学園の際物たち
──「ミーティア・ハスク」大広間 10/03/夜
サフィとの話を切り上げた私は大広間でパドレと合流し、中庭口からすぐのところで学園の連中と出くわした。
「おば様ー」
「お主がこんなところにいるのは珍しいのお」
「見た目は子どもなのにボケちゃったの?」
「今日呼んだのは、おば様でしょ?」
「……わしが呼んだのは黙っとくよう言ったはずじゃが」
フランはしかめっ面でサフィのことを見ていた。
ふうん、アレンを見に来たってのは方便だったのか。
「なんで私がおば様の言うことを聞かないといけないの?」
嫌味とかではなくサフィは純粋に不思議そうな顔をしている。
「ふ……ふふ、サフィに私たちの言うことを聞いてもらうのは難しい話ですよ」
「大伯母様」
パドレが笑いを押し殺しながら声をかけた。
「学園から一歩外に出た途端こんな扱いじゃあのう」
「やっとれんよなあ、ヒスイ?」
「別に学内でも扱いは良くないだろ」
「そうじゃのう」
「手に穴あけられるくらいじゃからな」
ごめんて。
「悪かったよ」
「でも元はといえばお前が変なことしなければ、それで済む話じゃんか」
「ふん……」
「なになに?」
「また翡翠が学園長を懲らしめたの?」
私の名前を流暢に呼ぶピンク髪の女が話に加わった。
私は話が長くなるのを感じたので、そのへんを歩く給仕に目配せをしてグラスを受け取る。
「なんかお前を見るのも久しぶりな気がするな」
その逆側ではフランがパドレとサフィを寄せて小声で喋っている。
「ヒスイさん、今日は忙しそうでしたからね」
私の隣にいたレヴィアが口を開いた。
さっきまではフランの隣だったけど今は私がその間に割って入っている。
「そういえば翡翠の教室は事件があったばっかりだものね」
「あれは学園長が原因だったの?」
「いや、別口だよ」
私はその特徴的なピンク色の髪、瞳、ドレスを視界に入れながら答えた。
まるで日本人じゃないような風貌だが、れっきとした転生聖女だ。
名前は咲良美結。私のひとつ上の学年で担任をやっている。
そもそもピンク髪なんて今の世界でも見たことがない。
髪と瞳はこっちの世界に来てから魔法でイジったらしい。
「うへぇ、手に穴あけたってなんですか?」
私が来る前まで美結と話し込んでいた金髪ショートボブの女が変な声を上げた。
「そのままの意味」
「良く学園長相手にそんなことできますね~」
「元聖女の特権、恐ろしや」
「あ?」
「別に関係ないだろ」
「うひっ、こっわ」
鬱陶しいことを言われて私はちょっと荒っぽい声を上げてしまった。
「ルドミラは新顔ですから」
「あなたと学園長の仲を知らないのも無理ありませんよ」
レヴィアはそんなことを言いながら私を宥めにかかる。
ルドミラは土魔法の上級講師で、いわゆる出向組だ。
首都魔法学院の魔法応用生物学部からフランが引っ張ってきたらしい。
フランがそこの学部長を兼任……というか、そっちが本職みたいだから学園の講師陣にはその関係者が多い。
「昔、学園長を殺しかけたときに比べたらヒスイさんも丸くなったものです」
レヴィアは人が多いせいか、冷淡な感じで喋っている。
「あのときだって怒ってたわけじゃない」
「ふぃーん、日常茶飯事って感じなんですね」
「生徒もいつも荒れてるし、私はなんでこんなとこ入っちゃったんだか……」
「今からでも抜けるのをおすすめするよ」
「たぶんこれからは、もっと悪くなる」
「えぇ?」
「あんまり縁起でもないことを言うんじゃないよ」
「昨日の件も、うやむやにするのにどれだけ苦労したと思ってんだい」
横から小言を言ってきたのはギリエラ・マイカニスだ。
この国の女魔法使いにしては珍しく若作りをしてないやつで白くなった髪を上品に結わえている。
まさに老成したデキる女って感じ。
「そう文句垂れるもんでもないじゃろ、ギリー」
フランは、いつの間にかサフィとパドレの内緒話を終えてたみたいだ。
「お師さんは相変わらずヒスイに甘いねぇ」
「尻拭いするこっちの身にもなってほしいもんだが」
「そりゃ悪いな」
「そういうセリフはもう聞き飽きた」
あー、そうかい。
ギリエラは私が現役のときから小言が仕事みたいなやつだった。
「……それじゃ先生……」
「……おば様がうるさいから私は回ってくるね……」
私がギリエラの小言でゲンナリとした顔をしているとサフィが後ろから耳打ちしてきた。
「ん、わかった」
「……ちゃんとアマナとも会ってね……」
「ああ」
「それでは我々はこれで失礼します」
「またねー」
輪から離れるパドレとサフィに教師連中は各々の返事を送っていた。




