魔女の所業
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「さて、報告は以上です。勉強会に参加するので失礼いたします」
「ルフトも参加するのか」
「えぇ、手紙の書き方を教わりに」
「手紙は楽しいか?」
「……まぁそれなりに。余計な詮索は無用です。それでは」
いつも無表情に近いルフトの顔が少しだけほころんでいる。
隊長として喜ばしいなと、ヴァローナは笑顔で彼を見送った。
本当なら自分もラトゥーリアとの勉強会に参加したいが、今は懸念点を潰すのが先だと意識を切り替える。
(処刑は明日……かぁ)
一人執務室に残されたヴァローナは、魔法で一羽の烏を作り出し、窓から放った。
烏はレヴルナール領をあっという間に飛び去り、王都の空までやって来る。
王城の屋根に降り立った後は烏から鼠へ変身し、今度は地下へ向かっていく。
細長い下水道を駆け抜け、牢獄まで到着したところで、隅の暗がりに身を潜めた。
目的は、あの3人の囚人たちだ。
明日の処刑はもう覆らないとはいえ、念には念をとヴァローナは監視の目を送ったが、そこでは丁度何かが破裂する音と、床に水気が撒かれるような音が響き渡っていた。
「あーあー、読み取る前に爆発しないでほしいのです」
音の出所は、アリエラ・クローシュカだった。
紅玉姫の二つ名にふさわしい薔薇のようなドレスに、血で汚れた白の手袋。
その足元には頭を爆発させ、ひくひくと痙攣するバル・ヒュースが倒れていた。
「……この身体とても不便ね」
どうやらアリエラは、彼らの記憶を魔法によって無理やり読み取ろうとしているらしい。
強すぎる魔力を持て余し、一人誤って殺してしまったようだった。
「お許しくださいアリエラ様……どうかお助けください……!」
「えいっ」
今度はめそめそと命乞いをするシュヴァー・ハンジールの頭に、ぽんと手を添える。
「あなた、魔法使いね?
これは期待できますね。頑張って耐えてみましょう。
大丈夫、痛くなーい。痛くなーい。ほら、かっこいいところ見せて?」
「あ……がっ……がぼ……」
シュヴァーの頭の中は今、魔法の嵐によってかき回されているようだった。
身体は痙攣が止まらず、白目をむいて鼻血と涎を滴らせる。
暫くして、喉奥から噴き出てくる泡で窒息し、シュヴァーはそのまま動かなくなった。
「うーんろくな記憶がない。
これじゃあ諜報部隊がかっこいいだけじゃない」
ぷりぷりと可愛らしく怒りながら、アリエラは二人の死体を足蹴にして、最後に残ったグロースに歩み寄る。
「あ、悪魔……」
「あらぁ? 気づいちゃいましたか?」
アリエラは今日一番の笑顔を浮かべた。
彼なら何か知っているかもしれない。前の二人よりもずる賢そうだから、良い記憶が手に入るかもしれない。
そして、心躍る苦しみ様を見せてくれるだろう。
「さぁ、あなたの頭の中も見せて」
蠱惑的な声で耳元へ囁き、アリエラは禿げ上がった頭に手を添えた。
そして、男は断末魔を上げる間もなく爆発した。




