同じ穴の狢
──「ミーティア・ハスク」中庭 10/03/夜
「本当はお前もいる国だから」
私は「アマナも」という部分を抜いた言葉を口にした。
「あっ、あっ、先生……」
芽衣は顔を赤くして口をパクパクさせていた。
面白いやつだな……。あと、ごめん……。
それにしてもこいつ……こんな純情な感じなのにアマナと"なんか"あるんだよな。
女ってのは怖いね。
芽衣がくっついてきたとき、私はドレスの内側に紛れたペンダントを見付け、そのチェーンにはアマナの家の指輪が通されていた。
さて、どうしたもんかな。
「せ、先生」
「それってどういう……」
ここで"担任なんだから当たり前だろ"とか言ってもいいんだけど。
私相手に照れてる芽衣を見ると、もっと口説きたくなってきちゃうよな。
そもそも芽衣がアマナ相手に"なんか"あるっていうなら……アマナよりも私に集中させちゃえばいいんだし。
ん?
そんなんイレミアが私にやってたことみたいじゃんか。
結局、私はあの傍迷惑な二人と同じ穴の狢ってことか……。
普通はアレなんだろうけど──
不思議と悪い気はしなかった。
「その前にさ……」
「二人で落ち着けるとこに行かないか?」
ガルアードとアンデイルが騒ぎを起こしてるみたいで、いつの間にかあいつらがいた場所は人だかりで見えなくなっていた。
「あ、あぁぁ、先生……」
「そんなのダメですよ……」
「いや、ただ内緒話しに行くだけだって……」
こいつは今なに想像してんだよ……。
「そ、そうですよね」
「先生がそんな……」
「そんなってどんな?」
「あう……」
黙っちゃった。
かわいいな……。
「ほら、行こ」
私は芽衣の腰に手を回して歩き始める。
芽衣は恥ずかしそうにうつむいていた。
「あいつら何やってんだろうな」
私は芽衣の緊張をほぐすために、どうでもいい話を振ってみた。
「すごい人が集まってますね……」
「アンデイルさんは昔からああいった方なんですか?」
歩くうちに芽衣は少し落ち着いたみたいだ。
「私がパーティ組んでたときからだよ」
「酒飲まなくてもアホと言えばアホだしな」
「そうなんですか」
「私は今日の晩餐会に誘われたときには理知的な印象を受けました……」
「へえ」
「あいつも少しは変わったんかね」
でも飲んだら大して変わってなかったわけだ。
私は中庭の騒ぎを傍目に歩きながら大広間を避け、屋敷のところどころに空いている中庭口から直接廊下に入ることにした。
それなりに丁度いい時間になってるから大広間にはアマナとかイレミア以外にも学園の連中がそこかしこにいるだろうし。
私は念の為に耳を澄ませながら廊下に入る。
行き交う連中はいるけど直接的な知り合いはいなさそうだった。
それにしても広い屋敷だな……。
この手の晩餐会だと大抵は細かい客間みたいな場所がわざと開け放たれている。
食客とか屋敷の人間が住んでいるようなスペース以外は出入りできるわけだ。
「相変わらずだだっ広いな」
「レムノルミニア家の本家の方々は、だいたいここに住んでいるようですから」
「へえ」
「そういえば、お前は広いとこに住まないの?」
「こういう豪華なの好きなんじゃなかったっけ」
「それが色々と買い込んでたらお金が足りなくて……」
意外に金欠とはな。
まあ、そりゃあんな店やってるようだと金もなくなるか。
「あんまり売れてないのか」
「あ、えっと……」
芽衣は答えにくそうにしている。
「単純に金があったら全部使っちゃうわけだ」
「聖剣みたいな国宝級のものを買い込むために」
「お恥ずかしながら……」
「それに気に入ったものは売らないので……」
「それもいいじゃん」
「楽しそうで」
生きてる実感がないとか言いながら楽しむ部分は楽しんでんだな……。
「あはは……」
芽衣は苦笑いと照れ笑いが混じった微妙な表情を浮かべていた。
そんな話をしながら私は廊下に入ってから一度曲がったところで見えた部屋の扉を開く。
芽衣を部屋に入れた後、一応は鍵を閉めておくことにした。




