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司書と過ごした時間

──「アウラミライ侯爵学園」禁戒蔵書室 10/03/昼


 私との会話を終えるとレヴィアネアリム・オストロムンドは頼んだ通りの生徒名簿を持ってきた。


「持ち出し厳禁ですよぉ」


 レヴィアは私をからかったときに表情を崩してから、ずっともたついた舌っ足らずな喋り方で話している。


「わかってるよ」

「ちなみにこの名簿ってどれくらいヤバいんだ?」


「禁書ではありませんけどぉ」

「教師と学園長しか閲覧を許されていないので~」

「ある意味では国教指定の禁書を上回る"ヤバさ"ですねぇ」


 レヴィアはわざと私の表現を真似して説明した。


「閲覧室はあちらですよぉ」


「大した枚数じゃないからすぐ見終わるんだけど」


「それならこちらにも席が~……」


 そう言ってレヴィアは自分の隣をチラリと見遣る。


 瞳は見えてないから視線というよりも顔の向きだけど。


「ん、じゃあそこでいいや」


 私は受付の長っ広い卓を回り、出入り口に向いたレヴィアから見て左手側に座った。


 そして座りながらパラパラとページをめくっていると私は隣から視線を感じた。


「あのさ、読みにくいんだけど」


「別にいいじゃないですかぁ」


 レヴィアはそんなことを言いながら、さらに私のほうに身を寄せてくる。


「……お前もさっきまでなんか見てたんだから続きでもやってろって」


「この席でお話するのは久しぶりですねぇ」


 まるで私の話を聞いてない。


「ここ半年は来てなかったかもな」

「今の教室を受け持つとなったときには結構長くいた気がするけど」


「今年度が本格的に始まってからは」

「社交界以外で話す機会がめっきり減ってしまいましたねぇ」


「あぁ、そうだな……」


 今年のクラスになる直前は割と入り浸ってたはず。


 相当な量の調べ物が必要だったし。


 それどころか現役のときには良くここでサボってたな……。


 あれ?


「お前ってさ」

「昔っから私のことからかって遊んでた……んだっけ?」


「どうでしょうねぇ」


 こいつ自体がボケちゃってるようなタイプだからイマイチはっきりしないな。


 さっきはなんかそこまで深い仲の知り合いじゃないような気でいたんだけど。


 よく考えたら私はかなりの時間をレヴィアといっしょに過ごしてきた気がする。


「ひとつ聞きたいんだけどさ」


「なんでも聞いてください~」


「お前は今の学園をどう思う?」


「そうですねぇ」

「学内のことは良くわかりませんがヒスイさんのことは変だなぁ~って思いますよぉ」


 やっぱそうか。


「夜の行事で会うたびに久しぶりに会うような態度なんですもん」


「ふうん……」


 そうだな……記憶にはあるけど……。


 レヴィアと話してるときの"自分に対する違和感"はまったくなかった……。


「私たちってどのくらいの頻度で顔合わせてるんだっけ」


「やっぱりヒスイさんは変になってますねぇ」

「最低でも週に1度は学外の行事で会っていると思いますよぉ」


 そんなに会ってたのか。


 うん、そうだな。


 私は記憶を甦らせながら違和感を探っていく。


 会ってること自体は覚えてるんだよなあ。


 うーん……こいつには知られてもいいか。


 どうせ私じゃわかんないし、もう直接聞いちゃおう。


「なあ、私が変になってるとしてさ」

「なんでだと思う?」


「え?」


 私の質問を聞いてレヴィアはギョッとしたような顔付きになった。


 その細い両目からちょっと瞳が見えるくらいの驚きようで。


「どうした?」


 レヴィアは何かを考え込んでいるみたいで私が声をかけても返事を寄越さない。


「なあ……」


 ちょっとしてからレヴィアが両手でガシッと私の肩を掴んだ。


「ヒスイさん若いのにもうボケちゃったんですかぁ~!!!」


 レヴィアは大声で喚きながら私の肩を揺らす。


 なんだっていうんだ……。


「いやボケてない……」


「昔から呆けたところはあるとは思ってましたけどぉ……」


「お前にだけは言われたくない」


「私のこともどんどん忘れちゃってるんだぁ~……」

「うぅ……」


 それは本当っぽいから否定できないな……。


 レヴィアの目じりには涙が溜まっていた。


「それは悪かったって……」


「今だってヒスイさんが脳みそ弄られてるギフト探すために名簿見てるんでしょお~」

「それなのになんで変になってるか聞くなんてぇ……」


「あー、お前から見るとそうなるのか……」


 そもそもなんで私が名簿を見に来たのかは見え透いてたわけだ。


「だからボケてはないんだよ」

「私がギフトでなんかされてるのは半信半疑でさ」


「あっ、魔法で何かされてるかを聞きたかったんですねぇ」


 レヴィアはそう言いながら表情をパアっと輝かせた。


 さっきまで泣きかけてたのに面白いやつだな。


 ……ああ、そういえばレヴィアのこういうところを気に入ってたんだ、私は。


「ヒスイさんにはその手の魔法は効かないんですよぉ」


 え?


「そうなの?」


「理由は分かりませんけど」

「その手の魔法師団がみんな失敗してるみたいですからねぇ」


「そんなこと全然知らなかったんだけど……」


 さっき話してた消される云々のくだりほどじゃないにしても、やっぱそういうのはあるわけだ……。


「え~……。それならこれって言っちゃいけないことだったのかなぁ」


 たぶんそうだろ。


「効かないなら言っても言わなくても結果は変わんないし」

「なんでもいいんじゃないか?」


 私まで適当なことを言ってみる。


 そうそう、レヴィアと喋るときはこういうやり取りが面白いんだった。


 私も大概だけど、こいつ馬鹿なんだよな~。


「そうですよねぇ」


 なんでこんなやつが秘密厳守って感じの場所で司書やってるんだか……。


「じゃあやっぱギフトか」


 これは結構な収穫なんじゃないか。


 アマナなら私に魔法が効かないことは知ってそうだけど……。


 後は生徒のギフトを覚えるだけだな。


「お前って聖女のギフトに詳しかったりする?」


「ぜんぜんですねぇ~」

「あんまり興味ないですしぃ」

「でもあなたのギフトなら覚えてますよぉ」


「持ってたのは昔の話だけどな」


「珍しいなぁ~って思ってましたからぁ」


「へえ」


 確かにこの名簿を見る限りだと私と同じギフトはいない。


 まあ完全に被ってるほうが珍しいけどな。


 でも大体の傾向は似てることが多い。


 うーん、やっぱり佐苗の"忘れる"っていうのに目が止まっちゃうなあ……。


 私には見当が付かないし、ギフトの研究してるようなやつに聞くしかないのかもな。


 そんなことを考えていたら入り口の螺旋階段を降りてくる足音が私の耳に響いた。


「ちょっと離れろって」


「えぇ~」


「誰か来てるんだよ」


 レヴィアは私の両肩を掴んだまま、私にもたれ掛かっていた。


 聞き覚えがある足音なんだよな。


 アマナってことはないにしても今は生徒にやたらな場面を見られたくない。


 ……のにレヴィアは私から一向に離れようとしなかった。


「やだぁ~」

「いま離したらまた忘れちゃうんでしょお~」


「そんなことないって、たぶん」


 私は適当な返事をしながらレヴィアを引き剥がそうとする。


 って力強いな。


 私が"ほんの僅かに力を込めた"くらいじゃビクともしなかった。


「お前すごいな……」


 今朝アマナが言ってた通りならこいつも相当に頑丈そうだけど、これ以上の力を入れるのは怖いんだよな……。


「あれっ、伊勢谷先生ですか?」


 私の名前を流暢な発音で呼ぶ声が聞こえた。


 レヴィアに絡まれてるところを見られたのがこいつで良かった……。


 螺旋階段の上のほうから芽衣が物珍しげな顔で私を眺めていた。




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