穫した作物を倉庫に運ぶための中型の飛行ゴーレムの開発も検討していた。
しかし、それはあくまで村の中での効率化に過ぎない。
だが、カナの言葉は、アレンの心を深く揺さぶった。
彼女が提示したのは、純粋な技術的課題だった。
巨大な荷物を、大量に、効率よく運ぶ方法。
それは、錬金術師としてのアレンの好奇心を刺激する、本質的な問いかけだった。
アレンはしばし瞑想するように考えを巡らせた。
そして、以前にフィオナから託された、巨大な魔石の存在を思い出した。
それは、魔の森の魔物から取れた、尋常ではない魔力を秘めた魔石だった。
これまで、あまりの大きさに使い道が見つからず、工房の奥で眠らせていたものだ。
「巨大な魔石……。これがあれば、僕の錬金術と組み合わせることで……」
アレンの顔に、いつもの退屈そうな表情ではなく、久しく忘れていた創造の光が宿った。
それは、かつてアレンが王都で新たな錬金術を生み出そうと奮闘していた頃の、輝きそのものだった。
「カナさん、引き受けます。村の物流問題を解決できる、新しい魔導具を開発しましょう。巨大な、空を飛ぶゴーレムを」
アレンの言葉に、カナは驚きと安堵の入り混じった表情を浮かべた。
目の前の錬金術師が、単なる逃亡者ではなく、村の未来を切り拓く開拓者へと変貌しつつあることを、彼女はこの瞬間、確信したのだった。




