まずは第一歩
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「読み終わったと認識されると燃えます。
気を付けて」
この羊皮紙は、漆烏が作戦確認のために使う特注品らしい。
読み手が読み終わったと羊皮紙が認識すると、ひとりでに発火し、内容の隠滅を行うという。
まるで生き物のようだとラトゥーリアは感心した。
(とてもわかりやすい……それに、わたくしの意向を汲んでくださっている)
流し読みしただけでもなるべく平和的な行動を第一として、作戦の構成が成されていた。
(気になるのは……)
ヴァローナに視線を合わせようとすると、それに気づいたヴァローナはウインクを返して来た。
ラトゥーリア以外の隊員が突然何事かとざわつく。
(……これは、やはり、少し恥ずかしいですわ)
自分の名前の下に書かれた内容に、ラトゥーリアはひっそりと困惑していた。
作戦会議の後、各々の分担の確認を滞りなく終わらせ、出発の準備に取り掛かる。
漆烏の面々は隊服とマントを纏い、あの烏の仮面を装着した。
(2人とも、かっこいいですわ……)
タビーの仮面姿は久しぶり、キャリコの仮面姿は初めてだった。
素の2人を知っているのもあり、そのギャップにラトゥーリアは少しうっとりとしてしまう。
(……わたくしの方は、わかってはいましたが重いですわ……動きづらいですわ)
ラトゥーリアの方はというと、侯爵令嬢時代に纏っていたような豪奢なドレスを纏っていた。
瞳の色に合うよう作られた青のドレスは、オーロラを思わせるレースをふんだんに使っているせいで、それなりの重量になっている。
与えられた役目を考えると正しい恰好だとは納得しているし、仕事モード前のタビーやキャリコに沢山褒められたので悪い気はしていないが、鉱山では動きづらいだろうと悩ましかった。
「では、ただいまより作戦を開始する。
タビーはセルドー鉱山第三洞穴到着後先行、私とキャリコとラトゥーリアはその後に続く。
……転移魔法の準備は?」
「できています」
会議室にいた2人の隊員は、実戦に向かうタビーやキャリコの魔力を温存させるための、転移魔法要員だった。
転移魔法はともかく魔力の消費が激しいが、本来子爵邸から半日はかかるセルドー鉱山まで5分とかからず移動できる。
奇襲や迅速さが求められる作戦にはうってつけなのだ。
「ルフト、何かあったら頼んだ」
「何事もない事を祈っています」
ルフトは治療要員として医務室で待機。玄関まで見送りに来た彼は、いつもの面々で唯一現場に出られず、少し歯がゆそうだった。
「ご武運を」
転移魔法を発動しはじめる2人の言葉には、しっかりと感情が籠っていた。
この人たちは、作戦の成功と、皆の幸福を祈ってくれている。
いつか自分と仕事をしていた漆烏の隊員たちもこのような感じで、淡泊な言葉の中に優しさを潜ませていた。
「えぇ、まずは一歩、成し遂げてみせます」
貰った優しさで、ラトゥーリアは心に火を灯す。
そして、転移魔法の光の中で目を閉じた。




