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美しい偽名

2−4

「……まぁ、それは後でゆっくり問い詰めるとして」

「えっ」


 ヴァローナにはお見通しだったようだ。後で来る追及をどう躱そうか、ラトゥーリアはひっそりと考えておく事にした。


「しがないなど言っているが、マックルル殿は独学で語学を勉強し、海を隔てた遠国の薬草や石鹸を輸入してくれるオーロノウムでは唯一の商人だ。

 その功績を讃えられ、近々男爵の位を叙される」

「それはすごいですわ……!」

「恐縮でございます……御贔屓にしてくださる子爵様方と我がギルド長のおかげです」


 語学の習得も、慣れない他国と関わりながら商売を成功させる事も、一朝一夕の努力では到底成し得ない事だ。

 腰が低く穏やかな人柄も含め彼は信用できると、仕事人の目線からもラトゥーリアは思った。

 

「それで、前に少し伝えていた偽名の件だが、彼の娘というていで名前を作ることになった」


 復讐を終えるまでの間だが、普通の生活を送るために必要な名前だ。

 ヴァローナからマックルルとの協定締結のための書類が差し出され、そこに記載されていた自分の名前をラトゥーリアはゆっくりと読み上げる。

 

「ルミア・マックルル……綺麗な名前ですわ」

「ルミアはマックルルの取引先の言葉で、雪の妖精を現すそうだ」


 書かれていた名前を指でなぞり、アイスブルーの目を細めた。

 偽名とはいえとても美しく、雪狼姫のあだ名がより誇らしいと思える名前だと、嬉しさでいっぱいになった。

 いつかラトゥーリアの名前を再び名乗れるようになった後も、絶対に大事にしようと心に決める。

 

「すぐにルミア・アイルになるけど、カバーストーリーはこんな感じだ」

「慣れない事もあると思いますが、精一杯お助けできればと」

「そんな、こちらこそ!」


 ラトゥーリアは改めてマックルルと向かい合い、満面の笑みを浮かべた。

 

「本当にありがとうございます……どうぞよろしくお願いいたします……お父様」


 思った以上にすんなりと、マックルルの事を父と呼べた。

 この場の短いやり取りだけでも、彼を信用するには充分だった。今までの父ヴァルプスを考えると、マックルルのような父がいたらどんなに心強かったかとも思ってしまう。

 

「感動が、押し寄せて……動悸が……」

「ラティ、手加減してやってくれ」

「えぇ……?」


 マックルルは、先程以上に小刻みに震えながら胸を押さえて蹲りかけている。

 何故苦言を呈されたのか今一ピンと来ないまま、マックルルをソファへ促した。


「さて、もう一件の方だ。

 ギルド長……絨毯売りは元気か?」

「えぇ、もちろん……伝令を飛ばしますか?」

「頼む。私では捕まらないんだ……烏の絨毯を一枚と伝えておいてくれ」

「かしこまりました」


 空気がガラリと変わった。恐らく諜報に纏わる事だろう。

 自分が聞いても良いと言うことは、今後の復讐に関連するであろうとも、ラトゥーリアは察した。

 マックルルは魔法で光の鳥を作りだし窓から放てば、流れ星のように一瞬で彼方へ飛び立っていく。

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