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妄執

1−45

 慣れ親しんだ処刑台。自分の仕事の舞台であり、蓄えた知識と技術の披露の場。

 人から忌み嫌われる職業だと理解しつつも、誇りをもっていた。

 ここに上がれば無辜の民も皆罪人となる。


 「……なあ、お前たちは何をされた」


 本来自分の手によって処刑されるはずだった3人の男たちの死体を眺め、マオ・シャヴラトゥールは尋ねた。

 

 返事はないが、死刑執行人の視線は死体たちの言葉を聞き逃さない。

 何をされ、どんな目に合い、どのような経緯でここまで来たか。

 

 死体に残された傷と、表情から読み取る。

 死体に残る魔力の痕跡を手繰り、思案する。

 目を瞑った瞬間、断片的な映像が脳裏に流れ込み、マオは口元に手をやった。

 どこまでも赤く、無邪気で邪悪な微笑みを浮かべ、行われていく所業。

 凄惨な死体ならいくらでも見てきたが、これほどまでに純粋で強烈な悪意があるのかと戦慄する。


(……職務と忠誠、自分と友人)


 天秤にかけた物は、どれも重い。

 身の振りを考える時が来たと思いながらも、今は迷いで足がすくんでいる。


(……雪狼姫)


 流れ込んだ映像の中で男の一人が口にした言葉。

 その名は知っているし、どんな人物だったかも覚えている。自分が首を絶つはずだった侯爵令嬢だ。

 彼女の体は、偽物だった。

 他の動物の血肉を利用し疑似的に作り上げられた物であり、自分が良く知る魔法だ。

 だが、報告はしなかった。


(友よ……何を考えているか知らないが、お前はわたしを怒らせたぞ)


 背中に携えた鞘から、処刑用の剣が引き抜かれる。

 処刑に花を添えるべく制作され、現王から与えられた名誉ある銀の剣だ。

 切れ味は鋭く、血と脂を弾き骨を一太刀で断つ。

 祈るように胸の前に掲げ、剣の腹に額を寄せる。

 

(悔しい……悔しい……あの人を送るのは、わたしの役目だったのに)


 この剣で、あの細い首を断ちたかった。

 あの優しい人を、早く楽にして差し上げたい。

 

(ヴァローナ・アイルめぇ……)

 

 処刑人としての矜持と執着が、彼の心を蝕んでいた。


1章完

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