21.1年後の王都
錬金術師長グラフトが王都の地下牢に幽閉されてから、すでに1年が経過していた。
王都は、栄華を誇ったその姿から、静かに、だが確実に生気を失いつつあった。
かつてグラフトが自身の助手たちに任せていた魔晄炉の調整は、アレンとミリアという二人の天才が同時に去ったことで、誰も完璧に引き継ぐことができなかった。
王都の機能は、まるで慢性的な病に侵されたかのように、少しずつ衰弱していった。
不安定な挙動を見せるたびに、残された錬金術師たちは、魔晄炉に大量の魔石を投入する強引な手法でなんとか安定を保っていたが、それは根本的な解決にはなっていなかった。
夜になると、王都の代名詞であった煌びやかな魔導灯は、今ではまるで死にゆく蛍のように弱々しく点滅し、やがて薄暗い光しか放たなくなった。
街路は深い闇に包まれ、人々の顔からは活気が失われ、これまで当たり前だった夜の賑わいは完全に消え去った。
完全な機能停止だけは免れているものの、市民が感じているのは、得体の知れない不安と、日々を脅かす不便だけだった。
大臣の部屋には、連日、魔石の在庫報告書が山のように積み上げられていた。
この1年間、膨大な量の魔石が消費され続けた結果、王都の魔石備蓄は底をつきかけていた。
王都の生命線である魔石資源が尽きれば、街は完全に機能を停止してしまう。
それは、大臣にとって悪夢だった。
大臣は、一人静かに思考を巡らせた。
王都の機能は完全に麻痺寸前、市民の不満は爆発寸前だ。
彼は、グラフトが連日怒鳴り散らしていた原因が、二人の助手だった錬金術師の辞職であったことをようやく知った。
当時、大臣はアレンの存在をさほど気にも留めていなかった。
彼は、グラフトが育てた、数いる若手の錬金術師の一人だと認識していただけだったのだ。
今にして思えば、グラフトの醜い嫉妬が、才能ある若者を追いやり、この未曾有の危機を招いたのだと、深い後悔の念に囚われた。
「もはや、彼らを見つけ出すしかない…!」
大臣は、最後の希望を託して、密かに信頼できる部下を呼び寄せた。
「あらゆる手段を使って、アレンとミリアを探し出せ。この王都の未来は、もはや彼らの手にかかっている」
王都の命運は、遠く離れた村で穏やかな日々を送るアレンの存在に、すべて託されていた。
そして、その穏やかな日常に、王都の崩壊という巨大な波乱が、静かに、しかし確実に迫りつつあった。




