滑稽な恐れ
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(なるほど、歩行練習は完璧でなくて良いの理由はこういう事でしたのね……)
一応作戦詳細にも記載されていたが、ラトゥーリアは想像しづらかった。
だが今、グリースの反応を見てやっと理解した。
ふわりと浮かぶ身体に、ゆらめきたなびく青いドレス。冬の魔女の亡霊として箔をつける素晴らしい演出だ。
改めてラトゥーリアは冬の魔女を演じて見せると気合を入れた。
「わぁぁぁ⁉︎」
何とか槍を振り回し、当たりはするが手ごたえはない。
冬の魔女ラトゥーリアは涼しい顔で再び向かってくる。
「わたくしは、お前たちを呪う。
未来永劫、お前たちの種が続く限り、呪い続ける」
「この……死にぞこないがぁ……」
一応王国騎士らしく槍を構え直し、本気の戦闘態勢に入るもラトゥーリアは止まらない。
じわじわと距離を詰められ、グロースに寒気が走る。
「グリース・セルドー……
お前に潰された目の痛み……味わわせてやろう。
お前にも、わたくしの苦しみを」
ラトゥーリアは眼帯を外し、窪みができてしまっている箇所を柔くなぞった。
彼の武骨な指が貫き、美しいアイスブルーの瞳が破裂した跡を、顔を近づけて見せつけた。
その痛みは今まで感じたどんな痛みよりも強烈で、忘れがたい恨みだと冬の魔女は語り、青白い指がグロースの左目に迫る。
「おい、よせ、何をするんだ……やめろ!
近寄るなっ! だ、だれか、助けて」
引きはがそうにも槍と腕は宙を切るのみ。ただぬらりとした指だけは、そのまま目へ向かって来る。
グロースは思わず心の底から悲鳴を上げた。
身体中から汗が吹き出し、必死で目を瞑り、自尊心をかなぐり捨てて助けを求めた。
「お久しぶりでございます。グリース・セルドー様。
どうかいたしましたか?」
そんなクローズの切迫した状況とは裏腹に、何事かときょとんとした様子のヴァローナがあっけなく答えた。
グロースは恐る恐る目を開けると、冬の魔女は跡形もなく消えている。
あれは幻なのか現実だったのか、判別つかないまま一先ずはヴァローナへ応対する事にした。
「おやおや、体調がすぐれませんか?」
「……いえ、少し椅子から転んでしまっただけで」
「本日の侯爵との会談、申し訳ありませんが中止になった事をお知らせに参りました」
ヴァローナはグリースを助け起こしながら、申し訳なさそうにそう告げる。
「侯爵は私にこの場を任され、別件で王都へ向かっています」
「……そうですか」
正直グリースは助かったと思った。
今起こった冬の魔女の事も、仲間の二人が見当たらない事も含め、今日はもう交渉できる余力がなかった。
「一応のお詫びとして、先程からこのあたりをにぎわせていた賊は私が対処しておきました。
バル・ヒュース様、シュヴァー・ハンジール様も救出済です」
「か、感謝します」
問題の一つが即座に解決してしまい、少し気が軽くなったが、ヴァローナが続けた言葉にまた焦り出すことになる。
「ついでに、宝物庫についてなのですが」




