10/??/夕(予告)聖女狩り特務機関「ヴァルプルギス・ナハト」
──「アウラミライ侯爵学園」サロン
「他の聖女たちが知らなくても私は知ってるのよ!」
「あんたが大戦で何をしてきたのか……!」
"貴族派"の色合詠惟は右手と両足から鮮血を撒き散らしながら私に叫んだ。
「あなた"程度の人間"が……何を知っているのかしら?」
投げかけた言葉とは裏腹に、私は確信していた。
この女は知っているのだろう。本来、"学園の聖女程度"では知り得ないことを。
「"皇国の魔女"なんて聞こえがいい通り名じゃない……」
「大戦のとき、あんたは他の国に亡命した聖女を殺してまわっていた!」
「"皆殺しの魔女"と呼ばれていたあんたは特務き──」
色合詠惟の口が次の言葉を紡ぐことはなかった。
私の闇魔法によって彼女の周囲の気体が僅かに歪む。
彼女は一瞬で極度の酸欠に陥り、脳貧血を起こして音もなく崩れ去る。
「その呼び名を口にして生きている人間は少ないのよ」
「運が良かったわね」
私は短くつぶやきながら、倒れかかった色合詠惟の体を受け止めた。
そして、その勢いのまま彼女を近くの椅子にもたれかからせる。
私のクラスメイト……いや、伊勢谷先生の生徒である以上は殺しはしない。
だけど、しばらく表舞台からは消えてもらうしかない。
さっきの話がどこまで伝わっているのかも、彼女が目を覚ましたら確かめる必要がある。
サロンに飛び散った血の処理もしないといけないし、だいぶ面倒ね……。




