表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/72

ようこそ私たちの異世界聖女学園へ

──皇国暦1289年


 その類まれな異世界召喚の才によって大皇国を築き上げた初代皇帝ヘルメス・トリスティア。


 私がいま生きているトリスティア皇国では初代皇帝がもたらした「聖女召喚の儀」が脈々と受け継がれ、毎年1人以上の聖女が異世界から召喚されている。


 聖女を召喚できない年があった場合は翌年に聖女を2人召喚したり、翌々年に3人召喚したりと必ず平均人数が年に1人以上となるように調整されてきた。


 つまり、これまでに召喚されてきた聖女は1000人をゆうに超えているというわけだ。


 そのうえ、ここ数百年は魔物の数が爆発的に増加しているという建前のもと召喚人数が年に5人を超えていた。


 さらに私が物心ついてから十数年、たったそれだけの期間で300人以上もの聖女が異世界から召喚されている。


 毎年30人ぐらいのペースかしら?


 召喚は一方的で元の世界に戻ることはできない。だけど、この世界に召喚された聖女は元いた世界の生まれに関係なく莫大な力を持つ。


 そして初代聖女が女神のように崇められているせいで民衆からも現代を生きる聖女たちへの支持は篤い。


 法律や税制における優遇、宮廷からの支援、国からの直接的な金銭の授与、爵位に匹敵する特別な地位といったありとあらゆるものが約束されている。どれだけ豪奢な生活をしようとも使いきれない


 そもそも元の世界に戻れないどころか死者の魂が召喚されるときもある。死んだ当人にとっては戻れないことが短所にすらなり得ないだろう。


 召喚される聖女は学生が圧倒的に多い。


 その結果、魔法の研鑽を積んだ実力や血筋が優秀な者だけが入れる由緒正しき名門「アウラミライ侯爵学園」が、その身に有り余る"ギフト"を授かった女子たちの受け皿となり、いつの間にか異世界聖女まみれの学園となってしまっていた。


 もちろん卒業生が進む宮廷や首都魔法学院も聖女で溢れている。


 という訳で私が「アウラミライ侯爵学園」へと入学したころには同級生の9割が聖女という訳のわからない事態になっていた。


 そして最後に、ここからが超重要なのだけれど、このひとり語りはすべて私の走馬灯だ。




 私はこれから死ぬ。というかもう死んでると思う。



 

 クラス内で何十人もの愚かな異世界聖女たちが起こした派閥争いの最中、圧倒的な聖属性の魔力が教室にほとばしり、その余波を受けて私の全身は消滅した……。




 はずだった。




──目の前には見覚えのある天井


「生きてる?」

「……なんだ夢か」


 私は自室のベッドに横たわっていた。


 窓からは明るい朝日が差し込んでいる。


 どうやら私は聖女だらけの教室のせいで相当な鬱憤が溜まっているようだ。


 まさか聖女たちが派閥争いを起こした結果、その余波に巻き込まれて死ぬ夢を見るなんて……。


 まあ、実際に毎日それくらいの重圧はかかっていると思う。


 なにも研鑽を積んだこともない愚かな子どもたちが唐突に聖女としての力を持ち、なんの教養も嗜みも持たず自由気ままに生きているのだ。


 そんなメス犬どもに囲まれている以上は鬱憤が溜まるに決まっている。


 それ以前に鬱憤どころか実際に毎日死にかけている。物理的に。


 正直もう学園には行きたくない。


 入学してから半年ほどしか経っていないが、右を向けば聖女、左を向けば聖女、後輩も聖女、先輩も聖女。挙句の果てには担任までもが元聖女ときた。


 どうなっているのかしら。


 どうせなら聖女を皆殺しにする夢を見られたら良かったのに。


 だけど悲しいことに現実の私は聖女に抗うことができない。


 今となっては抗う気もない。


 私の家系は初代皇帝とともに皇国を興した七人の魔法使いがひとりを始祖に持つ名門「アマルティマ家」。


 アマルティマ家の子孫は代々、闇の魔法を司ってきたという。


 有り体に言えば闇の魔法しか伸ばせないらしい。


 もちろん末裔たる私も……。


 闇の魔法は、あらゆる物体、霊体、次元、空間に干渉できる。


 伝説によれば始祖たる魔女は空間を圧縮したり、引き伸ばしたりすることで時間さえも操ったそうだ。


 だから闇魔法は机上の空論においては万能だ。


 ただ、ひとつだけ弱点がある。聖女が扱う魔法には絶対に打ち勝てないのだ。


 "時間なんて操れるなら勝つとか負けるとかの範疇を超えてるんじゃないの?"という疑問を私は抱いたことがある。


 だけど、その領域に到達できたのは伝説で語られるような実在したかも怪しい魔法使いだけ。


 少なくとも私はそんなことできないし、皇国暦1000年以降は家門の誰もがその領域には至れなかったとお父様に聞いたことがある。


 そうは言っても時間が操れるなら、いつの誰ができないとかできるとか関係がないようにも思える。


 だって本当に時間を操作できるなら始祖の魔女が私の時代に来ることもできるはず。


 どの時代にも、どの時間軸にも行けるはずだし、未来永劫「でき続ける」と思う。


 それとも時間を操るってそういう意味ではないのかもしれない。


 だとしたらどういう意味なのやら。


 まあいいや。


 とにかく聖属魔法に正面から闇魔法をぶつけたらかき消される。

 これがわかりきった事実。


 と、そんな愚痴を脳内で垂れながら部屋を出る準備を終えた──

 なんだか夢の中でも同じことを考えていた気が……。


 これもまあいいや。


 私は考え事や問題を後回しにするのが大得意なのだ。


 どうにも聖女たちのせいで嫌味な思考が染み付いてしまっている。


 けれど今日も一日、名門令嬢らしく優雅に過ごしていきましょう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ