表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スローライフはもうあきた  作者: まいぷろ
第1章:宮廷からの逃避
1/76

1.理不尽な宮廷の日常

アレンは、今日も宮廷錬金術師としての任務に追われていた。


王都内の魔法装置の調整、新薬の開発、さらには他の錬金術師の失敗の尻ぬぐいまで。降りかかる任務の重さは、もはや彼の肩では支えきれないほどだった。机の上には修理中の機材、未完成の資料、そして調合中の薬品が無秩序に積み上げられ、アレンの精神状態そのものを映し出しているようだった。


手元の試薬瓶を見つめながら、アレンは深く息を吐いた。夜更けの実験室は静まり返っているが、精神的な圧迫は限界に近かった。特に今日は、王命による調合で、軽微な失敗が発覚したのだ。


「アレン、なぜこんなことになったのだ!」


低く響く叱責の声の主は、直属の上司である宮廷錬金術師長グラフト。彼の分厚い眉間の皺は、不機嫌さを隠そうともしなかった。アレンの隣には、部下であり助手のミリアが立っている。栗色の髪をきっちりと結い上げ、冷静な眼差しで記録板を抱える彼女は、アレンの数少ない理解者の一人だった。


「私の指示を軽んじ、単独で進めたのではないか?」


グラフトは、責任をなすりつけるように言い放つ。


「いえ、それは…」


反論が喉までせり上がる。しかし、アレンはグッとその言葉を飲み込み、謝罪の言葉だけを並べるしかなかった。失敗の原因は明らかだった。グラフトの不正確な指示こそが問題だったのだ。だが、この場でそれを口にすれば、待つのはさらなる叱責と理不尽な罰だとわかっている。


視線の端で、ミリアがわずかに動くのが見えた。彼女がアレンを庇おうと口を開きかけたのを、グラフトは軽く手で制した。その仕草に、アレンは全てを悟った。グラフトは、彼女の前で自分を優秀に見せつけ、誰かを貶めることで地位を固める男なのだ。そして今、その役割を押しつけられているのが自分だった。


努力も工夫も認められず、結果だけで評価される日々。上司の思惑に振り回され、心を砕かれる。気持ちはどんどん沈み、錬金術への情熱は、乾いた砂のように指の間からこぼれ落ちていくようだった。


ふと、窓の外に目をやる。遠くに見える夜の賑わいも、今日はやけに疎ましく映る。


自分には、自由を楽しむ時間も場所もない。この塔に閉じ込められている限り、ただただすり潰されるだけだ。


自分もいつか...


静まり返った実験室で、アレンは寝不足の頭で、叶わぬ夢を起きたまま見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ