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気の毒なやつ

──「アウラミライ侯爵学園」学園長室の前 10/03/昼


 部屋から出た私たちは隣合って立ちながら、これからのことを話し合おうとしていた……んだけど。


「ごめんなさい」


 開口一番、アマナが私に謝ってきた。


「え?」


 私は思わず目を丸くした。


「先生と学園長がそれなりに長い付き合いだとは知ってたのに」

「あんなことさせて……」


 そういえば学園長に会う前もアマナは謝ってたな。


 そっちは違う話だったけど。


「別にいいんだよ」

「こんなんで険悪になるほど若くはないだろ、あいつは」


 学園長は昔っからあんな感じでやたらなことをやってるから、私が現役だったころは紆余曲折の挙げ句にもっと酷い目に遭わせた覚えがある。


 それでも腐れ縁が続いてるのは……あいつの権力欲をわざと見逃して私が良いように利用されてやってるからだし……。


 何よりもあいつは見ていて面白いからな。


「お前が謝るくらい目に見えて私は落ち込んでるのか……」


「まあ……そうですね」


 自分で思っている以上に私は学園長のことを気に入ってたらしい。


「あのくらいは自業自得だろ」


 ただ今日はイレミアが気の毒だったからな。


「私が一人で直談判しても良かったんですけど」

「学園長は先生の言うことくらいしか聞きませんから」

「これが一番早いと思って……」


 へえ、それは知らなかったな。


「別にいいよ」

「イレミアが気の毒だったし」


「イレミアのために怒ってくれたんですか?」


「まあな」

「あいつがどんな気持ちで半年間過ごしてたかを思うと」

「あまりにもいじらしくってさ」


 なんか私も複雑な人間関係の中に置かれちゃったな……。


 イレミアのこともどう捉えればいいんだか。


 私の返事を聞いたアマナは目を伏せて黙っていた。


「ちなみになんだけどさ」

「イレミアをこの学園に捩じ込むのってどれくらい大変だった?」


「ゼステノ侯を介したので」

「労力は掛かりませんでしたが大きな借りにはなっていますよ」


「そっか」


 私は聞くか聞かないか迷ってたことを聞くことにした。


「ところで」

「なんでイレミアを学園に入れようと思ったんだ?」


「それはイレミアが学園にいたほうが色々と都合が良いと思っていたからです」


「でも実際には都合が良いどころか」

「お前が入学してから会うことさえなかったわけだ」


「学園長のさっきの件と私のほうの問題が重なっていましたからね」


「ふうん、それで……」

「本当のところは?」


「……本当はイレミアに良いポストを用意してあげたかったんです」


「もっと本当のところは?」


 私のしつこい問いかけにアマナはジロリとした視線を送りながら答える。


「ほかに理由なんてありません」


 そうは思えないけどな。


「単純にイレミアと近くにいる時間を増やしたかったんじゃないのか?」


 私は自分でも気持ち悪いと思うくらいに食い下がった。


「だとしたらどうします?」


 おお、アマナにしては珍しい切り返し方だな。


「どうすると思う?」


 何も言えなかったので私は問いかけ返す。


 なんか私は女々しい感じになっていた。


「先生って意外と意気地がないんですね」


「だってさあ」

「これでお前とイレミアを阻む壁はなくなったわけじゃん」

「姉役は二人もいらないだろ?」


 私は正直に白状した。


 イレミアとアマナが過ごしてきた時間に勝る自信は……ない。


 するとアマナが無言で私の足をガスガスと踏みつけてきた。


「わ、悪かったよ……」


「そうですよね」

「学内の件を片付けるにしても」

「私とイレミアで事足りますから」




「じゃあ私と先生の関係はもうこれまで通りってことで」




 アマナはそう言いながら歩き去ろうとする。


 まあ、そりゃ怒るよな。


 こんなこと言ったら……。


「なあ」

「待てって」


 とりあえず私はアマナの手を掴んで引き止めた。


 あー……。何を言えばいいんだ……。


「姉役ってなんですか」

「なんでそんな言い方できるんですか」


 私が逡巡しているとアマナのほうから口を開いた。


 めっちゃ怒ってる……。


「それは言葉のあやだよ」

「サフィのことも考えるとさ」

「歳上の私が好き好き言うのも気が咎めるじゃんか」


 私は焦りすぎて身も蓋もないことを口走ってしまっていた。


「それにイレミアとお前のことは」

「ある程度長く見てきたからさ……」

「私が割って入るのもアレかなって」

「今日のイレミアを見たら改めて思って……」


 こんなことを言ったら逆効果なだけなんだけど私は言わずにはいられなかった。


「今さらそんなこと言うんですか」


 アマナの震える声を聞いて──




 アマナの目が潤んでることに私は気付いた。




 そうだ。私はまずこいつのことを悲しませたくないんだ。


 だからこんなことを言っちゃってるわけでもあるんだけど……。


 とにかく今はアマナが言うところの意気地を、私の好意を、伝えないといけない。


 私は握っていたアマナの手を優しく引く。


「好きだよ」


 そう言いながら私はアマナを強く抱きしめた。


 完全に一線を超えた気がする。


 でもまだちゅーしてないからセーフ。


 私はそう自分に言い聞かせた。


「もっと気の利いたこと言えないんですか……」


 そんなことを言いながらアマナは私の背中に手を回した。


「今日は無理……」

「昨日だったら言えた気がする」


 なんか昨日の私はかっこいいやつだったような気がしてきた。


 今日は駄目だな……。


「とにかくこんなところにいたら学園長がまた出てきちゃうからさ」

「続きは私のとこで話さないか?」


「……そういえばさっきも言ってましたね」

「でも委員長はどうするんですか?」


 あ、佐苗を寮館まで送らないといけないんだった。


「管理人のお眼鏡に適えば誰でも出入りできるようになってるからさ」

「先に行っておいてくれよ」


「先生の建物に一人で行かせるんですか……」

「別にいいですけど」


 このへんも今日の私は駄目だな~……。


「もう明日から休みですし」

「ほかに学園で必要なことは済ませておいてくださいね」


 そうだな、佐苗を送る前に生徒のギフト調べもやっておくか。


「じゃあそんな感じで、また」


「はい」


 私は最後にアマナの頭を撫でながら両手を離した。




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