友への祈り
1−42
ここで、ヴァローナは鼠を介して覗き見るのを止めた。
深いため息を付き、ぼんやりと天井を見上げる。
アリエラはまだラトゥーリアが生きていると確信していない。だが、索敵だけは始めている。
大義名分で虐げていい相手を探しているだけなのか、ゆくゆく敵になりそうな誰かを探しているのか、定かではないが確実にろくなものではない。
(幸いなのは、まだ魔法の扱いが下手ということか)
強力な魔法を知り、それを行使するだけの魔力と知識はあるが、何故か感覚が追い付いていないようだった。
この状態ならまだ漆烏の暗躍やラトゥーリアには気付かないだろうと思う。
(……マオ・シャヴラトゥール)
ラトゥーリアの生存を知るのに一番の近道である男を思い浮かべながら、ヴァローナはメモに何かを書き加えた。
シャヴラトゥール家は死刑執行人を代々務める旧家だ。
死神、悪魔、死の精霊。その他思いつく限りの陰鬱な渾名を持ち、貴族からも平民からも畏怖され、孤立している。
そんな印象とは裏腹に、彼らはいつも勤勉で、現王に変わらぬ忠誠心を捧げていた。
故に、処刑と人体についての知識は、他の追随を許さない程に深い。
人体の知識だけなら漆烏の誇る名医ルフトにも勝る。それだけの知識を持って、罪人をなるべく苦しめない死と、民を楽しませる見世物としての死を、日々追及している。
その生真面目さがどう転ぶかが、今後の行動の鍵になる。
彼は陰鬱な空気で誤解されやすいが、善人であり頭の良い男だ。
何が正しく、何が間違いなのか、自ら理解し立ち回れるはずだ。
(友よ……)
ヴァローナは彼を、よく知っていた。
だからこそ、彼がどうか敵に回らないようにと、静かに祈った。
セルドー鉱山事件と銘打たれた事件の主犯格3人は、死刑の前に牢獄で死を遂げた。
慰問に来た心優しきアリエラ・クローシュカが発見し、騎士団を呼びつけた時には手遅れだったという。
内二名は頭部が破裂し、内一名は内臓の気泡と溶けだした脳で窒息していた。
そのむごたらしい有様を見せしめとして処刑台に置くことによって、事件は一旦終息となった。
(むごいな……)
ルフトは事の一端をヴァローナから共有されたが、改めて新聞でも確認した。
記憶を読み取る魔法をはじめ、人の頭の中へ干渉する魔法は、極一部の天才しか行使できない超高等魔法だ。
失敗すればこの記事のように頭の中に嵐を巻き起こしてぐちゃぐちゃにしてしまう事もあれば、術者自体が流れ込む記憶により精神を崩壊させてしまう事もある。
「ひぃぃん……お腹すいたよぉ、お肉たべたいよぉ……」
陰鬱とした気分になっていたが、ベッドの上でべそかいてるタビーのおかげで、少しだけ明るい気分が戻って来る。
彼女は両手指を骨折しており、分厚いミトンをはめているような状態になっていた。




