妄執
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慣れ親しんだ処刑台。自分の仕事の舞台であり、蓄えた知識と技術の披露の場。
人から忌み嫌われる職業だと理解しつつも、誇りをもっていた。
ここに上がれば無辜の民も皆罪人となる。
「……なあ、お前たちは何をされた」
本来自分の手によって処刑されるはずだった3人の男たちの死体を眺め、マオ・シャヴラトゥールは尋ねた。
返事はないが、死刑執行人の視線は死体たちの言葉を聞き逃さない。
何をされ、どんな目に合い、どのような経緯でここまで来たか。
死体に残された傷と、表情から読み取る。
死体に残る魔力の痕跡を手繰り、思案する。
目を瞑った瞬間、断片的な映像が脳裏に流れ込み、マオは口元に手をやった。
どこまでも赤く、無邪気で邪悪な微笑みを浮かべ、行われていく所業。
凄惨な死体ならいくらでも見てきたが、これほどまでに純粋で強烈な悪意があるのかと戦慄する。
(……職務と忠誠、自分と友人)
天秤にかけた物は、どれも重い。
身の振りを考える時が来たと思いながらも、今は迷いで足がすくんでいる。
(……雪狼姫)
流れ込んだ映像の中で男の一人が口にした言葉。
その名は知っているし、どんな人物だったかも覚えている。自分が首を絶つはずだった侯爵令嬢だ。
彼女の体は、偽物だった。
他の動物の血肉を利用し疑似的に作り上げられた物であり、自分が良く知る魔法だ。
だが、報告はしなかった。
(友よ……何を考えているか知らないが、お前はわたしを怒らせたぞ)
背中に携えた鞘から、処刑用の剣が引き抜かれる。
処刑に花を添えるべく制作され、現王から与えられた名誉ある銀の剣だ。
切れ味は鋭く、血と脂を弾き骨を一太刀で断つ。
祈るように胸の前に掲げ、剣の腹に額を寄せる。
(悔しい……悔しい……あの人を送るのは、わたしの役目だったのに)
この剣で、あの細い首を断ちたかった。
あの優しい人を、早く楽にして差し上げたい。
(ヴァローナ・アイルめぇ……)
処刑人としての矜持と執着が、彼の心を蝕んでいた。
1章完




