贈り物と買い物
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「丁度若手の訓練がてら狩りにいっとるよ……間が悪いのぉ。
雪狼姫様が来ると連絡はしたのだが」
「いーの、ニヴァン様はそういうお方だし。
きっと狩りがいい感じで楽しくなっちゃってるのかも」
「若手は惜しい機会を逃したのぉ」
本来迎えに来るべきはずの人物が見当たらない。
長老がまとめ役を引き継いだニヴァンという人物は、自分ルールでしか動かない自由人なのだと、タビーは腕を組みため息をついた。
また改めてこちらから挨拶に向かわせると長老は頭を下げつつ、後ろに控える民たちと共に、ラトゥーリアへ改めて向かい合った。
「雪狼姫様、我々は貴方様の味方です。何かありましたら是非頼ってください。
我々は貴方の力になりたいと願っております」
「ありがとうございます……是非、その時は頼らせてくださいませ」
民たちが一斉に礼をしたのに合わせて、ラトゥーリアも深々と礼を返した。
「……さて子供たち、あれを持ってまいれ」
長老が居直り、後ろに控えた子供たち数名に声をかける。すると子供たちは魔法で隠していたらしい大きな箱を全員で持ち上げ、長老の横まで持ってくる。
「我々から、ささやかながら贈り物です。
どうかこの先の未来を、堂々と歩んでいけますように……」
子供たちがラトゥーリアに歩みより、箱を差し出す。ラトゥーリアは膝を付き、子供たちの目線にあわせてながら、両手でしっかりと受け取った。
「パゲドリディニクの民はね、レース作りと刺繍が得意なの。
だから、みんなでドレスを縫いました」
「雪狼姫さまに、祝福がありますように」
箱の重みを噛み締めながら、ラトゥーリアは泣きそうになるのを堪え、精一杯の笑顔を浮かべた。
また生きていたいと思わせてくれるような、素敵な希望ができたと、嬉しくてたまらない。
「ありがとうございます……大切に、着させて頂きます」
本当なら箱を抱きしめたり、今すぐ着て見せたいが、この場は汚さないようにタビーに渡して転移魔法で子爵邸へ届けてもらった。
「さて、買い物でしたかな?」
「そう! 雪狼姫様は感動から帰ってこれてないけど、日用品と衣料品諸々を買いにきました!」
「あ、大丈夫……大丈夫ですわ。目的は忘れていません」
今回のラトゥーリアの来訪目的は隠れ里の民への挨拶と、自分の衣服や身の回りで必要な物の調達だった。
挨拶の方は長老たちが子爵邸に来るという話もあったが、ラトゥーリア本人の希望で体力づくりも兼ねて、タビーをお供にやって来たのだ。
武具の手入れ道具はタビーに任せ、ラトゥーリアは自分の物や屋敷で使える物を見繕っていく。
目利きには自信があったが、隠れ里のどの店も質が良い上、ラトゥーリアがときめくような衣服が揃っていた。
日用品に関しては海外から輸入してきたらしい目新しくも便利な物が並んでいる。流石漆烏と関わりが深い隠れ里というべきか、レヴルナール領の一番栄えた街よりも品揃えが優れていた。
「こんなわくわくするお買い物、はじめてかもしれないわ……」
「楽しんじゃいましょう!」
気に入ったデザインを大目に買い足しても、予算はまだまだ余裕があった。
ヴァローナが気を効かせてくれたのかもしれない。もう自分の金として扱っても良いと言われてはいるものの、少し不安もある。
(立場と信用があるから……という意味ではあるんでしょうが)
あまり使いすぎないようにしようと思いつつ、タビーにそろそろ戻ろうかと提案しようとした矢先、心惹かれるものが目に入ってしまった。
(……これ)
手に取ってみれば、その輝きからヴァローナを思い出した。
(でも、子爵家のお金で買うのですから、プレゼントにはなりませんわね)
そう思い至って棚に戻してしまったが、一部始終を見ていた店員が、カウンターからバスケットを取り出してラトゥーリアに歩み寄る。
「雪狼姫様、よろしければこちらを使って、ご自身で何か作ってみるのはいかがでしょうか?」
バスケットの中身を見て、ラトゥーリアは即刻提案に飛びついた。
買い物籠に棚に戻した物とバスケットの中身を加えて会計した後、今度こそタビーに声をかけた。
大きな荷物を子爵邸に送り、長老と子供たちに見送られつつ二人は隠れ里を後にした。




