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戦いの合図

1−33

 その頃、奇襲が迫っている事など気付かない標的の3人は、セルドー鉱山の管理部屋で屯していた。

 落盤が多く閉鎖となった第三洞穴の中に掘って作られた簡素な部屋であり、この場にいるのはこの3人だけ。

 他、やむおえない事情で汚職に手を貸すセルドー鉱山の作業員がごく少数、一応洞窟の入口の見張りについている。


 侯爵と会い、新商品を披露するということで、3人は浮足立っていた。

 見張りからの侯爵到着の知らせが来るまで、とりあえず飲んで落ち着こうかと、テーブルには酒瓶とグラスが置かれはじめている。


「お、オレ、ちょっと倉庫行くわ」

「何度目だよ」


 新商品の開発を担当したシュヴァーは、そわそわと部屋から出て行った。

 彼は自分の功績に浸るのと、ちゃんと評価されるだろうかという不安の半々で、先程から地下倉庫と管理小屋を行ったり来たりしている。

 

「お、お前ら……!

 ぞ、賊が、賊が来たかもしれん」

 

 しかし、シュヴァーは大慌てで管理部屋へ戻って来た。

 入口へ向かう通路に隠された地下倉庫の入口へ向かう途中、見張りたちのけたたましい悲鳴が聞こえて来たのだという。


「賊ぅ? 姿は見たのか?」

「すぐに引き返して来たから……姿までは」

「はん、腰抜けが」


 グリースはそんなシュヴァーを鼻で笑った。

 そしてバルに目配せをし、壁に立てかけてあった大斧を手渡す。


「……っし、ちょっと遊んでくらぁ」


 首をごきごきと鳴らしながら、さっと愛用の鎧も纏って、バルは入口の方へ向かっていった。

 侯爵がやってくる間、自分には何もやることがない。暇していたから丁度いいと、戦闘狂の気を見せながら悠々歩き出す。


「賊どもぉ〜いるなら出てこい。

 このバル様が、直々に叩き殺してやるからよぉ」


 大斧を軽々振り回し、周囲をけん制するも、人の気配は全く感じられない。

 シュヴァーが臆病風に吹かれただけかと、ガッカリして引き返そうとした瞬間、死角から黒い影が迫っていた事にようやく気付く。

 

「なぁっ⁉︎」


 咄嗟に大斧を振るったが影は軽く躱し、そのまま鎧の隙間を縫って脇腹に一撃、更に顔面にも一撃加え、軽やかに距離を取る。

 影は無駄のない攻撃を終え、バルに自らを視認させるようゆったりと対峙した。


「なんで、漆烏がこんなところにぃ?」


 烏の仮面に黒い隊服とマント。

 あの日牢獄で見た男と同じだと、バルは大斧を構え直す。

 素早いが、自分よりずっと細身で小さい。力で押せば絶対に勝てる。

 雑な分析していると、漆烏の隊員はわざわざバルに聞こえるように、大きくため息をついた。

 

「……弱い」

「何ぃ?」

「王国騎士団が聞いて呆れる。

 武闘派と聞いて楽しみにしていたが、拍子抜けだ」

 

 聞き捨てならない一言に、バルは大斧の柄をへし折ってしまいそうになるほど力が籠った。

 自分の矜持を馬鹿にされ、怒りで全身の血が煮えたぎり、身体が震える。

 何より、声でわかったが、相手は女だ。

 身の程をわからせてやると、静かに本気の構えを取る。


「来い」


 漆烏は戦う構えを作り、手招きした。それが戦いの合図となった。

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