プロローグ
──ヘルメス皇国暦1289年
その類まれな異世界召喚の才によってヘルメス皇国を築き上げた初代皇帝ヘルメス・ダクティリオイディス・トリスティア。
私がいま生きているヘルメス皇国では初代皇帝がもたらした異世界召喚の権能「聖女召喚の儀」が連綿と続き、毎年1人以上の聖女が異世界から召喚されている。
聖女を召喚できない年があった場合は翌年に聖女を2人召喚したり、翌々年に3人召喚したりと必ず平均人数が年に1人以上となるように調整されてきた。
つまり、これまでに召喚されてきた聖女は1000人を遥かに超えているというわけだ。
そのうえ、ここ数百年は魔物の数が爆発的に増加しているという建前のもと召喚人数が年に5人をゆうに超えている。
さらに私が物心ついてから十数年、たったそれだけの期間で300人以上もの聖女が異世界から召喚されている。
毎年30人ぐらいのペースかしら?
召喚は一方的で元の世界に戻ることはできない。だけど、この世界に召喚された聖女は元いた世界の生まれに関係なく莫大な力を持つ。
そして初代皇帝の建国譚と聖女が密接にかかわっていたり、初代聖女が女神のように崇められていたりするせいで国からも民衆からも現代を生きる聖女たちへの支持は篤い。
法律や税制における優遇、宮廷からの支援、国からの直接的な金銭の授与、爵位に匹敵する特別な地位といったありとあらゆるものが約束されている。どれだけ豪奢な生活をしようとも使いきれない
そもそも元の世界に戻れないどころか死者の魂が召喚されるときもある。その当人にとっては戻れないことが短所にすらなり得ないだろう。
召喚される聖女は学生が圧倒的に多い。
その結果、魔法の研鑽を積んだ実力や血筋が優秀な者だけが入れる由緒正しき名門「アウラミライ侯爵学園」が、その身に有り余る"ギフト"を授かった聖女たちの受け皿となり、いつの間にか異世界聖女まみれの学園となってしまっていた。
もちろん卒業生が進む首都魔法学院や宮廷も聖女で溢れている。
という訳で私が「アウラミライ侯爵学園」へと入学したころには同級生の9割が聖女という訳のわからない事態になっていた。
そして最後に、ここからが超重要なのだけれど、このひとり語りはすべて私の走馬灯だ。
私はこれから死ぬ。というかもう死んでると思う。
クラス内で何十人もの愚かな異世界聖女たちが起こした派閥争いの最中、圧倒的な聖属性の魔力が教室にほとばしり、その余波を受けて私の全身は消滅した……。
はずだった。