生徒の視線
──「旧マリティマム修道院」客間 10/03/昼下がり
しばらくアマナは私の身体に顔をうずめていた。
少しすると背中に回していた手を離し、私の両腕に沿わせていく。
その動きに合わせて私はアマナの好きなようにさせてやることにした。
「なあ」
「これからどうするんだ」
アマナはそれぞれの指のあいだを埋めるようにして私の両手を握った。
「学園では今まで通りにしましょう」
冷淡な言葉に反してアマナは私の両手を強く握り込んでいる。
「わかった……」
「ひとつ聞いときたいんだけどさ」
本当は聞きたいことはたくさんある。
イレミアのこと、サフィのこと。
いまアマナが私との関係をどんなものだと思っているのか、とか。
「ここ半年、学園の外で危ない目にあったりした?」
「外では何もありませんでした」
「そっか」
「私としては四六時中いっしょにいてやりたいんだけど」
「……そういう訳にもいきませんよ」
アマナは額を私の鎖骨あたりに押し付けながら答えた。
「でも今晩は同じ時間を過ごせそうですね」
「フランが行け行けうるさいからな」
リセの宮殿みたいな大きさの屋敷が会場だから、ちゃんと探さないと合流するのも大変そうだ。
このまま連れて行ければラクなんだけど。
「私がエスコートしてやりたいよ」
「いくら先生が規格外だと言っても」
「……むしろだからこそ余計に噂の的になりますよ」
「だよな……」
「とりあえず、お前がいるあいだは帰らないようにするか」
「私のほうが長くなるはずですから」
「いつも終わり際までいる学園長とでも喋っててください」
「そうだな」
それから私たちは少しのあいだ無言でお互いの体温を感じ合っていた。
そんな中、私はアマナの両手の感触をひとしきり確かめてから口を開く。
「少し上に行かないか?」
私はいい加減、我慢が利かなくなりそうだったので開けた場所にアマナを誘う。
「……いいですよ」
アマナは名残惜しそうな表情で答えた。
──「旧マリティマム修道院」自室のバルコニー
アマナと私はバルコニーの丸テーブル越しに向かい合っていた。
私たちのあいだには家政婦長のケリカが配膳した皿が並んでいる。
皿には、粗挽き肉のパテ、香草、秋カブの酢漬けが綺麗に盛り付けられていた。
「そういえば生徒名簿でギフト見るときにさ」
「レヴィアから聞いたんだけど私には精神に干渉する魔法が効かないんだって」
私はアマナとベタベタし始めないうちに、つまり身体の距離が物理的に遠い今のタイミングで今日知った話を教えておくことにした。
「そうなんですね」
なんか反応が薄い。
アマナは知ってたんだろうな。
「知ってた?」
「……ええ、まあ」
アマナはワイングラスに口を付けながら私から目を逸らしている。
グラスの中にはさっきの馬鹿高いワインの残りが注がれていた。
「有名な話なん?」
「いえ、聖女に何かしてるなんて知れ渡ったら民衆の反感どころか……」
「信心深い貴族たちの顰蹙も買いますから」
「極々一部の人間しか知りませんよ」
妙な感じだな。
「なんでお前がそんなに後ろめたそうにしてるんだよ」
「そんなことありません」
うーん、なんだろう。
「お前の知り合いがやってるとか?」
「知り合いかどうかはともかく」
「宮廷魔法師団がやっていることですから今の私には縁遠い話です」
なるほどね。昔のアマナに関係した話か。
「ふうん、お前が嫌な話ならいいさ」
私も手にしていたグラスに口を付ける。
「そうそう、それで気付いたんだけど」
「お前がイレミアに意識が向かなくなってたみたいに」
「私はレヴィアのことが考えられなくなってたっぽい」
「学園長ではないんですね」
「ん……ああ、確かに私を孤立させるんだったら」
「学園長を忘れさせたほうが効果的だよなあ……」
ってことは孤立させるのが目的じゃないのかもしれない。
「何か共通点があるのでしょうね」
「私がちょっと思ったのはイレミアが医務室で」
「レヴィアが蔵書室っていう」
「どっちも教室から離れた場所だなって」
私の思い付きを聞いてアマナはグラス片手に考え込んでいる。
私も考えてみるか……。
魔法の影響じゃないことが分かった以上、今かけられているのは確実にギフトだ。
そもそも効く効かないはともかくアマナが、その手の水面下での魔法戦に負けるとは思えない。
だとしたら"教室から離れた相手を意識できなくなる"ギフトを喰らってる?
そんなのあるのか……?
「根掘り葉掘り聞きませんけれど」
「名簿を見た感じはどうでしたか?」
「微妙だな」
「どうしても佐苗の"忘れる"っていうのが一番目に付いちゃう感じだった」
いまいちパッとしないので私は料理に手を付け始めた。
パテは私の味覚と嗅覚を考慮してなのか、薄めの味付けになっていた。
秋カブは……普通のやつにとっては良い香りなんだろうけど私にとっては濃すぎる風味だ。
野菜らしい土っぽさと爽やかだけど僅かにアクのある香り。
「うーん、なんか理屈をこねくり回してギフトを使ってるんだろうなあ」
「今朝の教室の中見てどう思った?」
「机を割ったのは先生」
「椅子を捻り潰したのは委員長でしょう?」
「当たり」
「それにしても……」
「委員長とやり合って良くあれだけで済みましたね」
「あいつが本気で魔法込みで戦ったら校舎がもたなそうだったからさ」
「初手で私はあいつの肩砕いちゃったんだよ」
「でも全然応えてなくて……」
「その結果、自分でショックを受けているようなら世話ないですね」
「……ほんとにな」
「ギフトで痛みを"忘れる"というのは分かりやすいですけれど」
「椅子を崩すのは特殊な使い方ですね」
「魔法じゃないって初見で分かる?」
「ええ、大方椅子の木材に椅子であることを忘れさせたのでしょう」
「なんだそりゃ」
「椅子であることを忘れさせる、木であることを忘れさせる、物質であることを忘れさせる」
「恐らくそこまで出来ると思います」
それで椅子があんなにボロボロ崩れてたんかね。
私の話を聞いただけで良くそこまで行き着けるな。
やっぱり聖女を相手取ることに慣れてるからか……?
うーん、これを考えるのは"今は"やめておこう……。
私はわざと自分の考えを途切れさせて話の続きを口に出した。
「それだけ聞くと壊すだけなら最強の能力だな」
「殺傷能力だけで言えば敵無しです」
「ですが先生の話から察するに委員長が直接さわる必要があった訳ですよね」
「あいつの場合」
「右手と左手のどっちかで触れたら良いみたいだった」
「それなら危険であることには変わりありませんが」
「もっと危険なギフトはいくらでもありますよ」
「あー、確かに」
「あと既に分かってはいますけれど」
「委員長が"何か"しているという可能性が完全に無いことが良く分かりました」
「なんで?」
「私、委員長の手に直接さわったことがありませんから」
「そんなの良く覚えてるな」
アマナは記憶力が良いからそりゃそうか。
……いや、それとも"アマナだから"女同士で触ったことがあるかないかの記憶がハッキリしているのかも。
だとしたら嫌だな……。
何かの拍子にサフィと体が当たったりしたことをずっと覚えてたりすんのかな。
イレミアとの"何かしら"も忘れてないんだろうな……。
「あの、先生」
「急に深刻な顔しないでください」
「あ、あぁ……」
あまりにも表情に出やすいせいで私が考えていることは見透かされていそうだった。
「その……」
「先生と喧嘩してうっかり触っちゃったこととか」
「ずっと記憶に残ってますよ」
「……悪いな、情けないやつで」
アマナは私の内心を察したのか、変なフォローをしていた。
ちょっと恥ずかしいかも。
「先生、可愛い」
アマナは目を細めたいやらしい笑みを浮かべている。
その顔は今日の帰り際に見たイレミアの表情にそっくりだった。
「変なこと言うなよ」
師弟だか姉妹だかは似るもんなんかね。
血がつながってなくても。
それともいっしょにいた時間が長ければ長いほど似通っちゃうのかな。
だとしたら余計に嫌だ。
私は堪えきれなくて席を立った。
「こっち」
私は気分を変えるために座っていたアマナの手を取る。
そのままバルコニーの手すりまで連れて行った。
「良い眺めだろ」
「首都が一望できますね」
急に手を引かれたのにアマナは何も文句を付けなかった。
やっぱ私の考えてることなんて大体わかってるんだろうな……。
そのうえでアマナは接してくれているんだ。
アマナは私の手をしっかりと握り込みながら外の景色に目を遣った。
「リセの屋敷は……あそこですね」
アマナは今晩の会場を指差す。
「改めて見ても大きいな」
そこまで遠くない距離にある皇族の宮殿と大差ない。
「お前のところはどんな感じ?」
「私の館は特殊ですからね」
「賓客の出入りを想定していないので」
「かなり小規模なものですよ」
「食客や家門の人間が住むこともありません」
「そうなんだ」
今朝アマナが私の指にはめ込んだ指輪に意識を向ける。
それを感じるだけでさっきから暗くなっていた気分が少しずつ晴れていく。
「明日はそっち行ってもいい?」
この指輪、もとい合鍵だかなんだかをもらってるわけだし、聞いてもいいよな。
「……もう明日の予定なんて気が早いですね」
「別に構いませんけど」
やった。
「よっし」
「じゃあ昼の前ぐらいに行くから」
「なんかご馳走してよ」
「大したものは出せませんよ」
「私もいないことが多いので料理人が少なくて」
「へ~……」
「そんなに特殊な場所なのか」
「じゃあ外で食べる?」
「ついでに行きたい場所があるんだよ」
「どこですか?」
「芽衣の店」
私が魔王討伐の旅に出てたころ、逆に魔王側は人間への攻勢を仕掛けるべく、20万の魔王軍を別の方角から首都に向かわせていたらしい。
とはいえ、もともと皇国と魔王軍のあいだでは小競り合いが起きているだけだったから皇国側は消耗がない軍隊で余裕を持って迎え撃つ準備をしていたようだった。
でも20万の大軍が皇国の地に足を踏み入れることはなかったし、皇国軍が防衛にあたることもなかった。
国境を守っていた連中によれば羽塚芽衣が握った聖剣の一振りですべての軍勢が跡形もなく消え去ったのだという。
その後、莫大な報奨金を得た芽衣は首都の一等地で特殊な店を開いた。
名前は……なんだったかな、あいつは剣にこだわりがあるみたいで……それにちなんだ店名のはず。
「どうして急に?」
「蔵書室に行ったときに偶然、芽衣と行きあってさ」
「昨日お前が言ってた話だと芽衣にも相談してたらしいじゃん」
「だから私が名簿を調べてる理由も話しちゃったんだよ」
「そんなわけだから、あいつも交えて話したほうがいいかなーって」
ギフトのことも学園のことも私なんかより芽衣のほうが詳しいだろうし。
派閥については……どうなんだろうな。
公の記録で初めて芽衣が姿を見せたのは、そのときからと言われてるみたいだから私よりも皇国で暮らしている時間は短い。
「まあ一応、芽衣も夜会に来るって言ってた」
「だからそのときに話してもいいとは思うけど」
「それなら今晩だけで十分でしょう」
「そう?」
「じゃあ明日は行かなくてもいいか」
正直、私はアマナと二人っきりだと何かしらが起きちゃうのが心配だから他人がいるところで話したかったんだけど……。
逆にアマナは二人だけで過ごしたいとか思ってくれてたりするんかな。
「わざわざ先生と私で芽衣に詰め寄る必要もありませんし」
「私を待っているときにでも話しておいてください」
「え?」
「でもさ、お前もいないと相談にならなくない?」
「私は昨日の時点で芽衣に聞いておきたいことは済ませたので」
なんか芽衣を避けてるような感じだ。
「もしかして芽衣と仲良いわけじゃなかったりする?」
転生聖女の中で唯一、芽衣とアマナは仲が良いと思ってたんだけど……。
「そんなことありませんよ」
「私たちがいっしょにいるところを周囲に見られる機会は少ないほうが良いと思っただけです」
「えー……」
「でもさあ、今日はリセのとこだし、学園の生徒は少なめじゃんか」
その理屈だと晩餐会でアマナと会って喋ること自体が難しくなっちゃうじゃん?
だから私は食い下がってみる。
「あのへんの連中に今さらお前と私を疎遠に見せても意味ないって」
リセは武闘派だから、その集まりに入り浸ってるのは皇国騎士団の関係者と戦地で活躍した貴族が多い。
あー、これもややこしい。
対立してる貴族派と皇族派の中に、それぞれの武闘派と穏健派があるんだもんな……。
もちろん普通の金持ちも大勢いるが。
「お前の昔馴染みばっかりだろ?」
「そうですけど」
「極力リスクは抑えたほうが良いと思いませんか?」
アマナの入学前から、つまりアマナが私にツンケンし始める前からリセの夜会には行っていた。
当時は私が生徒として通っていた学園の様子なんかをアマナに話した覚えがある。
「そこまで慎重にならなくてもなあ……」
私とアマナの交流があったことは割れちゃってるんだよな。
ん?
「いや、それなら大勢で喋ってたほうがカモフラージュになるんじゃないの?」
「二人でいるところを見られないほうが良いならさ」
「ますます芽衣とか誰かしらがいたほうがいいじゃん」
アマナの言ってることはどこか変だ。
「それもそうですね」
「ただ夜会で囲まれがちな私が上手いこと芽衣に会えるか分かりませんから」
「自由が利きそうな先生が早めに会っておくのが良いと思いますけれどね」
なんだ?
なんでこんなに私と二人揃って芽衣に会いたがらないんだ……?
サフィならともかく……。
あ。
「なあ、私といっしょのときはサフィと会いたくないよな」
「……当たり前でしょ」
急にサフィの名前が出てきたせいか、アマナは不機嫌そうな声を漏らした。
「じゃあ、芽衣は?」
「会い……」
アマナは私の意図を察したみたいで途中で言葉を詰まらせる。
「サフィと同じような理由で」
「私と揃って芽衣に会いたくないわけだ……」
「そっか……」
「その、先生」
「そうじゃなくて」
「いいよ別に」
「なんとなく分かってたし」
イレミアまわりの話では落ち込んで、サフィだと応援するような気持ちだったけど。
芽衣に関しては少し腹立つな。
今朝、アマナ相手に怒ることなんて考えられないと言ったばっかりなのに。
たぶんアマナが私と芽衣に向ける感情が同じ部類っぽいから……なのか……?
「そう、わかってたんだよ」
「私が昨日言ってたサフィのことが好きそうに見えないってさ」
「どういう理由で言ってると思った?」
「わかりません……」
「こんなこと言ったら嫌がるだろうと思って言わなかったけど」
「お前、人のこと見過ぎなんだよ」
「ジロジロとさ」
「う……」
さっき席を立ったときからアマナの手は握りっぱなしだった。
だから私はその手を離さないようにして握り込む。
「私と険悪になってからも」
「とくに授業中なんかは、ずーっとこっち見てたじゃん?」
胸とか腰とか脚とか。
要は、その……やらしい目付きなわけだ。
まあ、これこそ言わないけど。
「せ、先生……」
「だから余計に不思議でさ」
「なんでこいつはこんな目で見てくるのに」
「やたらと私に喧嘩腰なんだろうかって」
「しかも学園に入ってから急に険悪なわけじゃん」
「ここ半年の私の妙な気分……というか困惑?かな」
「分かってもらえた?」
「はい……」
アマナの顔は真っ赤に染まっていた。
「お前は芽衣のことも良く見てたから」
「それでなんとなく分かってたよ」
「そんなことないです……」
「ほんと?」
「自分ではそんなに見てた気はないです……」
アマナは赤い顔でうつむきながら返事をした。
うーん……。
この感じだと本当にアマナ自身は意識してなかったのかも……。
「あー、まあ、芽衣よりも私に向けてた視線のほうが多い」
「と私は感じてる」
「だから別に……いいよ」
「それに今お前といっしょにいるのは私なわけだし」
私は手すりを掴んでいた右手を離し、アマナの横髪に指を通しながら抱きしめる。
「お前がそういう視線をサフィに向けてるところを見たことがなかったからさ」
「昨日のサフィを好きそうじゃないっていうのは、そんな単純な理由で言っただけだよ」
「そうだったんですね……」
「お前は本当、気が多いやつだよ……」
イレミアが言ってたことが良く分かる。
「ごめんなさい……」
「気にすんなよ」
「そんなに色んなやつのことが好きになれるのが羨ましいくらいだ……と思う、たぶん」
アマナは相変わらず顔を赤くしながら、うつむいている。
そんなアマナを撫でながら景色に目を遣ると日差しが若干かたむき始めていた。
「サフィなり芽衣なりには、お前と私で揃って会わないようにするよ」
そう言いながらも私はアマナの行動の意味を考え続けていた。
「あれ、でもサフィへの想いを逸らさないために」
「良い関係になっちゃいそうな相手を遠ざけようと私とは仲悪くしてたんだから……」
「芽衣とは関係が良くなりすぎるとは思ってなかった……のか?」
この国の政争並みにややこしいな。アマナの頭の中は。
まあ、芽衣はヤバいやつではあるけど"そのへん"に関しては普通そうな印象がある。
だからベタベタした関係にはならない見込みだった?
いや、違う。
今日の学園長が何か言っていた──
──「それに入学後のアマナが元聖女のお前と疎遠になりたがるのは」
──「わしには分かってたからのお」
学園長には分かってたらしいが私には分かんない。
ここまできたら、もう直接聞いちゃうか。
「アマナ、お前さ」
「結局お前が私にツンケンしてたのってなんでだったの?」
どうも私が指摘した理由だけが原因じゃないってことは芽衣の話を通じて浮き彫りになってきた。
「言いたくありません」
「あっそ……」
それもいっしょにいれば追々わかるかもしれないし、わかんなくても別にいいか。
「ところで、こういうのってなんて言うの?」
「三角関係とか四角関係じゃないよな」
「中心にいるお前から放射状に矢印が伸びてるんだし」
「そんな呼び方のことより……私がこんなので先生は嫌じゃないんですか……?」
「お前がどんなのでも嫌になるわけない」
「それに同級生を好きになるなとか言えないだろ」
私が担任なんだから余計に。
「あんまり言いたくないけど」
「同性のこういう関係のややこしいところだよな……」
「相手の友達が全員ライバル、みたいな」
「まあ芽衣とは"なにも"ないんだろ?」
この半年間、私から見てそういうのはなさそうだった。
それ以前となると、まず国内にいた時間すら少ない芽衣はアマナとの接点がなかったわけで。
「……はい」
なんか嫌な間があった。
はぁ……やりたくないんだけどアマナとのやり取りは秘密にして芽衣に直接聞いてみるか……。
アマナと芽衣のあいだには多分"なんか"ある。
二人を普通の友達関係だと捉えていた私の目は節穴だった。
「なにもないならいいよ」
「日も暮れそうだし」
「そろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?」
「まだ……あとちょっとだけこのままで……」
「うん」
私たちはこんな話をしていても、ずっと片手は握りっぱなしだったし、もう片方の手は相手の体を抱きしめ続けていた。




