同じ穴の狢は友を呼ぶ
──「ミーティア・ハスク」客間 10/03/夜
「それなりに良い部屋だな」
ただ装飾がゴテゴテしすぎて私の趣味じゃない。
金持ちの客間だから箔付けのために仕方ないんだろうけど。
「座りなよ」
「あ、はい……」
芽衣が突っ立ってたもんだから私は腕を引いて、やたらと長いソファに座らせた。
私はその隣にゆっくりと腰を下ろす。
「これで一息つけるな」
そう言いながら私が肩に手を回すと芽衣は身体をビクリと震わせた。
「いや?」
「いっ、いやじゃないです……」
「で……なんの話だっけ」
「先生が言ってたことの意味です……」
「あー、そうだったな」
あっぶな、いきなりアマナの話を始めるとこだった。
聞いといて良かった……。
「そのまんまの意味だよ」
「お前が好きだから」
「お前が楽しんでる世界に水をさすようなことはしないってだけ」
「先生はこの世界のことはどう思いますか?」
芽衣は意外と平静なままだった。
好きって言ったのにリアクションがなかったせいで私はちょっとしょぼくれそうになる。
「前の世界よりはマシかな」
「頑丈なやつが多いし」
「私の相手してくれるやつも前の世界よりは断然多い」
「お前みたいに」
「ふふっ……アマナ様みたいに平気で先生と喧嘩する人もいるわけですもんね」
芽衣が相手してくれて嬉しいと強調したのに予想と違う言葉が返ってきた。
なんで向こうからアマナの名前を出してくるんだか。
「そうだな」
とにかく今の世界に来てから私の孤独感が薄くなったのは事実だ。
「わ、私も頑丈だと思いますよ……?」
「そうかな」
「昔、北方大陸の魔族が言ってました」
「"傷ひとつ付けられない"って」
「じゃあ今度試してみようよ」
「今じゃダメですか?」
「……え?」
「こんなところで戦ったりできないだろ」
「そ、そうじゃなくて……」
芽衣が私の手を掴む。
おいおい……。
「やらしいやつだな、お前」
「だって……」
蕩けた瞳が私を見詰めていた。
どうしよ……。
うーん、どうしよっか……。
いや、やっぱマズいだろ。
アマナのことを考えろ。アマナアマナアマナ……。
……逆に落ち着かない。
「担任と生徒で仲良くなりすぎるのも問題だって」
今さらな言い訳をしてみる。
「この国にはその程度のことであなたを非難する人はいません」
「それに私のほうが歳上かもしれませんよ」
「確かに……」
ぜんぜん通じなかった。
そんな気の迷いとは裏腹に私は芽衣の髪に指を通していた。
アマナの真っ直ぐな黒髪とは違って柔らかくてふんわりとした感触。
髪だけで言えばアマナのほうが日本人じみてるんだよな。
あーやば、そんなことしてたら我慢できなくなってきた。
ちょっと抱き着くぐらいならいいよな……。
「なんでそんな急に積極的なん?」
私は右手を芽衣の肩にかけたまま、左手を腰に回す。
斜め前から目が合うような姿勢になった。
「それは……」
芽衣は脚の上に乗せた両手の親指を合わせたり離したりしている。
「教えてよ」
「先生のことが好きなので……」
嘘っぽいな。
でも本当な気もする。
なんか変な感覚だった。
「嘘つくなよ」
「先生だって私のこと好きって言ったじゃないですか……」
「言ったけどさ……」
私はさっきもより深く芽衣を抱き寄せながら、その耳元に顔を近付ける。
アマナと違って芽衣の抱き心地は柔らかいな……。
「お前は私なんかよりも好きなやつがいるだろ?」
「どうしてそう思うんですか?」
「こんなこと聞かれてるのに」
「ぜんぜん堪えてなさそうだから」
「あっ」
「私を好きなら嫌だろ」
隠し事が下手すぎる……。
「か、悲しいですよ」
「だからもっと……」
「仕方ないな……」
私が腰に回した手をズラして抱き起こそうとしたら芽衣は身を引いてきた。
「おい、ちょっと」
その途中に腕を掴まれたせいで二人して向こう側に倒れ込んでしまう。
これは……私が押し倒したみたいな姿勢になってる……。
「先生、ダメですよ」
「生徒を押し倒したりしたら」
「え~……」
「襲えって言ったり襲うなって言ったり」
「どっちなんだよ」
「あはは……どっちなんでしょうね」
こいつ、さっきから言ってることもやってることもチグハグだ。
まず押し倒してないし。
「この後はもうなんにもないんですか?」
「あるわけないだろ」
言葉に反して私は芽衣と両脚を絡めていた。
芽衣も満更でもない感じで脚を絡めてきている。
「そうですか」
「今日はどうしたんだよ」
すると芽衣は観念したような表情になって口を開く。
「……先生、お昼は指輪してたのに今はしてないんですね」
そうか……そのときにもう見られてたのか。
中庭に出るときに外したのは意味がなかったな。
「お前は四六時中、首からぶら下げてんのか」
芽衣の妙な行動の意味はもう大体わかった。
「はい」
「先生と会うと分かってても外しませんでしたよ」
変なとこで負けた……。
芽衣は迷いのない不敵な目付きで私を見詰めている。
私がこいつの反応を見てる気でいたけど相手も同じだったんだ。
下手すればイレミアみたいな馬鹿な考えまでいっしょだったのかもしれない。




