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第一幕開演

1-36

「無力化完了」

「お見事、素晴らしい仕事だ」


 ヴァローナに褒められ、キャリコは静かに喜んでいた。

 何となく花が舞っているような空気感を出しているが、横では虫の息のシュヴァーが転がっている。

 

(……ミイラのようになっていますわね)


 キャリコはカサカサになったシュヴァーを雑に地下倉庫の入口前まで引きずっていき、縛り上げておく。

 魔力切れはそう簡単に復活しないし、彼程度なら復活してきたところで脅威でないだろうと判断されての事らしい。

 

「さぁて、最後の仕上げだ」


 ここでの最後の標的、グリース・セルドーの下へ向かう前に、ヴァローナはラトゥーリアへ耳打ちする。

 

「名演を期待している」


 最初こそ困惑したが、どんな手を使ってでも復讐してやると息巻いたのは自分だ。

 むしろ、これがなるべく死人を出さず、漆烏たちの手を汚させない最善策なのだと納得もした。

 

「……やり切って見せますわ」

 

 ラトゥーリアはこの役目のために、鉱山での戦いに不釣り合いな豪奢なドレスを纏ってきたのだと、自分を奮い立たせた。


「その意気だ」


 彼も今からが正念場だった。ヴァローナはキャリコにラトゥーリアを任せ、一人洞窟の闇の中に紛れていった。

 キャリコとラトゥーリアは、作戦通りグリースが屯する監視部屋に向かい、扉横の死角に息をひそめる。


「……これで完璧」


 かけられた気配遮断と透過の魔法を少し調整し、キャリコは準備万端だと告げる。

 ラトゥーリアは監視部屋の中へ、正面から入っていった。

 堂々と入っていくが、グリースはラトゥーリアに気が付かない。

 だらだらと一人酒の入ったグラスを傾け、暇を持て余している。


「お⁉︎」

 

 ラトゥーリアはそれを良いことに、テーブルの上の酒瓶を思いきり壁に叩きつけ割った。

 続けてキャリコがこっそりと魔法を放ち、グリースが傾けていたグラスをひとりでに割れたように演出し、部屋全体をガタガタと揺らし始める。

 

「な、なんだってんだ……⁉︎」


 さすがに酔いが覚めたグリースは慌てて壁に立てかけておいた自分の槍を手に持ち、臨戦態勢に入る。

 だが、敵は見当たらない。揺れはまだまだ続き、更にテーブルや椅子が倒れ、天井からは煤が霧雨のように降って来た。

「バルのやつはどうしたってんだ、シュヴァーは……⁉︎

 あの役立たずどもぉ……‼︎」

 

 2人とも部屋から出て行ったきり戻ってこない。

 もしかしたらシュヴァーの言っていた通り、賊の襲撃なのかもしれないが、何が目的なのか皆目検討がつかない。

 自分は上手くやっていたはずだ。金目当てならさっさと地下倉庫に行けば良いのに、何故ただただ嫌がらせのような現象を引き起こしてくるのか。


「くそがぁ……! 姿を見せやがれ!」

 

 悔し紛れに吠えた瞬間、目の前にぬっと女の顔が現れ、飛び上がった。

 驚きすぎて腰を抜かし、何とか後ずさりしてその正体を確認して、口をあんぐり開く。


「ふ、冬の……魔女⁉︎」


 かつて自分が目を潰し、明け方には処刑された女。

 冬の魔女、雪狼姫ラトゥーリア・レヴルナール。

 その亡霊が宙に浮き、そこにいた。

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