17.大臣の裁き
大臣の叱責に冷や汗を流しながらも、グラフトは一時の猶予を得た。
しかし、彼に残された時間はわずかだった。
アレンとミリアの不在が引き起こした魔晄炉の不調は、もはや通常の錬金術師の手には負えない。
王都全体が、静かに崩壊へと向かっていた。
グラフトは、自身の研究室の地下深くに足を踏み入れた。
そこは、彼の独断で進められてきた禁忌の研究施設だった。
彼は、大量の魔石を一箇所に集中させ、本来の出力をはるかに超えるエネルギーを引き出す危険な実験を試みようとしていた。
「アレン…ミリア…お前たちがいないと、この王都は動かないとでも思ったか?」
グラフトの瞳に、狂気の光が宿る。
彼のプライドは、二人の才能に打ち砕かれていた。
その劣等感と復讐心こそが、彼を禁忌へと駆り立てる原動力だった。
彼は、王都の地下に配置された巨大な魔石に、複雑な錬金術を通じてエネルギーを注ぎ込む。
儀式は成功したかに見えた。
魔晄炉は一時的に安定を取り戻し、街の魔導灯は再び輝きを取り戻す。
市民は歓声を上げ、グラフトを英雄として称えた。
しかし、この一時的な安定は、魔晄炉にさらなる負荷をかけ、内部の魔力循環システムに深刻な損傷を与えていた。
数日後、魔晄炉は再び不安定な挙動を示し始める。
今度は単なる出力不足ではなく、エネルギーが暴走する危険な状態だった。
魔導灯は不規則に点滅し、街の機能は完全に麻痺。
以前よりも事態はさらに悪化していた。
「くそ…!なぜだ…!」
グラフトが焦燥に駆られる中、研究室の扉が激しく叩かれた。
そこに立っていたのは、大臣が立っていた。
「グラフト!貴様、一体何をしてくれた!」
大臣の顔は怒りで赤く染まっている。
魔晄炉の暴走は、王都の機能を完全に停止させ、市民の間で暴動寸前の事態を引き起こしていた。
大臣は、グラフトがアレンとミリアの才能を妬み、彼らを宮廷から追い出したことをすでに把握していた。
「お前のおごりが、この事態を招いたのだ!王都の栄光を、お前は一瞬にして地に落とした!」
大臣の言葉は、グラフトの心を深く抉った。
彼は必死に弁解しようとするが、大臣は耳を貸さない。
「もはや貴様の居場所は、ここにはない。貴様をただちに錬金術師長の座から降ろす。王国の恥部として、貴様の存在は歴史から抹消されるだろう」
大臣は淡々と告げた。
グラフトの顔から血の気が引いていく。
「ま、まさか…」
「貴様は、これから王都の地下にある特別な監獄で、生涯を終えることになる。禁忌の錬金術師たちが収容される、二度と日の光を浴びることのない場所だ」
グラフトは、自身の愚かさを悟り、膝から崩れ落ちた。
アレンとミリアへの憎しみから行った実験は、彼自身の地位と名声を完全に失わせる結果となった。
彼のプライドは、粉々に砕け散った。
彼の心は後悔から憎しみへと変わり、王都の栄光を取り戻すという大義名分は、ただの妄執へと変貌した。
彼は、王都の闇に葬られ、失われた栄光とアレンたちへの復讐を胸に、静かに狂気を募らせていく。
そして、王都は、アレンとミリアという天才たちを失った代償を、これから払っていくことになるだろう。




