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貴光子の晩餐会

──「ミーティア・ハスク」前庭 10/03/夕方


「相変わらず大仰な場所だな」


 馬車から降りた私は思わず声が漏れた。


 リセの屋敷の随所には屋上から巨大な垂れ幕が下がり、宮殿ほどの広さがある敷地内のいたる所がライトアップされていた。


 この照明はどんな原理で光ってるんだか。


「んふふ、リセは派手好きだからねぇ」


 そんな返事をなんの気もなしに聞いていると──

 私と連れ立って歩くアレンに周囲の視線が集まっていた。


「そういえばお前って婚約者とかいないの?」


「……嫌味?」


「なんでだよ」

「ギマランがいるもんだからさ」


「あー、そういえばそうだね……」


 なにかと学園で渦中の話題になりがちなギマランは許嫁がいるらしいから、その弟のアレンもてっきり誰かしらがいるもんだと思ってたんだけど……。


 まあ、アレンの秘密を知っちゃってる私からすれば表の婚約者だな。


「今日も人が多いな」


「いつもこんなに多いの?」

「僕、あんまりここに顔を出さないから分からないんだよね」


「ふうん、なんで?」


「兄貴が良く来てるから」


「ああ、お前とギマランって仲悪いんだ……」

「そしたらさっきは悪かったな」


「気にしないでよ」


 それにしてもこの世界のパーティは、なんていうか……。


 貴族っていうよりもハリウッドセレブみたいな連中がウロウロしてるんだよな。


 自分の格好もそうなんだけど私がイメージしてた貴族の晩餐会って感じではない。


 女はイブニングドレスにオペラグローブっていう組み合わせを満たしていれば、あとはどんな色合いでも良いし、装飾品も自由らしい。


 格好とは別にリセの集まりは形式もラフな感じだ。


 庭まで参加者が漏れ出して各々の時間を楽しんでいる。


「ここって貴族じゃない連中も多いんだよな」

「Sランク冒険者もあちこちにいる」


「へえ~、勉強になるなぁ」


「こういうのはお前のほうが詳しいと思ってたんだけど」


「そうでもないよ」

「社交界は皇子ごとの縄張りみたいなのがあるからね」


「なんだそりゃ」

「じゃあ、ここはギマランのテリトリーってことか?」


「そういうことになるね」


「それなのに今日はわざわざ来たのか」


「それだけ先生と喋っておく必要があったってことさ」


「あっそう」


 アレンにそう言われても嬉しくはない。割とマジで。


「ん……」


「どうしたの?」


「あそこ、中庭口の前に芽衣がいる」


「ほんとだ」


 中庭の出入り口付近で芽衣は見覚えのある男と喋っていた。


 そこそこ大きい背格好で不精な金色の長髪を後ろでひとつにまとめている。


 ガルアードか……。


「お前、あいつのこと知ってる?」


「知らないなぁ」


「Sランク冒険者でガルアードってやつ」


「ああ、彼が例の……」


 ガルアードは芽衣の周囲にいる人間なら知らないやつはいない冒険者だ。


 芽衣が(おおやけ)の記録に残るようになったのはガルアードの活躍があってこその話らしい。


 もともと芽衣という転生聖女は産まれた時点で皇国に周知されていなかった。


 後から宮廷魔法師団が調べた記録によれば辺境伯の家で生を受けて3歳ごろに行方不明になっていたんだとか。


 それで行方不明になってから何をしていたかと言えば魔族しかいない"北方大陸"に10年以上籠もって、ひとりでひたすら魔族を狩り殺していた……と言われている。


 芽衣本人は「まともに二足歩行ができるようになったら、いてもたってもいられなくて」とか言ってたな……。


 そんな孤立無援の芽衣のところに"北方大陸"が未開の地だと思って冒険に出たガルアードが偶然たどり着く。それから、なんとか芽衣を説得して皇国まで連れ戻したそうだ。


 その後、芽衣の実力は20万の魔王軍を聖剣の一振りで消滅させたことによって知れ渡ることになったというわけだ。


「なあ、いま思ったんだけどさ」


「なにかな?」


「転生聖女って基本的に全員」

「私よりも歳上なんじゃないのか?」


「んっ……んふ」

「確かにそうかも」


 アレンは今さら気付いたのかって顔で私を見ていた。


 前世で最低でも2歳から5歳くらいまで生きていたなら学園の転生聖女はだいたいが私よりも歳上な気がする。


 ちょっと聞いてみたいけど「何歳で死んだの?」なんて聞きにくいな~。


「別名は確か……金獅子のガルアードだっけ」


「ん、ああ、たぶん」

「金髪で髪も長いし、どうせ金獅子だろ」


「先生はそういう異名みたいなのに興味なさそうだよね」


「お前だってなさそうじゃんか」


「ふふっ、そうだね」


 私たちは不毛な会話を交わしながら屋敷の正面口に入った。


「ようこそいらっしゃいました」

「お召し物をお預かりいたします」


 そんなことを言って(くらい)の高い給仕人?みたいな連中がケープ代わりにしている白い毛皮を脱がしにかかる。


 慣れた手付きで毛皮の中央にある金の紐留めを外し、手渡された別の給仕が奥に引っ込んでいく。


「お帰りの際はまたお声がけください」


 なんかこういうシステムも前の世界の現代パーティっぽいんだよなあ。


「それではアレンテラ・トリスティア様、イセヤ・ヒスイ様」

「本日は晩餐会の中ごろに主人の式辞がありますので」

「ぜひお聞きいただけますと幸いです」


 当たり前だが、ほとんど来たことがないとしてもアレンの顔は割れてるようだった。


 それにしても式辞って……。


 今日って記念日なんだっけ。


「今日ってなんかの日?」


「いやぁ、僕も思い当たらないなぁ」


「とりあえず入るか」


「そうだね」


 私たちは金持ち連中でごった返した館の中に足を踏み入れた。




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