決意と練習
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理由は複数考えられるが、最たるは今ここにマックルルがいるからだろう。
協力者とはいえ、彼は漆烏ではない。ギルド長の行動も読めない今、迂闊に巻き込めば思わぬ事故を起こしてしまう可能性もある。
そして、ラトゥーリアの調子と現場の状況を見極めなければならないのだろう。
繊細な判断が必要故に、鋭い一手を打てる。ラトゥーリアはそう捉えた。
「多少の危険を冒しても必要な事……というお考えですね」
「その通り。ラトゥーリアの事は私と、漆烏が守る」
「……では、恐れずに行けそうです」
演技ができるかという不安も、ヴァローナの決意を聞き払拭された。
できるできないではなく、やらねばと、ラトゥーリアの心は決まった。
「おと……マックルル様、心配してくださりありがとうございます。
きっと大丈夫です」
「……ご武運を」
マックルルはラトゥーリアに対し深く頭を下げ、祈りを捧げた。
◇ ◇ ◇
大まかに次の行動が決まったのなら、それに向けての準備が始まる。
まずラトゥーリアは、パーティでのマナーのおさらいをした。
今の身分は男爵令嬢。それも社交界デビュー前の若い娘。商人上がりの新米男爵の娘であり、デビュタント前に子爵との婚約が決定している。
社交界の通例を様々飛び越えてしまっている存在故に、立ち回りには細心の注意を払う必要がある。
(あまりに完璧な対応でも浮く……粗相しすぎても悪目立ちする……
緊張しすぎて対人の応対はヴァローナ様に任せきりの令嬢……というていで、喋るのは最低限に……)
難題だと、ラトゥーリアは頭を悩ませた。
ある程度演技の方針が決まったところで、行動を共にするタビーやネグ、ヴァローナと共有しつつ、自室で一人実際に演技にシミュレーションをしてみる。
(練習は引き続き行っていくとして、次は……)
漆烏の隊員たちとの勉強会だ。
丁度次の作戦に必要な事をおさらいできるのでとても運が良いと、ラトゥーリアは勇み足で待ち合わせの訓練所へ向かっていく。
今回の内容は舞踏会のダンス。
参加者はタビーとネグ。見学でキャリコとルフトだ。
「僕は一旦見学で、最後に少しだけ参加させて頂ければと思います」
「わかりましたわ」
ルフトの右足には大きな古傷があり、障害が残っていると、ラトゥーリアは最近になって知った。
歩行補助のための器具が埋まっており、日常生活に差し支えはないが、未だに走ったりステップを踏むなどは苦手なのだという。
「参加すればいいのに……みんな気にしないよ?」
「作戦で踊る奴が優先だろ」
「あ、うん……そうだね?」
何故か少しムキになりながら、ルフトはタビーの提案を断った。断ってすぐバツの悪そうな顔をしつつも、それ以上言葉を発さなかった。
微妙な空気になってしまったのを取り繕うように、ラトゥーリアはタビーをネグの前へ促す。
「まずはどの程度なのか、一度踊ってみましょう」
演奏隊などはいないため、この場は特殊なメトロノームを利用する。曲のテンポと拍を設定して針を動かせば、即興ながらダンスの指針となるリズムが出来上がる。
「足踏まないように」
「そっちこそ」
針が刻み始めたと共に、ネグとタビーは踊り始めた。
背の高い二人のダンスは強さと美しさを兼ね備えており、とても迫力がある。舞踏会のステージで一際目立つ大輪の花になるだろう。
ただし、今回参加を申し出ただけあり、欠点もいくつか見受けられた。
「あまりに、その、動きが洗練されすぎています」
「あー……あははは」
「貴族ではなく諜報部隊の身のこなしなのです……」
「……難しい」
競技としてなら天辺を狙えるレベルだが、舞踏会は技を競い合う場ではない。
よくタビーとネグのペアで舞踏会の諜報へ赴くらしいが、今まではわざわざ怪我で本調子でない時に参加したり、錘を仕込んで動きを制限したりなど、涙ぐましくも方向性のおかしい努力をしていたという。




