18.村の危機
アレンの研究室の扉が力強く叩かれた。扉を開けると、憔悴しきった表情の村長が立っていた。
「アレン、ミリア!お願いじゃ、わしらの村をどうか救ってくれんか…!」
村長はいつもの穏やかさを完全に失っていた。アレンが理由を尋ねると、村長は言葉を詰まらせ、彼を村役場へと連れて行った。
役場の事務室に入ると、真面目な顔つきの若い女性が、山積みの帳簿と向かい合っていた。彼女こそ、村の会計担当の役人、カナだった。村長は彼女に、アレンに状況を説明するよう促した。
カナはアレンを一瞥すると、少し警戒した表情で言った。「あなたが、最近村で変な道具を作っていると噂の…」
カナは深くため息をつき、村の現状を話し始めた。
「この数年、村の若い人たちがどんどん外に出て行ってしまって。残った人たちも年々歳をとって、畑を満足に耕すことができなくなっているんです。そのせいで、収穫量は減る一方。税収も底をついて、このままでは冬を越すための備蓄すら賄えません…」
カナの言葉は、村の厳しい現実を突きつけた。エテルナ村は豊かな自然に恵まれていたが、その静けさが同時に村の抱える問題を覆い隠していたのだ。
アレンは状況を理解するため、カナに帳簿を見せてもらうよう頼んだ。カナは少し躊躇したが、村長の「頼む…」という言葉にしぶしぶ帳簿を差し出した。アレンは数字を丁寧に見ていく。カナが言うように、グラフは右肩下がりの一途をたどっていた。だが、その中に一点、異質な光を放つ数字があることに気づく。ほとんどの農家が赤字か、かろうじて黒字を維持する中、一軒だけずば抜けた納税額を記録している家があった。
「カナさん、このエルナさんという方は、一体どういう方なんですか?」
アレンの問いに、カナは不思議そうに眉をひそめて答えた。
「彼女はただの農家です。それなのに、毎年村の他の農家とは比べ物にならないほど大量の作物を作っているんです…正直、私には信じられないんです」
カナの言葉を聞き、アレンは一つの仮説を立てた。
「村長、もしかしたら、この問題を解決できる糸口があるかもしれません。」
アレンの言葉に、村長はかすかな希望を抱いた。アレンは村の立て直しという大きな課題に挑むことになり、その第一歩として、村で唯一の希望であるエルナという人物に接触することを決意するのだった。




