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魔法の練習

1−30

「……雪狼姫様」


 身体が温まって来たところで、キャリコが分厚い本を抱えてやって来る。


「早速、魔法を教えに来ました」

「ありがとうございます!」


 勉強会はその後無事承認され、ラトゥーリアを無理させない、無茶させないスケジュールが組まれた。

 その記念すべき第一回だが、本当は作戦後の予定だったものを、短時間で良いからと頼み込んで前倒しにしてもらったのだ。

 少しでも魔法が使えれば、作戦で不測の事態に陥ったとしても、多少は自衛手段になるだろうと考えての事だった。

 

「無理させないです。視線痛い」

「魔法切れはくれぐれも、いいね?」

「大丈夫」


 魔法が苦手だと常々聞いていたので、ルフトはずっと険しい顔をしている。

 キャリコもそのあたりをしっかりと承知しつつ、ラトゥーリアなら大丈夫と信頼しているようでもあった。


「今日は魔法の出し方について」

 

 改めて、魔法の基礎中の基礎からだ。

 この国の殆どの民は、少し学べば小さな火を出したり、風を起こしたりする程度なら感覚的にできるはずだが、ラトゥーリアはこの時点で躓いていた。

 ヴァローナの見立てでは魔力の暴走のせいで、感覚が鈍ってしまっているだけらしい。

 キャリコの助力さえあれば普通に扱えるようになるとの事だったが、魔法への苦手意識が強いラトゥーリアは信じ切れずにいた。

 

「雪狼姫様、目を瞑ってください。

 そして、自分の血の流れを感じ取ってみて」

「血の……流れ……」

「さらさらとした音。

 春の小川に似た音、思い浮かべてみて」


 キャリコは最初、瞑想するように脱力して目を閉じて見せた。ラトゥーリアもそれに倣う。

 暗がりの中で自分の中に流れる血潮を感じれば、音も自然と思い浮かんでくる。


「流れに沿って、風が吹き抜けていくのを想像してください」

 

 その風が、自分の魔力なのだという。

 驚いたことに、今までラトゥーリアが学んできた魔法の使い方とは全然違う。

 今まではともかく力を込め、いきんで、熱心に想像をして念じろという方向性で、息苦しかった。

 キャリコの教えは穏やかで、心地良い。

 

「その終点は、掌。

 掌は岩、崖。流れが弾けてぱちぱちと水の花を作る」


 意識が自然と掌に向かっていくと、掌にじわりと、熱がこもっていく。

 今までこんな事はなかった。不思議と今なら使える気がすると、心が躍った。


「そのまま、水を出すぞって想像」

「っ……!」


 ラトゥーリアは言われた通りに放った。魔力は確かに水となって放出された。

 だが、川と想像した通りの大量の水が放出されてしまい、ラトゥーリアとキャリコは思いきり水を被る羽目になってしまった。

 

「で、できた……?」

「素晴らしい。よくできました」


 濡れ鼠になりながらも、ラトゥーリアは達成感で笑顔が零れた。キャリコも釣られて微笑む。


「病み上がりをびしょ濡れにしてどうすんだーこらー!!」


 そしてルフトは、絶叫した。

 治癒魔法で肉体の怪我こそ早々に治したが、ラトゥーリアの怪我は本来もっと回復に時間をかけるべき重傷だった。

 日常生活を送れるようになってきたとはいえ、体力はまだまだ戻り切っていない。

 医者の見地では、まだまだラトゥーリアは病み上がりなのだ。


「雪狼姫様が素晴らしかったです。思った以上に」

「それはそう……なんですけどぉっ!」


 身をよじって唸り出したルフトを見て、キャリコはびしょ濡れになったラトゥーリアと自分を温風で即座に乾かしておいた。


(これなら、この感覚を覚えておけば、或る程度……!)


 ぎゃあぎゃあ騒ぐ2人を他所に、ラトゥーリアはとても嬉しそうに自分の両掌を見つめていた。

 そうしているうちにタビーが作戦会議の時間を知らせに来たので、3人そろって気を引き締め直した。

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