第一の復讐会議
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「揃ったな」
会議は、子爵邸の会議室にて始まった。
医務室より更に下の階層に作られ、隊員全員が内容を確認できるよう劇場のようにステージと横並びの椅子が配置されている。
説明のため、既にヴァローナはステージに立ち、黒板を用意していた。
席の方にはラトゥーリアをはじめ、タビー、キャリコ、ルフトのいつもの3人。後ろの方に、まだ会話した事のない男性隊員が2人座っていた。
「まず、此度の標的、あの3人の概要から改めて説明しよう」
黒板にヴァローナがメモを開いた時に現れていた人相画が転写されていく。
まず鮮明に顔を判別できるようになったのは、兜で擦れて一部剥げ上がった頭を持つ髭面の男。
「グリース・セルドー。セルドー男爵家の三男。
レヴルナール領セルドー鉱山の運営権を持つ家だ。
王国騎士団所属の身でありながら、セルドー鉱山から産出される緑啓石を侯爵に収めず横領している
この3人のリーダー格と言っていいだろう。憎らしいが、数年間バレずにやれるだけの悪知恵と度胸がある。」
セルドー鉱山については自領の管轄だったのもあり、ラトゥーリアは既に知っていた。
アミュレットや、魔法を利用した家具などで魔力を通したくない箇所に欠片を差し込む等、魔法防御や遮断の目的で利用される事が多い緑啓石の産地。
既存の職人や商人にとっても、新規の発明家たちとしても需要があるレヴルナール侯爵領の優秀な財源だ。
その横領となれば、あの侯爵が黙っていない。
説明された内容と合わせて認識を更新していると、今度は無精ひげを散らした面長で不健康そうな男が浮かび上がって来た。
「次にシュヴァー・ハンジール。ハンジール子爵家の四男。
魔法兵器の研究で栄えてきた家だが、今や過去の栄光に縋って細々とやってるだけ。
魔道警備隊勤めだが、肝心の魔法はお粗末なものだ。うちの新人よりも劣る。
緑啓石の兵器加工指揮を任されている。
……この兵器が厄介でな」
さらりと魔道警備隊に対して不信感を抱くような事を付け加えつつ、ヴァローナは懐から小さな緑啓石を1つ取り出した。
一見宝飾用に磨かれた緑啓石のようだが、その中央には魔法によって不思議な文様が刻まれている。
「緑啓石の性質を利用し魔法を吸収してため込ませ、衝撃を合図にそれを放出し周囲を破壊する……魔石の爆弾だ。
グリースはこれを新商品として流そうとしている。
侯爵の方にも、横領を隠しつつ売り込む予定のようだ。
もしそうなれば、難敵に更なる武器を与えてしまうことになり、我々の得意とする魔法も迂闊に使えなくなる」
ここに件の爆弾があるということは、ほぼ完成状態であり売り出しまで猶予がないという事だ。
ヴァローナが淡々と説明する分実感が湧きづらいが、状態はかなり逼迫していた。
「最後に、バル・ヒュース。ヒュース男爵家の次男。
レヴルナール領ではなく、西方のスインリエフ辺境伯領、国境付近の関所の1つを任される家だが……
他国からの諜報部隊の窓口、密入国に違法貿易。調べれば調べるほど汚職が発覚する酷い有様だ。
恐らくこいつが、他国の技術をシュヴァーへ横流しした」
スキンヘッドの、山賊と見まがうような人相の悪い男が、黒板に浮かび上がる。
この爆弾は今も苛烈な内戦を繰り広げる隣国の兵器らしい。
戦争を嫌う現王は如何なる場合をもっても、他国兵器やそれにまつわる設計図や製法を自国に輸入してはならないと法令を布き、関所での荷物確認は徹底されているのだが、関所の責任者なら裏をかく方法はいくらでもあるのだ。
「3人の中で一番の武闘派であり、王国騎士団では力自慢で鳴らしている……が、ここでは荷物持ちと二人の護衛が主な仕事だな」
ここにいる面々を見るに、直接戦うのならタビーが相手をする事になるのだろうとは予想できる。
大丈夫なのかとラトゥーリアはタビーを見たが、彼女は武闘派と戦えると聞いて目を輝かせており、ラトゥーリアの心配は杞憂に終わる。
「実行は、侯爵との会合が予定される今晩。
セルドー鉱山から商品を運び出される前を狙う」
ヴァローナが指を鳴らすと、ラトゥーリアたちの手元に作戦の詳細が書かれた羊皮紙が出現した。




