恋の天使
──「ミーティア・ハスク」前庭 10/03/夜
「ねっ、先生」
「まずはアマナに会いに行こうよー」
私は思わず足がふらつきそうになる。
「お前はアレンが何やってるか見に来たんだろ」
動揺がバレないよう取り繕うのに必死だった。
「アレンが他の女に目移りしないか気になって」
「わざわざ来たのかと思ってたよ」
ほかの夜会では、いつもアレンがサフィのエスコートをしてるわけだし。
「先生って私がアレンのこと好きだと思ってるんですかー?」
「違うの?」
「ふふーん、秘密」
はいはい。
「ここギマラン様がいるんだからさー」
「アレンは大広間じゃないとこに逃げ込んでると思うよ?」
普通に有り得そう。
それにしても、どうやってサフィの誘いを突っぱねたらいいんだ。
アマナにはサフィと揃って会わないって今日の午後に言ったばかりなんだから、いきなり無理だったとなるのもなー……。
「私は他のやつに用事があるからお前だけで行ってこいよ」
「誰と会うの?」
誰にしよう……。
「レヴィア」
「それってアマナと会った後でもいいよね?」
「良くないって」
「なんでー?」
「急ぎで言っとかないといけないことがあるんだよ」
「どんなこと?」
「オストロムンド家にかかわる話」
「先生はそういうのに興味ないの知ってるよ?」
こいつはなんで私をここまでアマナに会わせたがるんだ……。
「そもそも私がアマナに会いたいわけないだろ」
「普段から仲悪いんだから」
「先生って嘘つかない人だったのに」
「今日は嘘ばっかりだね」
歩きながら押し問答をする私たちはエントランスまでたどり着いてしまっていた。
パドレは後ろから私たちのやり取りを穏やかな笑顔で眺めている。
「なんで嘘だと思うわけ?」
「さなちゃんに先生がアマナと仲直りしたって聞いたんだよー」
さなちゃん?
佐苗のことか……。
秘密を漏らさないように脅迫したってアマナが言ってたんだけどな……。
「そんなわけないだろ」
「だいたい佐苗がそんな話するわけないじゃん」
「私がお昼にさなちゃんを寮館まで送ってあげたときにはアレンもいたんだよ?」
「本人が隠せてると思っても」
「実際には秘密ダダ漏れの聞き方はアレンならいくらでもできるの」
そういうことか……。
「私がいなければアマナと会ってくれる?」
やっぱこいつ自体はアマナに用がないのかよ。
バレちゃってるなら仕方ないか……。
「ああ、いいよ」
「やったー」
「ふっふっふっふっ」
サフィはわざとらしい含み笑いをしていた。
今日はなんなんだこいつは。
「いいけど、その代わりひとつ聞かせてくれよ」
「なんで私をそんなにアマナと会わせたいんだ?」
サフィは満面の笑みを浮かべて口を開く。
「先生とアマナが両思いなのに」
「なかなかくっつかないから」
私は今度こそ目眩がしそうな気分になった。




